初めての狩り友
ミロンの村は海に面していて、小さいが港もある。村の前を流れる川はそのまま海に繋がっていて、プンは川で蘇生された後、泳いで海に出ようとした。
『お魚いっぱい取ってくるね、獲りたてはきっとおいしいよ^q^じゅるり』などと言って、犬掻きで大海原へ漕ぎ出したプンは、またもHPゲージがやばいことになっていた。
リターンを使って、強制的にミロンへプンごと帰還させる。即座に周囲は石造りの簡素な家が立ち並ぶ、閑散とした風景に早変わりした。
「エルくんのイジワル! お魚はDHAがたくさん含まれてるんだよ! お肉ばっかり食べてたらダメなんだゾ! ぷんぷん><」
「お前はアホか」
プンがぷんぷん言い出したので、一蹴してやる。そもそも、このゲームに狩猟とかの要素は無い。
海中を行けば、たまに水中型のMOBと出くわすこともあるが、狩ったところで手に入るのは経験値と少量の金だけだ。それにオレの食生活は野菜が中心だ。ピーマンは苦手だが……。
「プンはアホじゃないよ! プンだもん><」
意味が解らん。
けれど……確かにオレも始めたころ、ミロンの村の前で川に飛び込んだことがあったな。その時、偶然近くにいたヤツも泳いでて……一緒に泳いだことが縁で狩り友になって……色んな所に行ってバカをしたものだ。
世界が新鮮に見えた。目に映る全てが、キラキラ輝いていた。場違いなくらいレベルの高い狩り場へ迷い込んでしまって、ザコMOBに瞬殺されたり、エリアボスと知らずに殴ったら、他のパーティーメンバーまで巻き込んで全滅したり……。
プンもそうなのか。今のプンには、この死に掛けのカオス・クロニクルが、とてもキラキラと眩しい世界なんだ。オレにとっては……ヒマな時間を潰す、ゴミ箱みたいな所なのに……。
プンもやがて思い知るはずだ。この世界は、自分が思っているほどキレイなんかじゃないことに。
MMOと言っても、リアルと一緒なんだ。なりたい自分になんかなれない。結局、ここにいるのは現実の自分だ。
それは他のプレイヤーも同じ。『人間』なんだ。『人間』は……残酷だ。昨日まで友達だと思っていたら、今日は平気な顔して、裏切れるんだ。
だからオレは……誰も信じない。リアルもMMOも、信じられるのは自分だけ。他の奴らは、最後には敵だ。友達ごっこの果てにあるのは、残酷な結果だけ。
プンにもそれを教えてやらなければならない。実際、プンだってギルドに誘われておきながら、誰にも相手にされていないじゃないか。
プンなら、解るはずだ。
「って、またか! どこ行った、プン!」
「ここおおおおお;;」
なんと、すぐ真横からプンの悲痛な叫び声が聞こえるではないか。カメラを右に向けるが、そこには誰もいない。
プンは確かにそこに存在するのだが、石の壁以外何もない。すると急に、石の壁から人の顔が生え出てきた。
「うわあああああ!?」
「壁にめり込んじゃった、もうお嫁にいけない、つ-;ぐすん」
移動不可状態になって、壁と同化していたらしい。再度リターンを詠唱し、プンを救出すると、村長からクエスト『ゴブリン討伐』を受けさせ、当初の目的地、ゴブリン前線基地へと向かう。
村から歩いて移動すると時間が少しかかるので、テレポーターを利用することにした。
テレポーターは、少々お金を使うが、一瞬で狩り場や他の村に移動できる便利な機能だ。村の広場に突っ立っている若いヒューマンの女性がテレポーターだ。
彼女の前に立つと、プンにゴブリン前線基地へのテレポート代を手渡し、移動する。
一瞬で目の前の景色が移り変わり、不気味な背景が画面いっぱいに広がっている。
BGMも、それまでのどかだった村のそれから、緊張感のある、今にも戦いが始まりそうなRPGっぽいのに変わる。
前線基地と言っても、切り崩された岩山に木で出来た簡素で居住性のなさそうな小屋が数軒と、丸太を縦に並べただけの柵が周りを覆っているだけ。
所詮ゴブリンの巣である。MOBのHPもそう高いほうではないので、楽に倒せる。
とはいえ、ここをナメてかかると痛い目に合う。ここのMOBはHPが20%以下になると、命乞いをしながら、小屋に逃げ出そうとそる。
逃してしまったら……その時は終わりだと思ったほうがいい。
数匹のエリートゴブリンを引き連れて戻ってくるのだ。数は2か3と大したことは無い、問題は奴らの能力が他のザコMOBと一線を画しているという事だ。
その分、倒したときの経験値と獲得金額もバカに出来る量では無いし、高確率で装備アイテムをドロップする。
上級者の中には、あえてこれを狙う者もいる。だが、装備が貧弱な上、フェイブのプンではまず詰むだろう。
そこで、オレの出番というワケだ。ターゲットを引き離すのは何も、ナイトのヘイトばかりじゃない。
ヒールライトを連発すれば、MOBの優先はヒーラーに向かう。ヒール系のスキルは敵対心を煽りやすく、無闇に連発すればヒーラーが襲われてしまうのだ。
そこを逆手に取る。あえてプンにヒールを連発してターゲットをオレに向けさせる。このレベル帯の攻撃なら、ローブ装備のオレでも十分に耐えれる。
その隙にプンに各個撃破させ、一気に成長させる。ちんたらやっている暇は無い。明日は月曜日。学校もあるし、0時には寝ておきたい。
「行くぞプン。オレについて来い」
「あい! @@ゝ なんだかエルくん、頼もしい~。もしかして、エルくんて弟さんか妹さん、いるの?」
オレの後ろをぴょこぴょこ付いてくるプンが、無遠慮に質問を始める。
「いるよ、二つ下の泣き虫な弟が一人」
「やっぱりー! エルくんて頼りになる優しいお兄さんって感じがしてたもん^^」
「違うよ、オレは」
と、そこまで喋りかけて後悔した。基本的にオレはリアルを語らない。ゲームはゲームだ。ここは出会い系サイトじゃない。
相手のリアルにも興味がない。オレは、ゲームをしているんだから。
「プンはね~。一人っ子なんだあ。いいな~兄弟><」
「そうか」
「エルくんエルくん! エルくんはどんなお仕事してるの? プンは高校生だよ^^」
高校生か。確かにそんな感じがするな。リアルのプンも、のほほんとしてて、天然なヤツかもしれない。
「エルくんって落ち着いてるよね~@@ もしかして、30代の大人だったりする!? キャーーー渋い!」
「誰が30代だ!? オレもお前と同じ高校生だよ。高校2年生だ、17歳だ。文句あるかコラ! あるなら20文字以内で言ってみやがれ!」
しまった。ついつい熱くなって個人情報を一部だが開示してしまった。にしても、なかなか失礼なヤツだな、プンは。
「えーーー@@ 同い年なんだ~エルくんってやっぱりすごいんだね。プン、尊敬しちゃいます><ゝ」
どこに敬意を表す部分があるのか解らないが……やっぱこいつ、苦手だ。ペースを崩されるし、行動が読めない。
「……ここでいいか」
ゴブリン前線基地はそれなりに面積が広い。入り口付近は比較的MOBの数が少ないし、レベルも低めだが、奥のほうに行くと、前述の小屋もあるしワンランク上のゴブリンも出てくる。
岩山の崖になっている所に、木でできたお粗末な小屋……その周りには、6匹のゴブリン。当然、リンクする。適正レベルのプレイヤーが突っ込めばたちまちピンチだが、オレはその適正レベルから20以上高い。
ゴブリンの群れに突っ込んで奴らの注意を引き付ける。一斉に奴らから袋叩きに合うが、ダメージは一ケタ台だ。
「よし、オレが引き付けている間にやれ、プン!」
「あい! @@ゝ」
プンの装備している剣が、背後からゴブリンを切り裂く。数回の斬撃を繰り出すとゴブリンは力尽き、地面に倒れフェードアウトし、消える。
やはり、ナイトであってもフェイブだ。攻撃力は他の種族のウォーリア並みである。
瞬く間にプンは全てを平らげる。思ったよりもプンの火力は高いらしい。これならレベル上げにそう時間はかからないかもしれない。
時間が経てば、すぐにゴブリンが出現するのだがそれだと時間が惜しい。別の場所から数匹引いてくるか。
そう思って移動しようとしたときだ。
スピーカーから、戦闘音が聞こえた。剣撃のSEや、ダメージを食らったときのSEに、男の太い声。
「他にも狩をしているプレイヤーがいるのか」
「珍しいね@@」
ここからそう遠くない距離にいるようだ。そうだ。丁度いい。そのプレイヤーとプンを一緒に狩らせよう。二人が狩り友になってくれれば、プンの育成をそいつに任せてしまえる。
「プン。一緒に狩りをする友達が欲しくないか?」
「欲しいーー><」
「なら、ちょっと行ってみよう」
プンを引きつれ、音の発生源のエリアまで行くと、そこでは緑色の肌の大男が巨大な剣を両手で振るい、ゴブリンを力任せに切り裂いていた。
「オークだ。オークウォーリアだな、あれは」
6つの種族の一つ、オークは非常に高いHPと高い攻撃力を持っている。特に近接武器を得意とするウォーリアとの相性がいい。
反面、足が遅く命中率も低いが少数の人間には好まれている。おおくの人間は、そのビジュアルで好き嫌いが分かれるところだろう。
かっこよくもなければ、かわいいわけでもない。肌は緑色で、髪もスチールウールみたいに硬そうで、筋肉モリモリ。
はっきり言って、イロモノだ。だが、オーク間での友情は厚いらしく、オーク専用挨拶があるらしい。それくらい一部には人気がある。
「プンもオークにすればよかったのにな」
「えーー嫌だよ、かわいくないもん><」
あのオークの大男がプンのようなセリフをしゃべって、死にまくるとする。
……うん。蘇生してもう一回殺すな。オレなら。
「フェイブでよかったな、プン」
「@@?」
オークがその場にいたゴブリンを全滅させたのを確認して、オレは近寄った。
「すみません、もしよかったらこの子と一緒に狩りをしませんか?」
オークは剣を構えたままの姿勢で硬直する。数秒間があって、返事がきた。
「ぬを。ぼくちん如きでいいんですかい? レベルも低いし、装備もショボーンですぞ(´・ω・`)」
「こっちも似たようなものだし、オレが外部でヒールするんで気にしなくておk」
「ぬを。ほんじゃお言葉に甘えて! ぼくちんキラ・ヤマモトです、オークウォーリアのレベル21です。別のサーバーから移住してきますた」
「へえ、何で?」
「PKギルドが我が物顔で狩り場占領するんですお。ぼくちんのメインキャラだったラクス・クラタや、アスラン・ザマもよく彼らの毒牙にかかり……コロニーへの移住を決断したのです。地球の重力の井戸に引かれたままでは、ニュータイプに覚醒できないと思いますて」
……オタクかよ。
それにこのサーバー名、コロニーじゃねーし。
「なんだか解らないけど、すごい理由があったんだね@@! punpun321だよ~プンって読んでね^^」
プンがヤマモトの前に出て、くるっと踊って見せた。
「ぬお。フェイブっ娘! プンちゃんハアハア」
「ヤマちゃんおもしろーい^^ よろしくね!」
またひらりと舞ったプン。ヤマモトは無言であっちにいったりこっちにいったりと、プンの周りをうろちょろしていた。
「何やってんの、ヤマモト?」
「どのアングルが、一番ベストかなって、白っていいよねえ。うぷぷ。中尉もそう思わんかね?」
「^^?」
プンはヤマモトの変態行為に気付いていないらしい。あと、誰が中尉だ。
「この変態が! やっぱりお前はいい! あっちいけ、しっし!」
「ぬお。変態とは失敬な! 僕は」
ヤマモトのソーシャル『笑う』でオークの巨体が反り返り、豪快な笑い声がスピーカーを振動させ、部屋に響いた。
「ド変態だ!」




