ぴゅあ
「ぴゅあさん、アイスバレーの場所はわかりますか??」
「はい、大丈夫です^^」
「じゃあ、現地に集合でお願いしまーす」
「迷子になっちゃダメだよ~^▽^σ」
プンが偉そうなことを言った。
アイスバレーは、ラグリアのテレポーターから一発で移動できる60代後半の狩場だ。
名前の通り、氷でできた谷で、水属性のMOBがうろちょろしている。ケルのダンナがいれば、相性のいいMOBばかりで狩りも楽に進むのだが、リアルの都合では仕方が無い。
そういえば、ケルはどんな女性なのだろうか……優しいお姉さん、という印象があるが、時折厳しい一面も覗かせる。きっと大人なんだろうけど……いやいや、ギルメンのリアルを詮索する資格はない。
気を取り直し、ラグリアからアイスバレーにワープした。プンは先に飛んでいるので、それを後を追う形になった。はずだったが。
「プーン、どこいったの?」
「皆が来るまで周りをちょっとお散歩してくる^^ すぐ戻るからね!」
悪い予感しかしない。
やがて、ヤマモト、グラムが到着し、残るはぴゅあのみとなった。
「……ぴゅあさん? 場所は大丈夫? ラグリアからテレポーターで飛べばすぐだから」
「は、はい>< それが、もう現地に着いてたんですけど、ここに来るの初めてで、辺りを色々見て回っていたら迷子になっちゃいました、ごめんなさい;;」
「あはは^▽^ やっぱりプンの思った通り~~。ぴゅあさん迷子になっちゃったね。でも大丈夫! ここは暁の空ギルドマスターである、punpun321にお任せなさい!」
「わあ、頼もしいです^^ punpun321さんって、ヘンな名前だけど、頼りになるんですね!」
「ヘンな名前言われたーーー>< しくしく……後でエルくんに慰めてもらおっと!」
「それよりプン。ぴゅあさんを捜索するから早く戻って来い」
「はーい! あれ? あれれ?」
「どうかしたか?」
「……ここどこ? ;;」
「本当に頼りになるギルドマスターさんだな、お前は」
結局、プンとぴゅあという二人の迷子を捜すことになった。
20分くらいして二人を見つけ、MOBの攻撃を受けないよう、突き出た氷の柱の下で、ぴゅあに簡単な自己紹介をすることになった。
「(°д°;)」
「どうした、ヤマモト?」
「Σ(°д°)」
「ぼく、ぴゅあっていいます! 最近始めたばかりですけど、一生懸命やっていますので、よろしくお願いしまーす^^v」
ヤマモトはぴゅあの周りをうろうろしながら、途方にくれていた。
「ぴゅあさんって、なんか可愛らしい女の子なイメージだったけど、男の子なんだね! よろしくねー」
「よろしく」
プンとぴゅあは、ソーシャル握手でがっしりと手をつないだ。遠くからグラムも挨拶をすませたが、いまだにヤマモトはあたりをウロチョロしたままだ。
「ほらヤマモト。ご挨拶は?」
「認めないもんね! ぼくちん絶対認めないもんねーーーー(>д<) だってだって、ぴゅあって言ったら、純真潔白、容姿端麗、ロリ巨乳で、妹属性で、金髪幼女なイメージしかわかないもん!!!!」
ヤマモトはシャウトでワケの解らないことを叫んだ。
「ぴゅあは、最強の男なんです! ぼく、こんな風になりたいんです。強くて、誰にも頼らなくて、筋肉モリモリで……」
よほどのオークマニアなのだろうか? ぴゅあは相当キャラにこだわりがあるらしい。
けどまあ、ヤマモトのいう事も少しわかる気がする……このドでかい図体に、ぴゅあという名前はミスマッチなことこの上ない。一体どんなセンスの持ち主なのだろうか……プンに引き続き、またヘンなキャラに出会ってしまった気がする。
「ぴゅあさんは、ギルドに入ってるの? まだなら、うちにおいでよー。おやつも食べ放題だよ^q^」
そんな事実は無い。
「あ、ぼくギルドなら入ってます! 椛さんがギルドマスターの灰色の狼です!」
ぴゅあは巨体を揺らし、ギルドマントを背中に羽織った。ぴゅあの背中には、猛々しい狼の顔がドット絵で描かれている。
彼は、灰色の狼のギルドメンバーだったようだ。そういえば、椛は元気だろうか……? 少し前に灰色の狼で揉め事があったようで、その後、椛がギルドマスターになったことが外部掲示板などに書き込まれていた。
椛が連子を倒して、ギルドマスターになり、倒された連子は引退してしまったというのだ。
思うところは色々ある。1年前のことも、ルシエドの件で連子に迷惑を掛けてしまったことも……結局、連子に謝ることができなかった。
天秤のように揺れる自分の心。古巣となった灰色の狼は、椛を中心に新しく生まれ変わった。
カインがいたころのように、ギルドハントも活発になって、ヴァーミリオンなどのPKギルドも、灰色の狼メンバーが狩り場を巡回することで、すっかりナリをひそめている。
混沌としていたこのサーバーが平和になりつつあるのは、椛のおかげだ。
そんな椛がいる灰色の狼に、戻りたい……などと思うのはムシがよすぎる話。
今のオレには、暁の空という新しい我が家ができた。
どちらもというワケにはいかない。けれど。
灰色の狼と暁の空……カインとエルト……揺れている。
天秤の上でその二つが揺れている。
どうしたいんだろう?
オレは……私は……答えが出ない。
「椛の……椛は元気でやってるの?」
「はい! 椛さんはやっぱりすごいです! ぼくの師匠でお兄ちゃんです^^ 色んなことを教えてもらいました」
「お兄ちゃんと、色んなこと……すごい……教えてもらった……」
グラムが何故かその単語に反応した。
「フフ」
グラムは一体何を考えているのだろうか……時折解らなくなることがある。
「そっか。ぴゅあはいいマスターに巡りあえたね。うちのとは大違いで羨ましいよ」
「エルくんのバカーーーーーーー>< プンだって一生懸命やってるんだゾ(>д<)」
「あはは^^ よかった、いい人たちとパーティーが組めて。改めてよろしくお願いします、皆さん!」
ぴゅあと打ち解けたオレ達は、さっそく狩りに入った。
オークエンチャンター……その上級職は、『ヘルスクリーマー』と言う。実はカオス・クロニクルの中ではこのヘルスクリーマーがもっともソロの効率がいい。
バッフはもちろんのこと、オークの高いHPと攻撃力でウォーリア系列にもひけをとらない火力を持っている。……後は見た目の問題だが。
ぴゅあが、メンバー全員にバッフをかけ狩りがスタートした。
アイスゴーレムという、氷の塊に手足が生えた感じのMOBに、プンがヘイトを掛ける。――が、すぐにヤマモトにターゲットを奪われてしまう。
「ぬを。MOBがこっちきたお(°д°)」
「あれーーー?? 失敗しちゃったかな?」
違う。おそらく、プンのヘイトよりもヤマモトの火力が圧倒的に勝っているんだ。やはり、30後半のスキルではもう限界……いや、とっくに限界は来ていたか。
早くプンをデスブレスにしてやる必要がある。
「プン。とりあえずそのままヘイトでMOBを引け。ヤマモトにタゲが移っても気にするな。ヤマモトはHPも高いし、重装備だからサブタンクとしても機能する。ウォーリアがFAする場面だって無いわけじゃない」
「わかったー」
狩り再開。
プンのヘイト後に、ヤマモトが攻撃を仕掛ける。さらにそこをグラムが遠距離から弓で狙い撃つ。だが、今度はグラムの弓がクリティカルヒットを出して、アイスゴーレムはグラムを狙って右往左往した。
ダメだ。MOBがうろちょろして、ターゲットが定まらない。これはあまり効率的とは言えないな。
さて、どうするか……。
「あの~」
すると、ぴゅあがおそるおそると言った感じで、発言してきた。
「ぴゅあのスキルに、リストレインっていうのがあるんです……えっと、説明文には15秒間動きを封じる……と、あるので……だから、その……」
「はっきり言え」
「あ、はい>< プンさんがヘイトをして、適切な距離まで引いたら、ぼくがリストレインをかけてMOBを足止めします。それなら、グラムさんにターゲットがいっても、攻撃されることは無いのでヤマモトさんにターゲっトが固定できると思います。どうでしょう?」
「うん。そうだな。そうしようか」
「はい^^」
ぴゅあのアドバイス通りに再開。プンがヘイトし、MOBとプンの距離が縮まる。そこをぴゅあの束縛魔法『リストレイン』がMOBを縛り付ける。動かなくなったところに、グラムの矢が命中し、MOBのターゲットはグラムに向くが、動かない。
動かない所に、ヤマモトのスキル『クリティカルブレード』が炸裂し、狩りはスムーズに進んだ。
「ぴゅあのアドバイスのおかげだな。ありがとう、助かったよ」
「えへへ^^」
「ぴゅあくん、えらーい、よしよし。お姉さんがナデナデしてあげよう^^ノ」
「(°д°)」
「どうした、ヤマモト?」
「これで、ロリ巨乳で金髪幼女で妹属性だったら……(*°д°*)」
まだ言ってる……。
その後しばらく狩りをして、オレ達は少し休憩することになった。
「ちょっとコーヒー取ってくる」
「いてらー^^」
「コーヒーですか? ぼく、二つ年上のお姉ちゃんがいるんですけど、お姉ちゃんも大好きなんです、しかも、ブラックしか飲まなくて……」
「ぬを。二つ年上のお姉ちゃん……ハアハア(°д°)」
「へ~。じゃあ、エルくんと一緒だね^^」
「そうだな」
「実は、そのお姉ちゃんのことで、最近困ってるんです……」
「ん、何かあったのか? よかったら相談に乗るけど」
「実は……うちのお姉ちゃん。ものすごくだらしないんです。部屋は散らかり放題だし、家の中を下着姿でうろちょろするし……」
「ぬをををををを!? し、下着姿でうろちょろ……なんという、うらやま!」
「それで……今度ぼく、女の子の友達を家に呼ぶことにしたんですけど……お姉ちゃんに会いたがってるんですよね、その子。それで、あんまりみっともない所、見せたくないからなんとかしてもらいたいんですけど……どう声をかけたらいいか解らなくて」
「今、なんつった(°д°)?」
「はい? どう声をかけたらいいか解らなくて、ですか?」
「ちがあああああああううううううう!! 『女の子の友達を家に呼ぶことにした』!? ああああああああ!? この腐れリア充があああああ! くたばれ! そして、くたばれ! Re:くたばれ!! 少しはもてない中尉を見習えm9(>m<)」
「ヤマモト、お前がくたばれ」
容赦なくグラムがヤマモトを切り裂いた。
「ぐすん(;д;)」
それにしても……なんて女だ。下着姿で家の中をうろちょろしているだなんて……みっともないにも程がある。
部屋が散らかり放題というのも気になる。そんな女には、ガツンと言ってやったほうがいい。うん。
「ぴゅあ。そんな姉貴には思い切り言ってやれ! 下手に出るからダメなんだ。自信を持って殴りつかむくらいの勢いで言ってやれば、お前の姉貴も自分の非を認めるさ」
「そう……ですね! 解りました! さっそく言ってきます! では!」
ぴゅあは離席したのか、その場に座り込んで動かなくなった。
「じゃあ、オレもコーヒー入れに行って来るよ」
そうチャットで発言して、腰を上げたとき。
「おねーちゃん! ぼくだよ、あけてーーー」
ドアをノックする潤の声。
なんだろう? お風呂かな? 先に入ってくれても構わないのに……。
とにかく私は、ドアを開けてみた。
すると。
「も、もう怒ったからね! ぼく、許さないよ!」
「何が?」
潤はびくびくしながら、右の人差し指を私にビシ! という感じに向けてきた。
「あの、だから……その……ね?」
「あー。そっかそっか。ごめんね、潤。あんたに借りたCDまだ返して無かったね。ちょっと待ってて、確かそのへんに埋もれてるはず……」
私は部屋の中を掘り起こした。それにしても、ぴゅあの姉というのもまただらしない奴だ。部屋を散らかしているだなんて……。
私の部屋も散らかってはいるが、これはわざとだ。こうすることで集中力を増すことができる。それに、ここは私の城。誰かにとやかく言われる筋合いは無い。
「お、お姉ちゃん!」
「んー? もうちょっと待ってー」
「だ、だらしない……ですよ。その、かっこ……」
「ん? ああー。姉弟なんだし別にいいじゃない。あ、あったあった! ほら、これでしょ!? 潤の大好きなAKD84のアルバム~。ふふ。ねえ、どの子がタイプなワケ?」
「え、いや。それは」
潤は顔を真っ赤にすると、私の手からCDをひったくり、逃げるようにして部屋に引っ込んだ。からかい過ぎたかな?
私はみんなを待たせてはいけないと思い、すぐに下に降りてコーヒーを淹れると自分の部屋に戻ってゲーム画面を見た。
「ただいまー」
「おかえりなさい^^」
「おか」
「中尉、お帰りでアリマス!」
「ぴゅあ。どうだった? ガツンと言ってやったか?」
「はい、もうバッチリです^^v お姉ちゃんも反省して、泣きながら心を入れ替えるって誓ってくれました」
「そうか、それはよかったな」
ぴゅあの姉にも困ったものだ。




