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アップデート前夜

 その昔、人は神々に反旗を翻した。人は、愚かだった。世界の全てを手に入れ、地上の支配者となり、命を創り出す奇跡すらも手に入れた。


 その(おご)りは、自らの造物主たる神すらもその手中に収め、神の力を手に入れようと愚に愚を重ねる事となった。


 神は嘆いた。我が子である人が武器を手に取り、愚かしくも自分の真似をして命を作り出し、天上の楽園に火を放ったのだ。


 神は裁きを下した。地上に雷を放ち、人類の砦と呼ばれた、古代人最大の都市、さらにその中心部にそびえ立つ、当時の支配者である皇帝の居城を一瞬で破壊した。


 二度と愚かな考えを抱かぬよう、命を創造する秘術……科学技術を奪い取り、大きく戒めたのである。


 人は生活基盤である科学を奪われ、混乱を極めた。その混乱を突いたのが魔界の悪魔達である。


 魔界と地上の門を開き、神と人が争ったタイミングを逃さず戦いを挑んだのだ。


 神は負ける事は無かったが、戦いは三日三晩に及び、神の使徒たる天使が数多くの命を散らし、地上に落ちた。神に討たれた悪魔もまた、同様に地上に落ちた。


 地上に落ちたそれら人外の者達の無念は、黒い霧となって世界を覆い尽くした。


 神は悪魔達に勝利したものの、大きな傷を負い、深い眠りに付くことを余儀なくされた。


 地上に残された人々は、神に救いを求め、祈りを捧げた。その祈りこそ、神を信じ奇跡を願う力こそが、魔法の始まりであった。


 人々は科学を失った代わりに魔法の力を手に入れた。それは、悪魔やその眷属である魔物と戦う力となった。


 しかし、世界を覆った黒い霧の中で人は長く生き続けれない。限界があった。


 そこで、他の種族、エルフ、ダークエルフ、オーク、ドワーフらと協力することになった。


 黒い霧を払うべく世界を元の清浄なる姿に戻すために、各種族の若者達が互いに手を取り合い、世界は徐々に希望の光で黒い霧を晴らしていった。


 そして、今また新たに霧は晴れ、前人未踏の大地がその姿を現す。


「ていうのが、カオス・クロニクルのストーリーなんだけど……毎回のアップは、この黒い霧が晴れて新フィールドが発見されるっていう設定なんだよな。フェイブも、それまで霧に包まれて行けなかった場所で、人に捨てられ自分達だけで生活し、独自の文化を気付いて一種族として独立した彼らを、ヒューマン達が発見した事で共に戦うようになったっていう、エピソードがある。今回は、そのフェイブに掛けられた封印が一つ解けて、デスブレスっていう職業が追加されるって設定なわけ」


「おおおおおお、知らなかったよお\(。▽・)ノ」


「お前、それでよくデスブレスになりたいなんて言えたな。今の今まで……この三週間、頑張ってレベル上げを手伝ったのはどこのどいつだ、言ってみろプン」


「エルくんでーーす! >。<b」


「そう、オレだ。感謝しろよ。それと、もうちょっと次のアップについて予習しとけ」


「あい! ≧△≦ヾ」


 ここは、ラグリアの神殿。アップデートをいよいよ明日に控えたオレ達は、明日のアップ内容をおさらいしていた。


 新スキルの追加は、PVPに大きな影響を及ぼすだろうし、新規狩り場でドロップされるアイテムは、当分は高値で取引される。情報全てに目を通し、他のプレイヤー達に遅れを取りたくは無い。


 特に、新装備アイテムに関しては注意が必要だ。アップ当初はおそらく相当な値段で取引されるだろうが、時間の経過と共に価値は下がっていく。


 コレクターはどんなに高値でも欲しがるだろうが、すぐに手を出してしまうと後々相場がだだ下がりして、大損してしまうかもしれない。


 金策は重要だ。これを怠ると、いつまでたっても装備を買う金が手に入らず、貧乏プレイヤーなままだ。


 クエストや狩りでも金は稼げるが、それだけでは装備を揃えるための資金にはなりえない。


 単純に狩りをするだけで楽に金が稼げるのなら、そもそもRMT業者は商売あがったりだろう。


 それに、資金は何も装備だけに必要とは限らない。アジトを購入するためには莫大な金額を揃えなければならない。


 暁の空も、いずれはアジトを持ってギルドをメンバーを増やして……と、プンが考えているのかどうかは解らないが……。


 とにもかくにも、これを機会にプンを狩り以外についてもお勉強させてやる必要がある。


 装備の価値が下落する要因はいくつかあるが、今回のアップでは、経験値テーブルが縮小……つまり、従来よりもレベルアップにかかる時間が短縮されるのだ。


 それに伴い、今まで店で売られていなかった60レベル代前半の装備が買えるよう変更される。


 そうなると、現行の60レベル代前半の装備は今の価値を失う。


 現に、ラグリアの個人商店では、60レベル代の装備が投売りに近い状態で売られ始めている。


 通常、製作かドロップでしか手に入らないアイテムは、NPCの売却額にいくらか上乗せしてプレイヤーは販売する。その上乗せする金額もプレイヤー次第で、2倍の金額にまで上乗せする奴がいれば、ほぼ原価そのままという良心的なプレイヤーもいる。


 しかして、正直者がバカを見る世の中はリアルもゲームも同じだ。ズル賢い奴は、その良心的なプレイヤーから買い取ってそれを倍の価格で売る奴もいる。それもそのプレイヤーの真横で売るという、なんとも言いようが無いほど呆れかえる。


 販売したプレイヤーには、買い取ったプレイヤーの名前が解るのだ。それが隣で堂々と自分の倍の値段を付けているのを見たらどう思うか……。


 これは、実際にオレが経験したことだったりするけど……。


 プンにはそんな思いをして欲しくない。


 少し話がそれたが、今日ラグリアで待ち合わせたのは、金策について講義する為でもあった。特にプンは、ちょうどその60レベル前半に差しかかろうとしている。


 今何も考えずに装備を新調しようとすれば、明日以降必ず大損することになるだろう。その前に太目のクギを20本くらい刺しておかないと、こいつは何も考えずにほいほい買い物して、ギルドハントで見せびらかす。


 ……きっと小遣いももらったら即使うタイプなんだろうな……人の事はあんまりいえないけど。


「プン。もうすぐ60レベルだな。まったく、手間がかかったよ……デスブレスになりたいだなんて言うもんだから、この3週間、本当に苦労した……何度死んだか数えるのも嫌になったよ、ほんとに」


「あはは^▽^ ありがとねー、プンは幸せ者です! エルくんみたいな優しい王子様に出会えたんだもん*^^*」


 王子様……ね。本当は違うんだけど、まあいいか。


 暁の空結成から三週間と少し……オレ達はギルドハントを重ねてみんなレベルが60代にまで上がった。ただし、プンはポカをやらかしまくり、少し遅れている。


 エルトは63レベルに。プンは59レベルに。ヤマモトはなんだかんだでログインしてて、65になっていた。リアルは大丈夫だろうか……?


 すぺりおる、ケル、グラムもまた60を過ぎたところだ。


 今日もこれからギルドハントにみんなで出かける予定だ。アップ前最後のギルドハント……少し感慨深いものがある。


 プンを今日中にレベル60にまで上げて、明日デスブレスにしてやろう。


 オレはプンに先ほどの金策について説明した後、ラグリアの個人商店を回って手取り足取り教えてあげた。


『りょうかい~^▽^ヾ』


 と言っていったから、完全に解っていないだろう。直感的にだが、解る。


 やれやれ……出来の悪い子ほどかわいいかもしれない。潤もそう。手間のかかる弟だ。


 なんだかんだで世話好きな自分がいることに気付いて、モニターの前で少し苦笑いをする。


 潤といえば……この前、愛紗の家に遊びに行って帰ってくると、急に熱を出し寝込んだのでタイヘンだった。


 何か悪いものでも食べたのかと聞いてみたら、青い顔をしたままブルブル震えだして、心配になった。


 翌日、私が作った豚の生姜焼きを見ると泡を吹いて失神して……また家が大騒ぎになった。


 愛紗の家で一体何が……。まさか……!?


 ……愛紗め。潤を毒殺でもする気だったのだろうか。もしそうであるならば……黙ってはいられない。


 あんな、大人しくて素直で優しくてキレイ好きで誰に対しても分け隔てなく接する男の子はそうはいない。


 私は決して姉バカじゃない。断言する。控えめに見ても、潤はとてもいい子なのだ。


 その潤を……引き続き愛紗に対して警戒が必要かもしれない。


「エルくーん。おーい、エルくーん」


 モニターの向こうでプンが呼んでいる。すぐに私はオレに戻り、チャットに答えた。


「ああ、ごめん。なんだっけ?」


「もう、うっかりさんだなあ。もっとしっかりしなきゃ、ダメだよ~@@」


 お前にだけには言われたくないと、声を大にして言いたい。

 

「ああ、ギルドハントか。そうだな……今日はアイスバレーに行ってみよう。あそこは60代後半の狩り場だけど、フルパーティーで行けば大丈夫。今日中にお前のレベルも60にしたいしな」


「うん^^」


 ラグリアのテレポーター前でたむろしていると、さっそくオレ達以外のメンバーがログインしてきた。


「ヤマちゃん参上ーーー! これよりギルドハントに紛争介入する!」


 ヤマモトがあらわれた。


「こん」


 次にログインしたのはグラムだ。


「ぬを。プンちゃんハアハア。グラムたんにもハアハア」


「ハアハア^q^」


「いちいちギルドチャットでソレをやるな、恥ずかしい。グラムも何か言ってやれ、いい加減うざいだろ?」


 しばらく沈黙の後。


「ハアハア」


「お前まで言うな!!」


 グラムの奴、実はヤマモトのことが気に入ってるのかもしれない。


「ぬをーーーーー! グラムたんのハアハア……頂きました(°д°) よろしければもっともっとハアハアを……」


「うざい、死ね」


「え、えーーーーー!? ストレート過ぎです、もっとオブラートに包んでくれなきゃ、ぼくちん砕け散っちゃうぉ(;д;)」


「今のはエルトに言った。お前に興味は無い。そのへんでバナナでも食べてら」


 もはや定番になりつつあるヤマモトの挨拶と、それをあしらう二人。


「エルト。昨日エルトがログアウトした後、ケルは今日のギルドハント少し遅れる、すぺりおるは会社の飲み会で不参加って言ってた」


「そっか。じゃあ、これで全員だな。けど、アイスバレーに行くなら最低エンチャンターだけでも必要だ。しょうがない、野良で募集してみるか」


 オレはパーティマッチ画面を開くと、50~60レベルの区間でエンチャンターを募集した。


 すると、すぐに誰かやってきてオレはパーティーマッチを閉じた。


「よろしくお願いします^^」


「よろしくー」


「よろ」


「よろしくね、ぴゅあさん^^」


「ぴゅあ……美少女の予感なお名前……中尉、ヤマちゃんすでにハアハアをスタンバイしております(°д°)」


 オレ達は、ぴゅあ。というオークエンチャンターをパーティーに加え、アイスバレーで狩りをすることになった。

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