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真っ直ぐに羽ばたいて

 俺の言葉を合図に、連子との戦いが始まった。


 左 翔太朗がメンバー全体にバフをかけ、スレイんがコンディションを完全な状態にする。


 もちろん、それをただ突っ立って見ていたわけじゃない。これを妨害されるのが一番怖い。


 俺は即座に他のメンバーと反対方向に移動して、連子にフォースヘイトをかけた。


 左 翔太朗のバフがあるのとないのとでは、ぜんぜん勝手が違う。さらに、HP管理をできるスレイんは生命線だ。


 この二人を死守せねば、パーティーとして運用できなくなる。まずは、二人の作業が終わるまで俺が身代わりになり、時間を稼ぐ。


「魔剣スキル『ハウリングブラッド』を使え! 俺の後ろから常に発動。絶対に連子のマスフォースヘイト適用範囲に入るな。死ぬぞ!」


 スレイんが指示を出す。ハウリングブラッドは、先日椛が受けた魔剣士固有の遠距離スキルだ。加齢の王子様が魔剣を所持しているとはいえ、レベル差は覆せない。なにより怖いのが、魔剣を連子に奪われるという事。


 加齢の王子様は強力なジョーカーではあるが、同時に強力な地雷だ。諸刃の剣であるこいつを扱うのは、少し難がある。


「HAHAHA! 任せておけ! 見せてやろう、我が奥義、加齢うぇ~ぶを!」


 いつの間にか、ヘンなマクロまで組んでるし……性格にも難がありそうだ。ていうか、これ以上関わりはもたない方がいいかも……。


「椛はフォースヘイトで連子を一箇所に固定! HP管理は俺がやる。パックン、7は隙を見て後ろから攻撃スキルを叩き込め! 攻撃を当てたらすぐに離脱して一定の距離を取り、再び隙を見つけて叩き込む。以降繰り返し、左 翔太朗はバフを更新しつつ弓で狙撃。可能ならデバフを入れろ」


「わかった」


 スレイんを司令塔にして、それぞれが今できる精一杯をやる。全てを出し切れば勝てる。俺はそう信じる。


 ヴァンガード2を発動し、さらにその上にファイナルプロテクションを発動。そこに左 翔太朗のバフが乗って俺はみんなの盾になる。


 ――負けるもんか。


「レベル差があっても、人数と、バフ、ヒールがあるとうまくはいかんな。しかし、忘れてないか? 俺だってナイトなんだよ」


 連子もファイナルプロテクションを発動させ、その硬さを一層増した。


 そして、唐突に連子から椛へとウィスが飛んできた。


「”PVPなんて……もうかれこれ2年以上振りだな。今のスレイんの位置にカインがいて、今の椛の位置に俺がいた……。シャルレン、ぼんびー、蘇我、ごはんがおさむくん……。懐かしいなあ……俺達は6人で始まったんだった。けれど、それぞれがリアルの事情で、1人、また1人とゲームから姿を消していった。俺も今日を機会に消える。椛。俺を倒せ。お前の器を皆に示せ”」


「”言われなくてもそうするつもりだ”」


 ヴァンガード2を瞬時に解除して、ガラドボルグを連子に叩き込む。


 硬い。さっきよりも比べ物にならないくらい、硬い。それは、パックンの攻撃も、7の攻撃も、魔剣を用いた攻撃でも1以上のダメージを与えることが出来ないほどに。


 まずいな。いくらこちらに、スレイんのヒールがあるといっても、MPは無尽蔵にあるわけじゃない。ナイトは絶対的な火力を持つわけでは無いが、PVPに置いてその打たれ強さは尋常じゃない。


 それは、同じナイトである俺が一番よく解っていることだ。


 このままでは、押し切られる……!


 やがて、スレイんのヒールが途絶え、椛のHPがおびたただしく減っていく。


「すまん、MPポーションを使って随時ヒールする。少し持ちこたえてくれ!」


 途切れ途切れになるヒール。やがてそれは椛の命を緩やかだが、確実に減らしていた。


 ショートカットアイコンから、回復系アイテムを引っ張り出し使用する。ここで椛が倒れるわけにはいかない。


 するとそこに隙が生まれ、連子の動きを制限しきれなくなり……周囲のメンバーは連子に引き寄せられた。


 マスフォースヘイトだ。


「スレイん。お前は厄介な奴だ。ギルドチャットでも、俺の揚げ足取るし、PVPでも俺が一番嫌がる行動を優先的に取ってくれた。今もそうだ。カイン派なんて、俺に当て付けるみたいに……けど、今までありがとうな」


 連子のホーリーブレードで、スレイんは即戦闘不能となる。


「パックン。お前は小心者だけど、ギルメン思いのいい奴だ。新しいギルドでもうまくやれよ」


 パックンは連子の剣に貫かれ、その巨体を床に放り出す。


「左 翔太朗。お前はチャット下手で、他のギルメンとコミュニケーションをとるのが苦手な奴だったな。俺によく似てる。だから、お前とつるんでくれる友達を大切にしろよ。きっとそいつらはお前にとって、唯一無二の仲間になるだろう。去り行く者から最後のアドバイスだ」


 左 翔太朗がデュアルソードで対応しかけたが、それも虚しく一閃の元に倒れた。


「さて、椛。お前はガキだ。ギルドをまとめる具体策もないくせに、リーダーになろうとしている。ここにいる100人は、どいつもこいつもクセがあるし、我が強い。しかし、いざのさいには、団結する仲間思いの部分もある。今は二つに別れてしまっているがな」


「あんたから見ればガキだよ。俺は17歳のがきんちょだ。具体策なんて何もないさ。俺はカインに憧れてる。けれど俺はカインじゃない。椛だ。俺は俺のやり方でこのギルドをまとめる」


「そうか。まあ、今となってはその決意もムダだな。……お前の負けだ」


「椛! お前の手で今すぐ加齢の王子様を殺して魔剣士になれ! そうすれば連子を圧倒できるはずだ」


 ――なるほど。その手もある。しかし……。


「できるかよ、俺はパーティーリーダーだ! メンバーの命吸って、それでこいつに勝った所で意味なんてないだろうが」


 スレイんの言葉は戦略上正しい。しかし、それはリーダーとしては違う。仲間を守るのがリーダーなのに、その仲間を犠牲にしてまで守るものなんて、あるわけがない。


「まだ俺のHPは0になってない。勝った負けたは、俺が戦闘不能になるまでわからないだろう!」


「バカだな、お前は」


 そうだ、俺はバカだ。もう結果は見えている。真正面からやり合って連子と殴り合えば確実に俺が負ける。ヒールもなければ補助もないし、バフだって無い。


 それでもだ。


「それでもだ、俺は……このギルドを守りたい、こんな終わりかけで、時代遅れの3Dゲームでも、ここは俺達の居場所で、ギルドは俺達の帰る家だから……だから、俺は」


「椛」


 連子が俺のセリフを遮るかのように、シャウトで俺の名を呼んだ。


「もういい、黙れ。お前には何もできない。これで灰色の狼は解散だ」


 モニターの前で俺は息を呑む。まるで心臓を鷲掴みにされたように、体が硬直して、喉がひどく渇いた。


 連子が最後の決断を下す。


 俺が負ける。俺が、負け、る?


 連子が俺の目の前にいる。そして、連子の剣が光を纏った。


 ホーリーブレードだ。受ければ椛は死ぬ。終わる。


 どうしたら、いいんだ。


 俺は。俺は。俺は……。


「椛を守れ!」


「連子にスリープをかけろ! スレイんさんにリザレクションだ!」


「俺は嫌だ! 今日で灰色の狼が終わるなんて、いやだ!」


「私もイヤ! せっかくこのギルドで友達ができたのに、離れ離れになるんてイヤ><」


 カイン派のメンバーが俺にヒールをかけ、連子派のメンバーが俺にバフをかけてくれた。


「お前ら……」


「ギルドは、ギルドマスター1人で動かすもんじゃない。俺たち1人1人が灰色の狼で、灰色の狼が俺たち1人1人なんだ! みんなで椛を助けよう! 俺達はカインの言う、1人1人が助け合う家族なんだ!」


「もうこれ以上、ギルメン同士でいがみあうのを見たくない;; みんなで仲良くしましょうよ(^▽^)ノ」


「またみんなでギルドハントに行こうぜ! 狩り場を俺たち灰色の狼で埋め尽くしてやるんだ! 俺達はサーバー最強のギルドなんだからな!!」


 ひどいラグだった。


 100人それぞれが通常チャットで、心の限りを叫ぶ。


 ……本当は皆、元に戻りたかっただけなんだ。あの頃の優しいギルドに。


 ここまで大きな争いごとに発展したのだって、このギルドを思ってのことだ。そのエネルギーのベクトルさえ一つの方向にまとまれば、俺達は最強のギルドに、団結した家族になる。


「一対百か……分が悪いな」


「連子さん、俺は確かにみんなをまとめる術を知らない。けれど、ギルドはマスター1人が作るものじゃない。メンバーみんながマスターなんだ。俺達は助け合っていく。灰色の狼はカインの作った『1人1人が助け合う家族』だから……俺はみんなを助ける」


 そうだ。だから、皆も俺を助けてくれる。小難しい理屈はいらない。俺がみんなを助けて、皆が俺を助ける。それが家族だから。


 ヴァンガード2を解除、連子に向って椛は駆ける。


 連子の体を覆っていた光が消えて行く……ファイナルプロテクションが解けた。今この一撃で終わらせる。


 俺は1人じゃない。レベルでも、装備でも連子に負けているけど、それ以上の武器を手に入れた。俺の後ろには、数値で表せられない強い力がある。その強い力に背中を押され、椛は風になる。


 連子からウィスがきた。


「”椛。ありがとう。そして、済まない。お前に全てを押し付ける結果になってしまった。俺は悪者だ。行き場の無かった皆の怒りも憎しみも、すべて俺が受け入れて悪者になる。もうここに戻ってくることは無いだろう。灰色の狼が再び一つになるには、新しいリーダーと、それを必要とする環境が必要だった。俺はカインを深く傷付けた。俺はその罰を受け、罪を背負わなければならない。俺は悪者でいい。そして、カインを俺の代わりに迎えにいってやってくれ。すべての原因は1年前の、ルシエドにある。あいつの正体に気付いていればあんなことには……いいか、ルシエドに気を付けろ。あいつは狡猾で残忍な奴だ。今もどこかでこのサーバーの状況を窺っていて、次の機会を狙っているかもしれん。カインのこと、頼んだぞ”」


 ガラドボルグが連子にヒットする。そのわずかな瞬間に、ほんの数秒の間に、連子は装備を解き、裸になった。


「”俺の負けだ”」


 連子の体をガラドボルグが貫く。そして、また一瞬で装備を着用して連子は元の姿に戻るとその体を地面に横たえた。


「椛が勝ったぞーーーー!」


「うおおおおお、椛さああああん愛してるううう@q@」


「乙w」


「ザマミロ、連子www」


「さいなら、連子さあああん、ププ」


「電子連子さん、チーン! 南無(ー人ー)」


『俺は悪者でいい』。連子の言葉を思い出す。連子はその悪意を受け入れ、ここを去ると決意した。俺を新しいリーダーにするためのお膳立てとして……。


「”連子さん”」


「”俺のことは気にするな。それより、お前はこいつらのボスになったんだ。ぶれずに前へと進め。俺はこのまま消える。大丈夫、お前はやれる。お前はカインじゃない。椛だ。椛にしかできないことをやってのけろ。俺の息子も、お前みたいに真っ直ぐに羽ばたいてもらいたいよ。世界に飛翔する――翔っていう名前のようにさ。息子の名前、翔っていうんだ。かっこいいだろ? 幸運なことに、顔は俺に似てないよ。嫁に似て可愛らしいんだよ、これが。いつか、カインが戻ってきたら……もし俺が許されるなら、リアルで会おう。じゃあな、後は頼む”」


 生まれたばかりの連子の息子が、俺と同じ名前……?


 世の中って狭いんだな。ネットはこれだけ、広大でカオスなのに。


 連子はそのままログアウトして、消えて行った。

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