在りし日の家族
「公式のスキルリストで見た記憶がある……ブラッドナイトのヴァンガード上位スキル『ヴァンガード2』……レベル73で習得可能なそれは、ヴァンガードの攻撃力と防御力を入れ替える効果に加えて、さらにそこから防御力を上昇させるスキル……だったはず」
「さすがデータ紳士。ちなみにレベル上がったの、昨日の夜なんです。本当は連子さんとやり合うまで隠しておきたかったんだけど」
昨日、暁の空と別れた後、俺は狩でレベルを上げた。ブラッドナイト73レベルのキャラを所持している奴は、このサーバーで俺だけだ。
それはつまり、このスキルは俺だけしか使えない、俺だけのスキルということでもある。
……今のところはね。
スレイんも知らなかったろう、俺のレベルが上がっていたことも、ヴァンガード2をその目で見るのも初めてだったはず。
「今の俺はメチャクチャ固いぜ? 防御の数値だけなら、カインにだって匹敵する」
――と思う。実際にカインに防御の数値聞いたことなんてないし。まあ、ハッタリとしてこれは有効だろう。
ちなみに、カオス・クロニクルのPVPにおいて、レベルの差は大きい。70以降になればそれは顕著になり、たった一つのレベル差が勝敗を決しかねない。
習得できるスキルとレベル差によるボーナス……最終的なダメージ、命中率、回避率に修正がかかるのだ。
70レベルのスレイんとのレベル差は3。加えて相手はヒーラーだ。ヒールライトを連発して持久戦に持ち込まれたら少し厄介だが、椛の攻撃力ならば、やれる。
階段の上でたじろいでいたスレイんに向け、フォースヘイトをかける。そして、スレイんを手元に手繰り寄せると、そこに椛のガラドボルグによる一撃を加える。
スレイんを先に叩く、そしてその後に7でシメる。しかし、7の位置を確認しようとしたが、7の姿がどこにもない。
後ろ? そう考えた直後に7が俺の背後から現れて、デュアルスタッブを打ち込んできた。
目の前には、手繰り寄せたスレイん、背後に7。……モテる男は辛い。
「やれ、7」
「はい」
背後の7を視界に捉えるが、目標はぶれない。先にスレイんのクビを取る。7のHPを回復されると面倒だ。
すると、7のデュアルスタッブを背後から受けた。蚊にさされたようなものだ、気にはしない。
スレイんは即座にヒールライトを連発し、守りに入る。その隙に7が切り込んでくるが、関係ない。さらに猛攻をスレイんに仕掛けると、ヒールライトによってできた、光の柱に彼の体が隠れて見えなくなる。これだけヒールを連発していると、ガス欠は早いぞ。
そのまま攻撃を加えると、スレイんはヒールを使わなくなった。
MPが尽きたのだろう。こうなるとあとはただのサンドバッグだ。
俺は、スレイんにトドメを差すべく再度攻撃モーションに入り、ガラドボルグを叩き付けようとして……やめた。
「もうやめましょう、カタは着いています。それに正式な戦争でない以上、これはPVPだ。そうなると、戦闘不能になれば経験値が減少する」
そして、俺はスレイんに背中を向けると、戦闘不能になっていたカイン派のメンバーを神秘の復活薬を使って蘇生した。
「パックン、手伝ってくれ」
「おっす!」
パックンに神秘の復活薬を手渡し、二人がかりで20人以上の蘇生作業を始める。こんなことで、せっかく貯めた経験値を失ってしまうのはかわいそうだろう。ここまでやれば十分なはずだ。
「何でトドメを刺さないんだ? それに、何でお前を襲った奴らを、高価な神秘の復活薬を使って蘇生なんかしてるんだ、お前は。店売りの蘇生薬で十分だろ」
ちなみに、神秘の復活薬は経験値を100%復旧できるが、それなりに貴重なアイテムだ。対して、店売りの蘇生薬では経験値を復旧できないし、手軽に購入できる。蘇生作業を続けながら、俺はチャットで答えた。
「『憎む弱さより、許す強さを持て』、カインが言ってたよな。俺もこの言葉、好きなんだ。あの人には色んなことを教えられた。それは狩りの仕方とか、ゲームの知識だけじゃない。ギルドの仲間がクエストで困っていたら、助けてあげたり、狩り場で死んだら、蘇生に行ってあげるとか、どんなに価値の低いアイテムだったとしても、MOBからドロップしたときは皆でそれを一緒に喜んだりとか。人と人との繋がりってやつをさ」
「俺もその言葉は……好きだ。カインみたいな男になりたいと思った……」
「俺は、初めてプレイしたMMOで、初めて入ったギルドで、色んな人に助けられて、色んな人を助けてきた。カインが抜けて俺も抜けちゃったけど……俺はこのギルドの皆が好きだった。カインの作ったギルドは家族みたいで、ログインするといつも皆がいて、チャットでバカな事言ったり、たまに空気読めなくて、カインに怒られたこともあった。俺にとってもこのギルドのメンバーは家族なんだ。今でもそれは変わらない。家族ってのはさ、どんなに仲が悪くてケンカしても、最後は仲直りして、一緒にうまいカレーでも食えば、すぐに笑顔が戻ってくるもんだよ」
「俺も……そうだ。詐欺露店に合ったギルメンに、使わなくなった装備を丸ごとあげたことが……あったな。それだけじゃない、連子が無茶して狩り場で死んで……蘇生に行ったら俺も死んで……二人で村に帰還したことも……そうだな、あったんだ。……あったんだよな」
「スレイんさん。俺はね、あの頃の灰色の狼に戻したいんだ。俺もカインのこと尊敬してる。けれど、いつまでもあの人に頼っていちゃいけない。俺達のギルドは俺達の手で作るんだ。カインが戻ってきて、びっくりするようなギルドに。そんで、カインに『お帰りなさい』を皆で言ってあげようよ。だからさ、俺は許すよ。ここにいるカイン派のメンバー全員を。家族だからね」
「椛……お前……大人になったな」
「俺だって、ガキのままじゃないですよ」
「ギルドチャットで下ネタ連発して、カインを一週間怒らせたあのお前が……」
「スレイんさん! それ言っちゃダメーーーーーーーーーー!!!!」
カインは真面目な人で、俺が調子乗って下ネタをギルドチャットで流したら、めっちゃくちゃ怒られた。俺の黒歴史である。
「『憎む弱さより、許す強さを持て』だろ? 許せよ、俺達、家族じゃないか^^」
「うわ、ずるいな、その使い方!!」
「椛。お前の言うとおりだな。俺はカインに頼りすぎていたのかもしれない。それに……そうだな。確かに俺達は仲間で家族だったんだよな……今はバラバラだったみんなも、カインの元で一つになって、敵対ギルドと戦争をして勝利を収め、わいわい騒いだのも連子派の連中もそうだったんだ。なあ、椛。お前の言う通りにしてみるよ、連子が話し合いに応じてくれるかどうかは解らないけど……」
「本当ですか、スレイんさん?」
「ああ、すぐにでも俺が直接出向いて、話をつけて来る」
「いや、それなら俺が行って来ますよ。連子派の連中、けっこう過激なこと考えてるみたいだし、俺が間に入って緩衝材代わりになります。双方の話し合いの場を持つよう、中立の立場として」
「そうか……いや、そうだな。俺が行ったらいきなりPVPになるかもしれないか……椛、頼んでいいか?」
「ええ。元からそのつもりでしたから。それじゃ、ここは任せます。みんなにこれ使ってあげてください」
俺はスレイんにトレードを申し込んだが、キャンセルされた。
「神秘の復活薬なら俺も持ってる。大丈夫だ。こっちのことは気にしないでくれ」
「そうですか……わかりました。行くぞ、パックン」
「おっす!」
俺はパックンを連れて来た道を戻る。連子のいるリブロイへと向けて。




