NEXT LEVEL
サイトで次のアップデートの詳細を確認し終えた俺は、ゲームを起動させた。
しばらくするとゲーム開始画面に移行し、IDとパスワードを入力して、キャラクター選択画面へ。そして、椛を選択する。
椛はラグリアの中央広場に降り立つ。さて、まずはどうするか……。
ラグリアを日本の都市で例えるなら、大阪だ。なら、東京に位置する街はどこになるか……。
リブロイ。リブロイはカオス・クロニクルに存在する統一国家、『シャスターン王国』の首都である。
そのリブロイに、灰色の狼のアジトが存在する。
カイン派と連子派に分裂しつつある灰色の狼……まずは先にカイン派の連中にあって、彼らと話をしてみるか。
連子派の連中より、話せるかもしれない。
しかし……カインを推しているとはいえ、すんなりと俺の話を聞いてはくれないだろう。いくら俺がサーバー最強のナイトだといっても、まだこのゲームのプレイヤーとしては、ピカピカの1年生だ。
灰色の狼の中には、長い間カインの世話になった人もいるし、リアルの年齢だって俺より上の人が多いだろう。
やっぱり、誠意を見せるしかないのか? けど、誠意って何だろう……。
うーん。わからない。
とにかく、一度アジトに行ってみるか。行動あるのみだ。進む道がないのなら、俺が道を作ってそこを突き進む。
ラグリアのテレポーターを使って、リブロイへとワープする。
一瞬で目の前の景色は様変わりし、快適になる。ラグリアに比べて、プレイヤーの人口が少ないからだ。
けれども、ラグリアと同規模の建物や神殿。ここでしか受けれないクエスト。そして、なにより遠目でもはっきりとわかるシャスターン城。それがこのリブロイの象徴だ。
荘厳な雰囲気にマッチしたBGM。地面は石畳になっていて、洗練された感がある。そして、美麗な建築物の数々。
都と呼ぶのにこれほど相応しい場所は無い。
俺はリブロイの街中を歩く。サーバー最大のギルドだけあって、灰色の狼のアジトはリブロイのメインストリートにあった。
迷わず一直線にそこを目指す。
ギルドに加入して、一月くらいは俺もここに出入りしていたな、そういえば。
「お。椛さん、お疲れ様ッス! どうしたんですか、こんなとこに?」
アジトの前で俺に声を掛けてきたのは、オークウォーリアのパックンだった。
パックンは、『一応』椛の後輩にあたる。ただ、同時期にギルドで顔を合わせた事はない。
というのも、俺がギルドを抜けた後にPKから助けて、それが縁でたまにパックンと一緒に狩りをするようになった。それからしばらくして、彼が灰色の狼に加入したので、『一応』である。
「まさか、椛さん。灰色の狼に? いやー嬉しいなあ。椛さんが僕の後輩に……プププ! 『おい、椛! 焼きソバパン買って来い!』とか言えちゃうのかなあ、あははは」
焼きソバパン買ってこさせるパシリって、何か年代を感じさせるな、パックンって以外と中身おっさんなのか?
「まあ、半分正解で半分ハズレってとこだな。なあ、パックン。今って、ギルドどうなってるんだ?」
「え? いやーそれは……なんともカオスで……。椛さんだから話しますけどね? もうヤバイっすよ。連子さん……マスターなんすけど、そのマスターを気に食わない連中がアジトを出て行っちゃって……今アジトには、連子さんとその支持者達が会議中なんですよ。連中をどう料理するかってね」
「それって……切り捨てるってことか?」
「……かもしれないス」
一触即発じゃないか。すでにここまで関係がこじれているのか。
「お前はどっちなんだ? 連子に従うのか?」
「ちょ! そんなん聞かないでくださいよ! 僕だって、こんなん嫌なんですから。みんなで仲良くチャットして、仲良くギルドハントして……っていう昔のギルドに戻ってくれるのなら……」
「そうか……。なあ、出て行った連中の居場所知らないか? 話がしたいんだ」
「え? どうしてです?」
「俺がこのギルドをまとめる」
「は? いや、僕の焼きソバパンは誰が買いに行くんです!?」
「お前の焼きソバパンなんて知るか。俺はこのギルドをあるべき姿に戻したいんだ。カインが作った、皆が楽しく過ごせて、助け合う家族みたいなギルドに」
「……マジっすか?」
「ああ」
「椛さんなら……任せてもいいような気がします。僕、着いていきますよ椛の兄貴に!」
「そうか、助かるよ」
「椛さんがPKKとして活動してる姿、灰色の狼の中でも有名ですからね。慕っている奴だって何人かいますよ、それにサーバー最強のナイトだし!」
「俺はPKが嫌いなだけだよ。そんな大したモンじゃない。それより、詳しく教えてくれよ。出て行った連中のこと」
「あ、はい。反連子派のリーダーは、『スレイん』って人です。『カインが帰ってきたのなら、このギルドはカインのモノだ』って主張して、連子さんをマスターから下ろそうとしているんですよね。でも、一年前の事件だかで、カインを嫌ってる人はまだ何人かいて……その人達が連子さんを担ぎ上げてるんですよ。一年前の事件だかなんだか知らないけど、当事者じゃない僕達には、ちんぷんかんぷんで……」
なるほど。スレイんか……確かにあの人ならやりかねないな。
スレイんは、俺より2年ほどベテランのプレイヤーだ。あの人もカインに心酔して、自称カインの右手とか言ってたし……。
「僕も、反連子派に誘われたんですけど……断りました。で、気が変わったら『捨てられた城砦』に来いって……たぶん、そこを仮のアジトにしてるんだと思います。あそこ、ほとんどMOBもいないし、マズイ狩り場だから人気はほとんど無いですしね」
「わかった。行ってみるよ、捨てられた城砦へ。ありがとな、パックン」
「いえ、あ! 僕も着いていきますってば。これでも50レベルになったんですよ、ようやく」
「じゃあ、頼りにさせてもらうかな。行くぞ、パックン」
「おっス!」
俺はパックンをパーティーに誘い、二人でリブロイを出た。
捨てられた城砦は、リブロイから歩いてすぐの所にある。50レベル代の狩り場で、皮肉なことに、文字通り『捨てられた』城砦だ。
数あるマズい狩り場の中でもここはちょっと特殊で、MOBの絶対数が少ない。そのわりに一体一体が弱すぎるし、得られる経験値も微々たるものだ。
ただ、このダンジョンは広いし、元は砦という設定なので、MOBが出現しない部屋がいっぱいある。
人知れずここをアジトにしているギルドもいるし、イベント会場として使うプレイヤーもいるらしい。
だから、ここを隠れ家にしているのにも合点がいく。
カイン派……カインを慕う連中が逃げ込んだ最後の砦……その扉を目の前にした時、唐突に扉が開いて中からプレイヤーが襲い掛かってきた。
なんとかそれをかわして、後退する。
「いきなり何するんだ!?」
俺を襲ってきたのは、ヒューマンローグの女だった。ダークエルフに劣らぬプロポーションとフェロモンを撒き散らす、お色気満点のおねーちゃんだ。りりしくも幼さの残った美しい顔に、ポニーテールと胸を揺らしながら、俺との間合いを詰めてくる。
思わず視線がそちらに行ってしまった。
――俺のバカ! 見とれてる場合じゃないだろ、相羽 真理奈というものがありながら!
一瞬浮気した自分を恥じた直後、女のデュアルダガーが鈍い銀色を放ち、デュアルスタッブのモーションに入るのが見えた。
「やめろ、7。そいつは椛だ」
7と呼ばれたヒューマンの女は、スキル発動を解いて、砦の内部にいるエルフの男の隣に移動した。
俺も警戒しつつ内部へと足を進める。
中は、入ってすぐ目の前に階段があって、それが二階に続いている。階段は途中で左右に別れ、踊り場に7を制止したエルフの男がいた。
「久しぶりです、スレイんさん」
「ああ」
エルフの男……エルフヒーラーのスレイんは、70レベルのベテランだ。隣の7というプレイヤーは初めて見る。おそらく、パックン同様俺が抜けた後に加入したのだろう。
「お前も連子を倒すために来てくれたのか? 心強いよ。お前がいればカインのギルドは以前の姿を取り戻す。連子ごときじゃ、ギルドは崩壊するだろう」
「そうですね、今のままだと、まずい気がします」
「そうだろう!? 今ちょうど奴らを叩く作戦を考えていたんだ。カインに世話になった事も忘れて、のうのうと連子の下でプレイするギルメンなんて、消えちまえばいいんだ。さあ、お前も何か知恵を出してくれ、一緒にあいつらを八つ裂きにしよう!」
「断る」
「……何?」
「連子じゃ無理だけど、あんたでも無理だ」
「なんだと?」
「カインが未だに戻ってこないのは、ギルドが今みたいな状態になって、心を痛めているのも原因の一つかもしれない。まとめ切れていない連子にも非がある。けれど、あんたはどうだ? あんたは連子の側にいながら何をした? 隣でブーブー喚くだけなら、誰にだってできるぜ? それを今になって、連子だけのせいにして、自分がそこにすげ変わろうとしているだけじゃないか。彼らを切り捨てようとしているのなら、あんたも連子派も、何も変わりはしない。そんな奴らに協力することなんてできない!」
そうだ。ギルメン同士が憎み合うなんてカインは望んでいない。なんとか彼らに話し合いの場を持たせなければいけない。
「お前……! お前に何がわかるんだ、ガキが! カインさえ戻ってくれば全て解決するんだよ! カインに受けた恩を忘れて、連子とつるんでいる奴らなんか、このゲームからいなくなっちまえばいいんだよ!」
「だからダメなんだよ、スレイんさん。カインのギルドは、そんな血生臭い戦闘集団でも、自分勝手な奴らの集まりでもない。『皆で助け合う家族』だったはずだ。話し合うこともせずに、そんな頭に血が昇ってていいのかよ。カインが望んでるのかよ、こんなくだらない戦争ごっこをさ!」
「ほう! そこまでお前が言うんなら俺達を止めてみろよ。ここにいる30人……俺も含めて全員相手にして、倒せたなら考え直してやってもいいぞ? お前の言う話し合いとかにも応じてやらなくもない。……ただし、お前1人でここにいる全員と戦ってもらう」
「困ったな」
「お前がサーバー最強のナイトでも、お前のデータは知り尽くしているんだ。プレイヤー名・椛。職業・ブラッドナイト。レベル・72。武器・ガラドボルグ……。主な使用スキル・ヴァンガード。ほらなあ? お前のことはよーく知っているよ? 加えてこの人数。エンチャントもヒールも何もないお前が、勝てる道理があるか? トーナメントは一対一だけどな、戦争はそうじゃないんだよ」
スレイんは相手のデータを分析して戦う頭脳派だ。俺のデータや、クセを見抜いているかもしれない。
しかし、引き下がるわけにはいかない。これはチャンスだ。
「わかった、真正面から相手になろう」
「ふん。今更謝るなよ、椛。連子派との前祝だ。お前を潰して祝砲代わりにさせてもらう。やれ、お前ら!」
スレイんの掛け声で、潜んでいたカイン派のプレイヤーが階段から降りてきて俺を取り囲んだ。
「……パックン。お前はちょっと下がってろ。乱戦になるとお前まで攻撃しちまう」
「え? あ、はい!?」
パックンが下がったのを見届け、視線を連中に向ける。30人。これがカイン派のメンバーか。確かに……見た顔もある。中には、PKから助けた奴もいる。
そいつらが一斉に襲いかかって来る……ギルメン同士でこんなことを……クソ。
「困ったな」
俺は再度そうつぶやいた。
そのセリフが終わるのを合図に、カイン派のプレイヤーが襲い掛かってきた。
「しかたがないな。できればもっと強いMOBか、プレイヤー相手に使いたかったんだけど、お前達で試してやるよ」
襲い掛かるプレイヤー達。俺はそれを1人ずつ薙ぎ払う。1、2、3、4、5。
「あいつ……データ以上に強い……まさか?」
スレイんが、なにやら上でうるさい。だが、今はそんなことどうでもいい。
19、20、21、22……。そこまで数えていたが、もうどうでもよくなってきた。
そして、28――。
「お前……」
「俺のデータの更新、お願いしますよ、スレイんさん。プレイヤー名・椛。職業・ブラッドナイト。レベル・73。武器・ガラドボルグ……」
「73レベル……。そうか、それが――」
「主な使用スキル・ヴァンガード2ってね」
椛の足元から光が立ち上り、それが体全体を包み込んで、薄赤いオーラが椛を包み込んだ。
ケリはもうついている。
残るは7とスレイんのみ。
――遊びは終わりだ。




