『彼女に送るプレゼント』
「ありがとうございましたあ」
能天気そうなセリフを背中に受けて、村の道具屋から一歩外にでる。
道具屋の看板娘ホリーちゃんは、村一番の美人らしい。そう何度も村の警備員マーシーが独り言を繰り返しているので、これはプレイヤーの間でも有名な話だ。
クエスト『彼女に送るプレゼント』は、14レベルで一回だけこのストーカー警備員から受けれるが、その報酬が経験値と装備のセットなのでこれをやらない手はない。
内容も、一匹だけクエストモンスターを狩るだけでお手軽だ。
道具屋を一人出たオレは、倉庫に向かった。倉庫番のドワーフに話しかけ、消耗品をたくさんブチ込んでおく。
隙間なく押し込められたポーション類に、癒される。やっぱり、物がぐちゃぐちゃしている方がなんだか落ち着く。ちなみにオレは掃除が苦手だ。
今も部屋の床には色々物がちらばっている。両親がそれを見るたび溜め息をついて『片付けろ』とうるさい。余計なお世話だ。
いや、そんな事は今はどうでもいい。問題は別にある。
倉庫を後にして、村の塀にそって外に向かう。見えて来た。
ストーカー警備員マーシーが今もうつむいて、『ああ、ホリーちゃん……』とか、『今どうしてるんだろう、ホリーちゃん……』と、ホリーちゃんへの思いを募らせている。
そのマーシーの前に、軽量の鎧に身を包み、剣と盾を持った銀髪の小柄なフェイブの少女がいた。
「クエ、ちゃんと終わったか?」
「うん、エルくんのおかげだよ! ありがとう>_<」
プンがオレに近寄ってきて、飛び跳ねる。子犬のような奴だ。
「レベルも15になったから、違う村に行けるね、やったー^^v」
「そうか、15になったか。じゃあ、『ミロンの村』に行こう。うまいクエをいくつか知ってる」
「ほんと@@ お世話になります、師匠m(__)mペコリ」
ようやくナイトらしくなったプン(装備だけだが)を背中に、ハリの村を出る。
目指す先は、ミロンの村……近くにゴブリン前線基地という、少し難度が高めの狩り場がある。そこでこいつのレベルを上げる。
「プン。ちょこまか動き回るな。アクティブモンスターを引っ掛けるぞ」
「ひゃあ、助けて@@!」
言う前にすでにプンは何匹かのウェアウルフと戯れていた。本当に世話の焼けるお姫様だ。
それら全てを杖で叩きのめし、静かにさせた。
「うわあ、エルくん強い!」
「いや……いくらオレがヒーラーとはいえ、レベル1のウェアウルフを倒すのは、高校生が幼稚園児に電気あんまをかけるような物だ」
小学生の時、二つ年下の弟にかけて泣かしてしまった事があったな、そういえば。
「電気あんま (?_?)」
プンが頭を疑問符でいっぱいにしている。
「なにそれ、楽しいの? プンにもやってみて、エルくん^^」
「ぐぐってみろ。その上でやってほしいというなら、オレの奥義を見せてやろう」
「うわあーーい^^」
プンは嬉しそうにはしゃぎながら街道をかけていった。……数引きのウェアウルフを引き連れて。まったく、世話が焼ける。
だが、それも少しの我慢だ。こいつがレベル40になれば……。そうなれば、用済みだ。
オレはプンと一つの取引をした。
このゲームでは、レベル40未満のキャラと40以上のキャラは師弟関係を結ぶことが出来る。師弟関係を結んだペアには様々な恩恵がある。
二人がログインしていると互いの取得経験値が増加する。40以上は1.2倍。40未満は2倍になる。
さらに、ペアの片割れがレベル40に達成して転職を終えると、40以上のキャラ(この場合はオレが該当する)には、高価な武器が送られる。
オレの目的はそれだ。でなければ……プンのような問題児を抱える気にはとてもなれない。
プンが40レベルにさえなればいいのだから、最初は適当に付き合って、あとは狩り友を作らせて勝手に40になってくれればいい。
オレはそれまでログインしなくてもいいし、別のゲームで遊ぶか別のキャラでプレイして、プンが40になるのを待てばいい。
今だけの辛抱だ。プンの奇行に振り回されるのも、プンのお世話係をするのも、今だけの……。
「っておい、プン! どこ行った!?」
気が付けば、プンの姿はどこにもなかった。ゲームから落ちたか?
「ここだよおおお;;」
どこからともなく、プンの泣きそうな声(本日6度目)が聞こえてくる。
カメラをぐるぐる回してようやくプンを発見すると、ディスプレイの前でオレは大きな溜め息を付いた(本日23回目)。
「お魚泳いでるキレイな川眺めてたら、落ちちゃった。てへ(^-^*)」
何がてへ(^-^*)だ。ふざけんな。またリザレクションか。
プンのHPは川に落下した時1になり、呼吸できずにダメージを食らい水死体になって、ミロンの村の前の川を流れていた。
ディスプレイの前でオレは本日24回目の大きなため息を付く。
まだ時刻は午後10時になったばかり……一時間でオレは24回もため息を付いたのか。
さっさと40レベルになってオレから卒業してくれ、プン……。




