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窮鼠、魔剣を噛む

 ミロンの村の中央で、椛は目覚める。昨日、カインのことを聞いて知り合いに色々聞いて回った後、ここでログアウトしたんだ。


 早く行かないと、左 翔太朗を見失ってしまう。椛をテレポーターでゴブリン前線基地へ飛ばし、奴の元へと急がせる。


「潤。あいつはまだそこにいるか?」


「はい。エリートゴブリンを何匹か狩って……今、加齢の王子様を返り討ちにしたところです」


 懲りないな、加齢の王子様。


 椛は駆ける。白い風になって、行く手を阻むゴブリンを屠り、加齢の王子様の屍を踏ん付けてぴゅあの所に帰ってきた。


「左 翔太朗……久しぶりだな」


「椛か。ちょうどよかった。俺もお前に会いたかったんだ。俺の強さを測るために斬らせてくれ。そこのザコや、ここのMOBじゃ物足りない。お前なら俺の攻撃に少しは耐えてくれるんだろ?」


 嫌な言い方だな。今に始まったことじゃないけど、たまに口を開いてもコレだ。そんなに自分が好きか、お前は。


「いいぜ。こっちもお前をぶちのめしたいと思ってたところだ」


 倒れたぴゅあを背後に、左 翔太朗こと、シャドウナイトと対峙する。


「行くぜ」


 正面から堂々と。それが俺の……椛のスタイル。ヴァンガードのショートカットアイコンを視界の隅に捉えて、マウスを的確に操作する。


 ヴァンガードはトグル型スキルだ。こいつのオン・オフのタイミングが勝敗を決する。相手の攻撃モーションを見切り、即座に展開すれば、椛は絶対の攻撃力と防御力を発揮する。


 負けはしない。相手が魔剣士だろうとなんだろうと。


 シャドウナイトに向って椛は駆ける。奴はまったく微動だにしない。


 なら、先手必勝。攻撃は最大の防御だ。攻撃の間合いに入ると同時、ヴァンガードを解除して、椛は背中の大剣……70レベルで装備できる『ガラドボルグ』を機敏な動作で、シャドウナイトに叩きつける。


 クリティカルヒットだ。シャドウナイトに一撃を加えると、反撃を警戒しつつ距離を取り、ヴァンガードをオンにする。


 今の一撃はかなり効いたはず。


 斬魔クラスのPKなら、HPの半分は削っただろう。


「すごいな」


 不意に黒い鎧……シャドウナイトがそう発言した。


 よし。着実にダメージを与えている。勝てない相手じゃないんだ。レベルだって俺の方が4つも上なんだし、左 翔太朗のプレイスタイルは知り尽くしている。


「すごいな、魔剣は。お前の攻撃で、HPゲージが10分の1も減ってないよ。すごいなw なあ、今度はこっちから攻撃していいか? 頼むから……一撃で死ぬなよ?」


 今ので10分の1以下……単純計算で、あと10発以上攻撃を加えないといけないのか。


 さすが、魔剣。けど、大丈夫。俺にはヴァンガードがある。


 やってやるさ。


 けれど俺の余裕は、シャドウナイトの一撃で盛大にぶっ飛んだ。


 十分に距離を取っていたはずなのに、遠距離から攻撃を受けた。とっさにヴァンガードを展開させたが、椛のHPが一瞬で1ケタだ。


 おいおい。何だこりゃ。


「お前なら耐えてくれると思ったよ、椛。じゃあ、次のスキルを試してやろう」


 どうやら、今のは魔剣士専用の攻撃スキルだったらしい。……厄介だな。


 しかし、気合で負けるわけにはいかない。ここははったりをかまして余裕をアピールしておく。


「すごいな、魔剣は。今の攻撃で、俺のHPゲージ100分の1も減ってないぜ? もっと強力なので来いよ。でないと寝落ちしそうだわ」


「渡辺さん、かっこいいです! まだ何か作戦があるんですよね? すごいです!」


 ウソです。もう強力な攻撃は勘弁してください!


 と、潤の手前もあるので余裕の笑みを浮かべて、冷や汗を必死に隠した。


「見てろ、潤。渡辺さんは追い込まれれば追い込まれるほど、実力を発揮するんだ。当然、夏休みの宿題だって8月31日の夜11時から始める! 絵日記も一ヶ月まとめて書くんだ」


「すごいです! うちのお姉ちゃんは終業式が終わって、家に帰って1時間で全部終わらせちゃうんです! ぼくは、30分で全部終わらせちゃいますけど」


 相羽姉弟。真面目すぎ! 愛紗と俺は9月1日は学校から帰って即昼寝なんだぞ! 起きたら晩御飯食ってまた寝るんだ。優等生どもめ。


 と、余裕ぶっこいてる場合じゃないな。次の攻撃を受けたらマジで詰む。かといって、今から10回攻撃して、都合よく全部がクリティカルヒットするわけでもない。


 ………こんな時、カインならどうするかな。


 考えろ。ファイナルプロテクションを使用して突っ込むか?


 ダメだ。2、3発耐えれても、その先がない。


 考えろ。……だめだ。思い浮かばない。


 正面から殴るだけじゃ、負けは見えている。


 正面からやってくるシャドウナイトに、一歩一歩後ずさる。


 椛は次第に崖へと追いやられ、逃げ場を失う。


 考えろ。俺はカインじゃない。けれど、考えろ。


 あいつを倒す方法が何かあるはず。潤の前でかっこ悪い所をみせるわけにはいかない。俺のポリシーに反するが、潤の仇を討つ為……今はそれを横に置いておく。


 カメラを回転させ、後ろを見る。かなり高い崖だ。おそらく下に落ちれば、落下のダメージを食らう。


 それもこの高さだ。レベルに関係なく、落ちればその時点でHPが1となる。そうなれば、ヴァンガードを展開しようが、ファイナルプロテクションを発動しようが無意味。


 一撃で倒される。ここのゴブリン程度のMOBにすらだ。


 いや。そうか……。これだ!


「潤。カオス・クロニクル 魔剣士 スキルでぐぐってくれ! 早く」


「あ、はい!」


 俺は隣にいた潤に頼んで、情報を検索してもらった。それを確認すると、シャドウナイトに向き直り、動きを止める。


「椛。ここでいいのか? お前の墓場は?」


「クサイセリフばっかり発言してんなよ。左 翔太朗。あいかわらずイタイ子だな。知ってるぜ? お前、中身小学生なんだろ? 外部掲示板でお前のリアル晒されてたぜ」


 もちろんウソだ。あいつのリアルなんて、これっぽっちも知らないし晒された事実もない。


 とりあえず、この挑発に乗ってくれればいい。


「どこの掲示板だ、URL言え。誰だ俺のリアル晒した奴」


 あら、マジだったの?


「いわねーよ。それより早くスキル叩き込んでくれよ? 一番強力なヤツをさ」


 俺はそう発言すると、即座にファイナルプロテクションを発動させた。


「言われなくても、ぶちこんでやる」


「きっちり受け止めてやるぜ」


 シャドウナイトが俺に向って猛烈な勢いで突っ込んでくる。


 椛は一歩前に出て、やる気を見せると、それを受け止める体勢に入った。


 だが、すぐにファイナルプロテクションを解除する。


 そして……崖から飛び降りた。


「はあ? 自殺か?」


 シャドウナイトは攻撃モーションを解除して、崖上で無防備に見下ろしていた。


 ――ここだ。


 俺は落下しながら、フォースヘイトをシャドウナイトに使用する。


「え? なに!?」


 俺のフォースヘイトに釣られ、シャドウナイトも一緒に崖の下へ真っ逆さまだ。


 椛の使用したフォースヘイトが解除されるまでシャドウナイトは次の行動を起こせない。解除されるには、椛の攻撃の間合いに入らなければならない。


 しかし、落下している椛に追いつくことは無い。次にこんにちわするのは、地上に帰還した瞬間。


 そして、落下してHPが1になったとしても、先に地上に落ちた椛が先手を打てる。


 俺の勝ちだ。


「潤。ありがとな。魔剣士の最強攻撃スキルが接近用で助かったよ。遠距離だったら、落下前に俺がやられてる」


「いえ、渡辺さんの役に立ててよかったです」


 即席の作戦にしてはうまくいった。シャドウナイトを崖に落とすため、フォースヘイトの適用圏内に誘導する必要がある。


 しかし、ヤツの情報がないし、遠距離のスキルでも使われたら終わりだ。


 だから潤に頼んで調べてもらい、最強スキルが接近用だという事がわかった。あとは、なんとかしてあいつを挑発して接近させ、フォースヘイトをかける……あんまりスマートじゃない気がするけど、これでいい。


 あいつのリアルが、小学生だったのには驚いたが……。


 椛は落ちる。ゲームの中の3D空間とはいえ、落ちている気分と言うのは妙に迫力があった。そして、目の前に地面が迫り……椛は着地と同時HPが1になる。


 仕上げだ。落ちてくるシャドウナイトをターゲットして、攻撃に移る。


 捉えた。真正面から……叩き斬る!


 椛の刃がヒットするより早く、シャドウナイトを氷の槍が貫いた。


 何? 誰だ?


「HAHAHA! シャドウナイトよ! 今こそ我が魔剣を貰い受ける!」


 加齢の王子様だ。野郎め。漁夫の利を狙いやがった。


 左 翔太朗は、魔剣から解放されるとその体を大地に横たわらせた。


 そして、魔剣は加齢の王子様の元へと向かい。新たな魔剣士が誕生する。


「HAHAHA! さらばだ! 魔剣の主となった我は無敵!」


 加齢の王子様は高笑いをして去って言った。トドメは持っていかれたが、まあ目的は達した。とりあえずよしとするか……。


「……あんな奴にやられたのが納得いかない」


 左 翔太朗がふとそう呟いた。たしかに……あれにトドメをさされたのはショックでかいな。


「まさか、俺を落下させるとはな。カインばりに頭が回るじゃないか。いや……正直、カインみたいだったよ、お前」


「ぜんぜん。カインはもっとすげーよ」


「そうだなw お前は正面バカだからなwww」


「失礼か、お前は」


「なあ、お前、戻ってこないのか?」


「は?」


「ギルドに……戻って来いよ」


「なんだいきなり気持ち悪い。キャラを急に変えんな」


「あんなのもうギルドじゃねーよ。みんな好き勝手やってるし、ギルドハントも皆無。連子さんもほとんどインしてねーし……」


 連子(れんじ)。灰色の狼の二代目マスターで、カインの狩り友だった人だ。灰色の狼は、カインと連子の2人が中心となってできたギルドで、発足当初はカインと連子の数名だけだったらしい。


「カインがいなくなって、連子さんが継いだけど……ありゃだめだ。ガキの俺でも解るわw せいぜい給食当番のごはん盛る係りの器だよw」


 いやに例えがガキくさい上に、かなり地味な役割だな。ごはん盛る係りって……あれはあれで、けっこう気を遣うんだぞ。多すぎてもいけないし、少なすぎたら文句言われるからな。


「知ってるか? 昨日カインが帰ってきたこと」


「ああ」


「それを知ったギルドは、意見が二つに分かれてんだ。連子をマスターから引きずり下ろして、カインに戻ってきてもらうってのと、連子を支持する連中だな。いうなれば、カイン派と連子派ね」


「お前けっこうしゃべるな……今、軽く引いてるぞ」


「しゃべらなかっただけだよ。チャットもそんなにうまくなかったし。とにかくさ、今ギルドはめちゃくちゃなんだ。カインでもなんでもいいけど、俺としてはなんとかして欲しいわけ。このままじゃ、真っ二つだぜ? そうなったらいよいよギルド内で抗争とかになるんじゃねー? めんどいだろ、そんなの」


「なるほどね」


「……それより、俺のリアルさらしてあるURL教えろよ。俺が女だってこともどうせばれてんだろうな……」


「え!? お前女の子なの?」


「何だ知らなかったのか……」


「いや、ごめん。さっきのウソなんだよ。お前を誘導するための」


「はあ!? マジかよ。まあ、いいや……椛、ギルドの事、考えとけよ」


「ああ……一応な」


「じゃあな、俺行くわ」


 しかし、左 翔太朗はすぐに村に帰還しなかった。


「ああ、それと」


「何だよ?」


「さっきのウソだから。俺、男だぜ? マジで女だと思った? 騙されてやんのw ばーかw」


 それだけ言って、左 翔太朗は消えた。


 ちょっと、むかついた。

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