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たぎる熱い思い

「PK。うざい」


 倒れた牛肉500gを見て豚肉500gが発言する。すぐさま攻撃モーションに入り、斬魔に向けて二本の矢が放たれた。


「OSEEEE! 当たらないよ~んwww」


 だが、斬魔はそれを余裕で避けきってみせる。それにも構わず肉屋は再度矢を放つ。斬魔は遊んでいるのか、それをのらりくらりとかわし、ソーシャル『笑う』で小ばかにしたような低い笑い声を上げると、装備していた防具を脱ぎ、裸(裸体という意味ではなく、防具未装着をいう)になってわざと攻撃を受けてみせた。


 逆上した肉屋は、今もなお裸で笑い続ける斬魔に向けて、スキル『ペネトレイトシュート』を豚肉500g、鶏肉500gから同時に放つが、斬魔はそれを待っていたかのように忽然と姿を消し、鶏肉500gの背後を取ると、デュアルスタッブで瞬殺した。


「クソ肉乙www 全部まとめて合挽きミンチやなwww」


 残された豚肉500gに斬魔が容赦なく罵声を浴びせる……肉屋に注意が向いている今、この隙を突くしかない。


「プン、こっちに戻って来い! 肉屋と斬魔が潰し合っている間に逃げるぞ。ケルさんも、いいですね?」


「あーー>< ちょっとまってえ;;」


 ケルから了解を取り、プンがリターンの適用範囲内に入ったのを確認して、リターンを発動させる。


 リターンの発動まで5秒。4……3……しかし、普段の行いが悪いのか、こういう時に限って嫌なことが起きる。


 突如、オレの目の前に出現したマンイーター。まずい。こいつはアクティブモンスターだ。プレイヤーが近くにいれば、向こうからやってきて攻撃を仕掛けてくる。


 しかも、オレはさっき肉屋から受けた攻撃で瀕死の状態なのだ。一撃でもこいつの攻撃を受ければエルトは即戦闘不能となり、発動中のリターンは解除され、プンも、ケルも、ダンナも、ついでにヤマモトも斬魔にやられてしまう。


 他の誰かがこいつを倒そうにも、離れたプンをリターンの範囲に入れる為、ケル達から遠ざかったのがまずかった。


 ――ダメだ。やられる。


 マンイーターがオレの眼前に迫る。攻撃の間合いに入ってしまった。だが、まだリターンは発動しない。


 その時。急に視界が白い物に遮られ、マンイーターの断末魔が聞こえた。


 その白い物は、よく見ると長い銀髪で、フェイブの青年の後姿だった。巨大な剣を構え、青年は斬魔に向かって駆けて行く。


 その姿を捉えてすぐ、リターンの詠唱が完了しロード画面に移行すると、ディスプレイは暗黒を映し出した。


「椛……?」


 唯一の光源であったディスプレイの光すら失った完全な暗闇の中で、オレは一人そう呟くと、一人安堵した。


 この数日で二度もあいつに助けられた。今の今まで……1年近くすれ違うことさえなかったのに……。


 ふと、目の前に一筋の光が差した。それは何の比喩でもなく、単にロードが終わり、画面の読み込みが始まっただけだ。


 気を取り直して、再び意識をゲームへと戻しディスプレイに視線を注ぐ。


 ロードが終わるとディスプレイには、ミロンの村とプン達の姿が映しだされ、全員の無事が確認できた。


「エルくーん怖かったよー\(;o;)/」


 村の中心で、プンがオレの姿をみつけるとすぐに駆け寄ってきて、ソーシャルで抱きついてきた。


「全員無事みたいでよかった」


「あれって、斬魔よね? 肉屋をPKした後、誰かと戦ったみたいだけど、エルトくん誰か知ってる?」


 ケルもあの瞬間を目撃したらしく、オレに意見を求めてきた。


「オレも見たのは一瞬だから、確証があるわけじゃないけど……椛だと思います」


「椛って……確かトーナメント一位で、元灰色の狼の?」


「詳しいですね、ケルさん」


 そうだ。椛は元々灰色の狼に所属していて、ある時ギルドを抜けてフリーになった。どういう経緯でそうなったかは知らないが、今は一匹狼になってPKKをしている。


「アタシも一度世話になった事、あるんだよね~。ダンナと召喚契約(けっこん)できたのも、あの人が手伝ってくれたお陰だし」


 椛はPKK以外にもそんな事をしていたのか……。


「ねーエルくん。椛さんを助けに行かない?」


「はあ? お前はアホか。椛が負けるわけがないだろう、行ったらただの足手まといだ」


 プンが突然わけの解らないことを言い出したので、即否定してやった。


「でも、PKの斬魔さんってPKギルドのマスターさんなんでしょ(?_?) 今日も一人とは限らないんじゃない?」


 意外にも、プンはオレの言葉に逆らってきた。だが……確かにそうだ。


 斬魔はPKギルド『ヴァーミリオン』のギルドマスターである。前回の教訓から伏兵として仲間を回りに潜ませているかもしれない。多対一では、さすがの椛でも負けるかもしれない。


「ぼくちんもプンちゃんに賛成ですお。この前ぼくちんをバカにしたお礼もしてやりたいし、例え死んで経験値が減ったとしても、あいつに一撃入れば満足しちゃいます」


「アタシは元々椛の世話になってるからねー。やるっていうんならダンナが力を貸すよ?」


 いや……状況がはっきりしていない以上ヘタに動くのは危険だ。けれど……気にはなる。


 斬魔は短気で粘着質な奴だ。一度受けた屈辱は必ず返しに来る。どんな手を使ってでも。


 その斬魔を先日から椛が追っていた……ならば……プンの言う事もあり得るかもしれない。


「わかった。けど、まずは状況を確認してからだ。オレが一人でさっきの場所に戻って状況を確認する。なにかあればすぐにチャットで知らせるし、危なくなったら即リターンして逃げる……いいか?」


 全員がそれに賛成したのを確認し、テレポーターを使ってウェルド大森林へ一人向った。


 周囲のアクティブモンスターに察知されないように注意を払いつつ、先ほど肉屋と斬魔がやりあっていた川まで戻ってくると、オレが見たのは森の奥へと消えていく斬魔の後姿だった。


 まさか……椛は……?


 周りには誰もいない。いや……倒れている三人のエルフに気が付いた。


 肉屋なら……何か知っているかもしれない。


「何があった? 斬魔と戦ってたフェイブはどこへいった?」


 素早くキーボードを叩き、肉屋から情報を聞きだす。


「やられた。急に動きが止まって、斬魔が一方的に一人で殴り続けてたら、やられてた」


「やられた? ちょっと待って。『一人で殴り続けてたら』てことは斬魔一人ってこと?」


「読解力なさすぎ。斬魔はずっと一人だった。たぶん、回線が切れたか、ラグの間にボコられたんじゃないの」


 素直に答えてくれるとは思わなかったが、一応聞きだす事はできた。どうやら相手は斬魔一人で、椛がPCの不調か何かで動きが止まった時を突かれ、やられてしまったようだ。


 椛を……許せない。不意打ちでPKをするとは……この前の礼もある。せっかくレベルを上げたプンやヤマモトの経験値を奪って、その上にツバと罵声を浴びせた斬魔……。


 椛は今どうしているだろうか? ここに死体がないということは、すでに村に帰還してしまったか、そのままログアウトしてしまったのかもしれない。


 このままではあいつがかわいそうだ。仇をとってやりたい。


 あいつは、曲がったことが嫌いで正々堂々を好む奴だった。だから、この状況に憤っているに違いない。初心者の頃から見ていたから解る。……PKKになったのも、おそらくPKを減らして、少しでも他のプレイヤーが安全に狩りができるようにということだろう。


 オレはすぐさまマップを開いた。斬魔が逃げていった方向を確認する。


 プン、ヤマモト、ケル、そしてオレのレベルとスキルを全て再確認。


 条件は整っている。


 ――やれる。


 まったく。あれほど熱くなるなと自分に言い聞かせていたのに……これではヒーラー失格だ。


 でも、今はそれでいい。1年振りだ、この感じは。


 他人に対して熱くなったのは。


 やってやるか。そのためにも、こいつの力が必要だ。


 オレは、リザレクションを使用して肉屋を蘇生した。


 蘇生された肉屋は状況を飲み込めないのだろう。少し間を空けてオレに問いかけた。


「何で蘇生した。頼んでない」


「斬魔が憎いか?」


「当然。3回殺したい」


「なら手を貸せ。その為にお前を蘇生したんだからな」


「何をするの?」


 少し興奮していた自分を落ち着かせ、コーヒーを少し口に含む。キーボードの上の指を静かに早く動かし、オレの目的を肉屋に伝える。


「斬魔をPKKする」

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