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『ふざけるなよ』

あけましておめでとうございます。

今年もカオス・クロニクルをお願いします。

 ケルはべたべたと炎に包まれた屍にまとわりつく。その様子にオレを含め全員ドン引きしていた。


「さあさあさあ! おっ始めるわよ、ヤロウ共! アタシのダンナのアシストよろしくぅ♪」


 ケルはそう言って、ダンナ……フレイムゾンビをMOBの群れに突っ込ませた。


 オレ達も遅れないようにそれに続く。プンがMOBにヘイトをして、近寄ってきたところを全員で叩く流れだ。要は昨日と同じである。


 プンのヘイトで引き寄せられたマンイーターに、炎に包まれたダンナの右手が直撃する。炎の打撃エフェクトが激しく鳴動し、マンイーターは瞬く間に枯れ木となって大地に還った。どうやら、クリティカルヒットが出たらしい。


 ケルはフレイムゾンビこと、ダンナの勇姿に見惚れていた。相当あのアンデッドに愛着があるようだ。サマナーを選択する人間というのは、変わり者が多いという噂を思い出す。


 基本的にサマナーはソロ特化の職業だ。召喚獣専用の回復魔法と強化魔法をそなえ、自分の手足として扱う。召喚獣は一緒に狩りをすることでレベルが上がり、成長ポイントを好みのステータスに振り分けることが出来る。


 フレイムゾンビは攻撃力特化のMOBなのだが、あの様子を見る限り、さらに攻撃力に成長ポイントを割り振っているのだろう。強化に強化を重ねたダンナの一撃は凄まじい。


 それも、ヤマモトの出番がほとんどないくらいで2、3発のダンナの攻撃で次々とマンイーターの墓場ができあがっていく。


「ああああん。ダーリン。最高♪ ねえねえねえ! 見てよあの炎に包まれた手! あんな腕に激しく抱かれたいと思わない!? プンちゃん、エルトくん?!」


 何でオレにまで振って来る……いい迷惑だ。


「けっこうです」


 この人は相当変わり者だ。


「プン、冷え性だから暖かいの大歓迎です*^^* ダンナちゃんのツルツルした頭がなんだかカワイイですね、きゃはo(≧▽≦)o」


 類は友を呼ぶんだな。


「……」


「どうした、ヤマモト?」


「ダンナさんハアハア……フレイムゾンビは生前麗しき乙女であったという公式設定が……」


 ごうごうと炎を逆髪のように、ちょっとグロい頭部から噴出しているダンナが、生前麗しき乙女だと言われてもしっくりくるはずもない。しかし、ヤマモトはそこからさらに想像力をめぐらせ、その姿を脳内で補完したようだ。


 こいつは、相手が女なら生きていようがアンデッドだろうが、どっちでもいいらしい。本当に何でもアリなのか。


 ダンナが凄まじい勢いでMOBをひねり潰して進む。正直、オレとヤマモトはやることがなかった。


 プンがMOBを引いて、それを一方的にダンナが倒すというもので、あまりにも単調すぎて拍子抜けする。だから、気を緩めてしまった。まさしくその『矢』先――。


「きゃああああああああああああ! だ、ダーリンがあああ! くおらぁぁぁあ、どこの誰じゃい! ウチのダンナの頭に矢ぁ放ったんは!?」


 凄まじいケルのシャウトがエリア一帯に響く。どうやら、ダンナが攻撃を受けたらしい。それもただのMOBではないようだ。


「あ♪ でもでもぉ。頭に矢が突き刺さったダンナもステキ……」


 ……いいのか。


 しかし……ここは植物系のMOBが主体の狩り場だ。弓で攻撃してくるMOBはヒューマノイド系がほとんどで、このウェルド大森林には存在しない。


「エルくん、お肉屋さんだよー、ほらあれ^^」


 お肉屋さん……プンが動き出した先、小さな川の向こう岸には三つの人影……肉屋がいた。ダンナを攻撃したのはあいつらしい。


「ここは私の狩り場。それ以上近づくなら、PKする」


 一方的な肉屋の発言。……冗談じゃない。一度ならず二度までも……昨日だってキレる寸前でなんとか押しとどめたのだ。一言文句を言ってやらねば気がすまない。


 オレはエルトをみんなから一歩前に出し、キーボードを素早く叩き込んだ。


「ここの狩り場は、昨日の炎の祭壇の倍はあるでしょう? いくらあんたでも全部のMOBを狩りつくす事はできなはずだ。こっちが端っこで狩りをすれば、住み分けができるんじゃないですか?」


 しばらく沈黙があった後。肉屋は再び口を開いた。


「駄目。MOBが足りない。お前達はよそで狩れ。ここは私が4時間前から使ってる。それでもここで狩りを続けるなら」


 肉屋のセリフが終わると同時。エルトのHPゲージが赤く点滅した。


「PKする。お前達全員」


 エルトのHPは二桁になってしまっていた。肉屋の放った矢が深々とエルトの胸に突き刺さっている。エルトは荒い息を吐いて今にも倒れそうな状態だ。ディスプレイに映る肉屋の身勝手な振る舞いに、オレの中で熱いモノが煮えたぎった。


『ふざけるなよ』。それは、誰もいない暗い部屋で呟いたリアルの自分の言葉。ぬるくなったコーヒーを飲み干し、キーボードに指を走らせる。


「エル君に何するの><」


 プンがオレの想像を裏切り、真っ先に肉屋に攻撃を仕掛ける為、動き出した。川を挟んで向かい合う形になっているわけだが、プンは川を越えるまでに無数の矢を体中に受け、まるでハリネズミのようになっている。普通なら即死レベルのダメージを受けているはずだが、持っていた回復薬類を全て使用してなんとか耐えているようだ。だが、もう持たないだろう。


「プン、やめろ! お前が死ぬぞ!」


「大事な友達にこんな事されて、黙ってられないよ><」


 プンが川の中ほどで歩みを止めた。するとプンの体に光が集まり、それが全身を包み込んだ。そこに再び無数の矢がプンに襲い掛かる。だが、プンは倒れない。どうやら、防御力を極大化するスキル『ファイナルプロテクション』を使用したらしい。30秒間の間、自分の防御力に+3000されるそのスキルのおかげで、プンは力尽きることなく向こう岸にたどり着いた。


 プンはすぐさま肉屋の一人、豚肉500gに斬りかかった。


 プンの放った斬撃がエルフの女性を横一文字に切り裂き――牛肉500gが倒れた。


「あれ@@?」


 プンの攻撃はまぎれもなく豚肉500gを捉えていたのだが、直後に倒れたのは何故かその右の牛肉500gであった。


「肉屋YOEEEEEE! そしてUZEEEEE。正義の味方、みんなのアイドル。斬魔様参上~はい、拍手~www」


 漆黒の塊が牛肉500gの後ろから現れる……それはPK斬魔だった。

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