いつかの落日(前)
緑の閃光が網膜を焼いた。
もし本当にこれで幸せになれるのなら、もう少し。あと一日だけでも構わないから、今日よりも早く見たかったと思う。それでこの喪失を、食い止めることができたのなら。
隣に寄り添う温もりは、とても愛おしく思えた。けれど身体から抜け落ちた欠片が、二十一グラムの存在が、今は何よりも重い。
「ごめん」
堪え切れなくなって膝を落とした土の、固い感触を感じてまた涙が零れ落ちた。あいつを攫って行った柔らかな風が髪を擽り逃げてゆく。揺れる草木のざわめきと、聞き慣れた川のせせらぎがやけに鮮明だった。
いってしまった。いなくなってしまった。それだけがわかる。
「ごめん……っ、違うんだ。泣きたいわけじゃないのに」
言いながら、それでも落ちることをやめない雫を降り積もった悔恨ごと、ぬくったい腕で掬い上げられて。浅ましい願いを失ってぽっかり空いた隙間を、惜別の涙に濡れたやわい肌が抱きしめる。
愛しさも哀しみも、それから耐えようのない寂しさも、全てを照らす真っ赤な夕陽と一緒に瞼の裏へ閉じ込めた。
目を閉じて想う、握りしめた手のひらの、くしゃりと鳴いた存在の証に。
もうけして逢うことのない、大切な、何よりも大切だったお前に。
――――どうか、と、祈った。
ブロローグ(この話)をいれて前26話の中編です。この後別のサブタイトルで本編がはじまり、いつかの落日(後)は最終話になります。しばしお付き合いいただけたら幸いです!^^