セレナと瀬玲奈、夜の対話
夜……私は手にランタンを手に持って一人で屋敷の一階の見回りを行なっていた……。
日中はメイド達をはじめとした多くの使用人達が行き交う通路も夜中は静まりかえり、私の足音だけが不気味に響いていた。
「うぅ~……、こ……怖いよぉ~……お化けとか出ないよね……?」
学園の宿直の先生とかもこういう見回りみたいなのやってるんだよね……?
怖くないのかな……?私だったら絶対に無理……!
「ね……ねえ、セレナ……。怖いから話し相手になってよ……」
『……日常生活はお前の担当なんだろ?私は知らん』
私はセレナへと声を掛けるも冷たくあしらわれてしまう……。
もしかしたら無理矢理体の主導権を奪った事を根に持っているのかもしれない。
「そんな事言わないでよぉ~……、びえぇぇぇぇぇ~……!」
『泣くな、鬱陶しい……!』
セレナとそんなやり取りをしていると窓に何かが当たる音がした。
なんだろう……?
『……瀬玲奈私に代われ』
「え……?」
音のしたほうへと向かおうとするとセレナに止められてしまった。
『私の"客"だ』
「う……うん……、分かった……」
私はセレナに従い体の主導権を譲ることにした。
──セレナ──
私は瀬玲奈と代わると窓の方へと向かう。
するとそこには一人の男の姿があった。
彼の名は「ゼンカ・クラウベル」、私に剣術や暗殺術、体術を仕込んだ人物だ。
ゼンカは私に気がつくと声を出すこと無く口だけを動かす。
その口の動きから見るにゼンカは"首尾はどうだ?"と言っているようだ。
私はゼンカから口の動きだけで言葉を読み取れるよう訓練も受けている。
そのため声に出さずともある程度は分かる。
そして、私もまたゼンカへと口パクで返事をする。
(潜入はうまく行った。しかし、カイゼルとユリスの暗殺にはまだ至ってはいない)
(フェルナンデス家の使用人どもが優秀だということか?だが、あまり悠長にしている暇はない、クロヴィス様が待ちわびておられる)
(分かっている……)
尤も、その暗殺の最大の障害が私の中にいる瀬玲奈なのだが、それを言ったところで信用される可能性は極め低いだろうと判断し黙っておくことにする。
(それではまた連絡する……)
(ゼンカ、待ってくれ……)
(……なんだ?)
(……今日別の刺客が現れた。奴について何か知っているか?)
私は瀬玲奈が言っていた、『クロヴィスが私の両親の仇なのか』と聞こうとしたが、それを取りやめ代わりに今日襲撃してきたサリアについて聞いてみることにした。
(それは俺にも分からん。だが、それは少なくともフェルナンデスを狙っているやつが他にもいるということだ。両親の仇を横取りされたくなければ早々にカイゼルとユリスを殺せ)
(……分かった)
私が頷くのを確認するとゼンカは姿を消した。
『ねえ、セレナ話って終わったの?』
ゼンカがいなくなった途端今度は瀬玲奈が話しかけてくる。
ち……本当に面倒な事だ……。
(ああ……、終わった)
『ねえ、一つ聞いていい?今の人ってゼンカでしょ?』
(っ!?貴様なぜゼンカを知っている……っ!?)
ゼンカを知っている……瀬玲奈のその言葉に私は戸惑いを隠せなかった。
『実は私この世界のストーリーを大体は知ってるの。でも、変なのよね。ゼンカはこの屋敷には来ないはずなのよね……』
(……どういう事だ?)
『それは私にも分からないんだけど、あとセレナが言っていた別の刺客?それも出てこないはずなのよね……』
(サリアの事を言っているのか?)
『その刺客ってサリアっていうのね。でもサリアってキャラクターはこの物語には出てこないはずなの』
(……瀬玲奈、お前の知っていることを全て話せ)
『いいよ』
私は瀬玲奈から話を聞き驚愕した……。
瀬玲奈はこの世界とは違うところから来た人間。
しかもこの世界のことを知っている……。
私の本名が「セレナ・ヴァルティア」だと言うこと、両親が侯爵であること、ユリスは盲目ではなかったこと、私が幼い頃にクロヴィスに引き取られたこと、さらに両親を殺し、私を操ってフェルナンデス家を殺させようとしている黒幕こそがクロヴィスだと言うこと……。
そして……最後は私はすべての罪をなすりつけられクロヴィスに殺されるという事……。
さらにヴァンやミレイユのことについても教えてくれた。
ヴァンは元傭兵でミレイユは元暗殺者……なるほど、あの二人は只者ではないと思っていたがそういう事か……。
(瀬玲奈の言うことはにわかには信じられん……が、私の本名を知っていたりと話を聞く限りでは一概にデタラメとも言い切れないな……)
『でもね、クロヴィスがなんでセレナの両親を殺してフェルナンデス家の人たちを殺させようとしているのか、その動機を思い出せないのよねぇ~……確か原作で描いていたような気がするんだけど……なんだったかしら……?』
(……瀬玲奈、代われ)
『え……ちょ……!』
私は強引に瀬玲奈へと体の主導権を押し付けると心の奥底へと自らもぐったのだった……。