セレナ・ラティクスとは
当主であるカイゼルさんのいる執務室を出た私は執事のヴァンさんとメイド長であるミレイユさんとともに屋敷の中を歩いていた。
ヴァン・クローデルさん……、確か原作ではこの屋敷の執事で無口で寡黙ながらも冷静な判断力と忠誠心もつ人物。
元傭兵で戦闘力は高いという設定だったと思う。
確かセレナとは度々敵として立ちはだかっていたのよね……。
そしてメイド長のミレイユ・サフィールさん……、洞察力と直感力に優れ優しさをも兼ね備えた女性。
元暗殺者でいつもセレナの企みにすぐに気が付いては阻止してきたのよね……。
だけどこの二人も最終的にセレナに殺されてしまう。
私的にはこの2人も結構気に入ってたので、セレナが殺した時にはショックを受けた覚えがある。
(それにしても……立派なお屋敷ねぇ~……)
大理石の壁に床には赤い絨毯が敷かれている。
マンガではモノクロでよく分からなかったけど、実際はこんな綺麗なのね~……。
フェルナンデス邸……。
原作では、確かフェルンと言う中規模の街の中心部に建っている屋敷で、フェルナンデス家はこの街の領主じゃなかったかしら……?
「……セレナ・ラティクス、何をキョロキョロしている?」
「え……?あ……すみません……」
「物珍しいのは分かりますが、あまりキョロキョロしていては不審がられますよ」
「わ……わかりました……!」
私は緊張しながらヴァンさんとミレイユさんに返事を返す。
と、そのときふと壁に掛けられている鏡を見るとそこには今の自分の姿が目に入る。
そこに映っている私は、黒髪ではなく栗色のショートヘアの髪型に元の私よりも控えめな胸……。
それは紛れもなくマンガに登場していたセレナ・ラティクスそのものだった。
セレナ・ラティクス……本名「セレナ・ヴァルティア」17歳、ヴァルツァと言う街の出身。
ヴァルティア侯爵の娘で幼い頃に両親を殺された悲劇のヒロイン。
しかもその殺した犯人と思われるのがここの主、フェルナンデス伯爵だ。
クロヴィス・ノクスベル子爵の手の者が現場にフェルナンデス家の紋章が刻まれた落ちていたのを発見し、これはフェルナンデス家の仕業だと断定。
それによりセレナはクロヴィスの家臣であるゼンカ・クラウベルに剣術、体術、暗殺術等の様々な訓練を受け、心を持たない戦闘マシーンとされたセレナはカイゼル、ヴァン、ミレイユ、そしてユリスを殺し、その後黒幕であるクロヴィスの手によって処刑される……。
なぜクロヴィスがヴァルティア夫妻やフェルナンデス家を消そうと思ったのかは思い出せないけど、このまま行けば間違いなくセレナは何人もの罪のない人々を手にかけ、最後には自らも殺される運命にある……。
それだけはなんとしても避けないと……!
「……おい、セレナ・ラティクス聞いているのかっ!?」
「え……っ!?あ……す……すみません……っ!」
考え事をしていたらヴァンさんに呼ばれていたみたいだ……。
「ここがユリス様のお部屋だ。しかし……本当にお前で大丈夫なのか俺は不安になる……」
「そうですね……、最初の時と雰囲気がガラリと変わりましたからね……」
鋭い視線で私を見るヴァンさんに対し、ミレイユさんは苦笑しながら私を見ていた。
そ……そんなこと言われても私はセレナ・ラティクスじゃなくて早乙女 瀬玲奈だもん!
「それと……そのスカートの中に隠してるモノはどうする気だ?」
「え……?」
私はヴァンさんに言われてスカートの中へと手を入れると太ももの辺りに何か細長い物が付いていた。
なんだこれ……?
私はそれを抜くとなんとナイフだった……!
うぇぇぇぇぇぇーーー……っ!?
なにこれぇぇぇぇぇぇーーーー……っ!?
こんなの私知らないよっ!?
「……セレナ・ラティクス、ユリス様に会わせる前に少し時間をもらおうか」
「あなたがここに来た目的……じっくり話を聞かせてもらいましょうか……?」
私はヴァンさんにナイフを取り上げられると、そのまま私の首筋へと突きくけられ、ミレイユさんからは何か針のようなものを腰に当てられる。
「はは……あははは……お……お手柔らかにお願いします……」
私は青ざめながら両手を上げると別の部屋へと連行されたのだった……。