表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/15

【番外編】リヒト殿下の想い ①

リヒト殿下から見たお話です。

3話予定です。


よろしくお願いします。



 荘厳な扉が開かれた。

 中へ入ると、雲ひとつない青空に地の果てまで広がる花畑、山には澄んだ水滝が流れていた。

 金と銀の竜が滝をのぼり、その水しぶきに虹がかかっている。美しい光景だった。


「綺麗な世界ですね」


 私の最愛ローズマリーが、感動した声で呟く。


「ええ。あの金と銀の竜を捕まえて祝福を受けることが、私達の儀式なんです」

「まあ! あの可愛らしい竜達と鬼ごっこですか。楽しそうですね」


 王家を守護する金と銀の竜の祝福を受けないと、この結婚は認められない。

 国の繁栄も難しくなる。

 だが、我が婚約者殿は楽しそうに笑っている。

 彼女の笑顔が、こちらまで楽しい気持ちにさせてくれた。


 金の竜は太陽と光を司り、銀の竜は月と闇を司る。

 そして王家を守護する大切な存在だ。

 彼らは王宮の奥にあるこの異空間で暮らしている。

 この異空間では時間がゆっくり流れているので、加護を得られるまで挑戦することができる。

 諦めたら、そこで儀式は失敗だ。

 

 結婚する2人の相性も、試されているのだろう。

 まず王妃になる女性は、竜に愛される人でないといけない。

 幸いなことに、ローズマリーはアグニス公爵家の守護竜に気に入られている。

 王家の守護竜達も、彼女を気に入ってくれるだろう。


「あの可愛い竜達を捕まえたら、皆でお茶会をいたしましょう。たくさん用意してきました。守護竜様達の気にいるものがあれば嬉しいですわ」

「きっと気に入りますよ。守護竜様達も喜びますよ」


 私達は笑い合うと、守護竜達を追いかけて走り出した。

 


 

 楽しそうに駆けていくローズマリーの背中を見つめ、リヒトは幸せを噛み締める。

 かつて乳母に言われた言葉を思い出す。



「リヒト殿下。いつかきっと…………出会えますよ…………」

(そうだね。出会えたよ。思ったよりも長くかかったけれど。あの言葉は本当だった……)





★★★★★




 物心ついたころから、私達兄弟は大抵のことは何でもできた。

 嫌味な奴と言われようが、親の七光りと言われようが、言った奴らは何もしなくても社交界から消えた。

 老若男女を問わず、皆がすり寄ってきた。


 こんな環境では、子どもの成長に悪いのは分かっていた。

 そして、ついにやらかしたのが長兄だった。


 婚約者のラフレシア公爵令嬢を、王宮のパーティで冤罪をかけて婚約破棄したのだ。

 そして、すぐにラフレシア様の兄ブレイズ様に、完全論破されて兄上の方が捕まった。

 長兄はアホだ。成績は良かったのにアホだった。

 大事なことなので二回言った。


 王家は、軍事や治安を担うアグニス公爵家とその派閥の支持を失ったのだ。

 アグニス公爵家は、それだけのカリスマ性をもった家門だ。

 長兄が愛人に貢ぐためにした借金も発覚した。

 王宮内の治安が悪くなり、家臣達の不満が爆発した。


 

 ある日、酒に酔った騎士が私を襲ってきた。

 幼い私をかばって、乳母が大怪我をした。

 私は震えて泣いていることしか出来なかった。

 乳母は怪我が元で退職して、王宮を離れることになったのだ。


「行かないで。王宮は恐い……! 誰も信じられない!」

「リヒト様。いつかきっと貴方が信じられる方に出会えます。だから、それまでどうか生き抜いてください」


 乳母は目に涙を浮かべて、私を抱き締めた。


「最後までお守りできずに申し訳ありません……」

「行かないで……。お願い……!」

「どうか、お健やかに……」

「…………ばあやもね……」


 私達は泣きながら別れた。

 門番はしらけきった目で、私達を見ている。

 兄上が婚約破棄騒動を起こす前は、誇りをもって仕事をしていた彼らが、今は私達王族を軽蔑している。


 人は裏切る。

 信じられる人なんて、現れるわけがない。

 乳母は私を慰めるために、希望を言ってくれたのだろう。

 だから、信じたふりをしよう。

 私のために大怪我をした優しい乳母のために。



 私の無邪気な子ども時代は終わった。

 大人達の顔色を伺い、笑顔で綺麗な嘘をつく。

 信じたふりをして相手を観察して見極める。

 優しくすれば恩を感じるタイプなら、優しさを与える。

 優しくすると付け上がってくるタイプなら、冷たくする。

 私の好き嫌いは関係ない。


 たくさんの人達に囲まれ笑顔で歓談しながら、私はずっと孤独だった。

 気持ちが休まる時などない。


 その後も揉めに揉めて国力が下がった。

 近隣諸国に、経済的にも軍事的にも攻めこまれて大変だった。


 やがて次兄と土魔法の家門の侯爵令嬢が結婚し、長女とアグニス公爵家令息が結婚した。

 王宮は少しずつ落ち着きを取り戻していくことができた。



 甥のアーロンが生まれて、アグニス公爵家にもフローラ公爵令嬢が生まれた。

 アーロンは、両親が多忙で放っておかれて寂しそうだった。

 可哀想なので食事を一緒にとるようにして、一緒に遊んだり勉強を教えてやると、私にとても懐いてくれた。

 私もアーロンは可愛かった。


 しかし、土魔法の派閥の母をもつアーロンと水魔法の派閥を母にもつ私とで、王位継承で周りが騒ぎだした。

 そこで私は、隣国に留学することを願い出たのだ。

 ちょうど隣国には、私が興味を持っている召喚術がある。

 それを身につければ、将来アーロンが王になった時に助けてやれるだろう。


 私が留学する時、アーロンは泣きながら馬車を追いかけてきた。その姿に胸が痛む。

 留学先では、アーロンと同じ年のカエルム殿下と親しくなれた。

 アーロンとも手紙のやり取りをして、私達は親しくなっていくことができたのだ。



 やがて私の留学期間も終わり、カエルム殿下と一緒に帰国することになった。

 驚いたことに、アーロンは国境まで近衛騎士達と迎えに来てくれたのだ。

 もっと驚いたのは、無邪気なアーロンが気難しい顔つきになっていたことだ。

 話し方もとても大人びていた。

 アーロンの提案で帰国への道を変えた。

 道中、どこかで大騒ぎがあったらしいが、無事に帰国することができた。


 その後、アグニス公爵家へ嫁いだ姉の所へ、挨拶に行くことにした。

 なぜかアーロンとカエルムも着いてくると言い出したのだ。


 アグニス公爵家の庭園は美しく整えられ、花が咲き乱れていた。

 ローズ姉様とフローラ公爵令嬢は、私達を快く出迎えてくれた。

 姉様は幸せそうに笑っていて、私は安心した。

 王家の失態の償いとして降嫁した……なんて噂もあったのだ。心配していたが良縁だったようだ。


 娘のフローラ公爵令嬢も愛らしい少女だった。

 カエルムが見とれて固まっている。

 困ったな。フローラ公爵令嬢はアーロンの妃になってほしいんだが……。

 お茶会の間、アーロンはずっと俯いて暗い顔をしている。

 どうしたのだろうか。心配だ。


 フローラ嬢は、自分付きの侍女を見ては嬉しそうに笑っている。彼女にとても懐いているようだ。

 その侍女は所作がとても美しく品がよく、目が吸い寄せられる女性だった。




 なぜか乳母の言葉が浮かぶ。


『リヒト様。いつかきっと貴方が信じられる方に出会えます。だから、それまでどうか生き抜いてください』




 その女性がローズマリー・ハービーだった。





読んでいただきありがとうございます。


なるべく近いうちに次をアップしたいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ