3話:ガーディアンズと地を這う音
「ワシと、ワシの仲間が作ったこの世界を同郷の若者たちに自慢したい⋯⋯⋯キミたちを日本から招待した理由は、ひとえにそれだ」
煙をあげる鉄板、油の溶けた汁のあぶく音、窓の外をキリッとした顔で見上げる暗黒皇帝そりまちさん⋯⋯。
「うんまッ! ぜったいええ肉やろこれ!」
ヨダレをくう龍、
「牛? 豚? 鳥? 異世界やしモンスターか? うまいけんええわ!」
ヨダレをくう虎、
「くふふふこれだからオツムのたりない不良どもはミディアムレアで腹痛をおこ――スッ!? てちょっと待ちなさい! そこはわたくしが育てているエリ、アーーーーーーーーっーーーーーーっ!」
すべてをかけた待望の肉片たちが消え去り、絶望のふちでメガネのフチをつかむミート。
「ねえ、聞いとる?」
そりまちさん、(ワシ、ちょっとご傷心⋯⋯)といった感じに眉尻をさげながらも、虎と龍が取り荒らしてからっぽになった鉄板に、肉をたしてると、
「そのお肉いただきぃ――っ!」鉄板の真上のシャンデリアから蜘蛛の糸のようにクサリをたらして、宙づりで身を乗りだしてきたのが忍者娘「ハトリちゃんただいまさんじょっ! (ぐぅぅ!) おなかすいたのーーーー!」⋯⋯だったのだ。
「これねあのね! 裏庭に住んでるミノルさん(恐竜みたいな牛みたいな巨大モンスター)のシッポなんだよー! 生えるから、毎日もらってくるの!」
と、クナイの先で虎の取り皿から器用に肉をひろいあげたハトリが食べながら破顔すると、
「ミノルさんも気になるけどや、パンツ見えとるで」龍は真顔で注意し、
「いやスパッツちゃうか?」虎は興味のないそぶりでそっぽを向きながら横目でチラリ、
「スパッツに類似するスポーティなパンツではないでしょうかねええ。 ちなみにですがミノルさんとはメスオスどちらでしょう?」
ミートはメガネを持ち上げた。
「ミ、ミノルさんは両性類かなあっ?」
こんこんこんっ――ノックとともに食堂のドアが開いたのは、バッと浴衣のスソをおさえたハトリの紅頬姿を写真におさめようとしたミートのスマホを、「割ると消し炭どっちがいいか?」そりまちさんが没収したときだった。
「混沌としていますね」
「オイっちゃーーーーんっ!」その声が聞こえるなり、クサリを一回転させ宙を蹴り、ハトリは助けを求めるように胸元に飛びついた。
「あげませんよ」しかしオイチは片手に持ったプレートをさっと上げるのだ。
「ケチー!」どうやらハトリの狙いはハグではなく、アツアツのスイートポテトをアイスクリームでフタしたデザートだったらしい。
「どうも、あらためてようこそアフロンティアへ。
私はオイチ、暗黒皇帝そりまちさん率いる“ガーディアンズ”の一員であり、いまはこの“アーチタウン帝国”の長へとつかされたマスターのサポートをしています。 お見知り置きを」
「あっ、どもっす」「よろしくお願いします」「これはこれは」
言葉をとめたミートは三つ指をつくと、まっすぐな視線をオイチにむける。
「ぜひとも末永きお付き合いを望みます」
「それは結構です」
「結構ですか」ミートは豪快に(虎の)肉をかじった。
「ええなるほど、そうなりますかええ、へええええ」すこししょっぱかったのはいうまでもない。
「マスターより、このたびのご招待についてご説明を受けたかと思われます。
それでみなさんは、どちらを選ばれたのです?」
「「「どちら?」」」
「はい。 ガーディアンズの一員としてこの世界を堪能していだたくか、魔法の習得ののちこの城を離れるかです」
きょとん⋯⋯? 瞬間的に硬直したあと、言葉の意味を理解すると、ゆるみきっていた三人の頬はこわばる。
「魔法⋯⋯は当然あるとして、ガーディアンズの一員とは何を意味するのでしょう?」
たずねながら、ミートは考える。(名称からして、何かを守護する⋯⋯いえ、そうなると、何かから守護する、つまりは敵が存在することになるのですねえ)
そう、そうなると辻褄が合わない。“招待客歓迎会”、つまりは焼肉パーティーが始まる少し前、そりまちさんは『むか〜しはこの世界も荒れていてよぉ、なんせ多種族なもんで。 いまはすっごく心地いい世界なんだけどな。 ま、喧嘩くれえはご愛嬌でよ』
と、いっていた。
(個人間の喧嘩ていどに守護組織は必要ないでしょうし。 心地いい世界には不釣り合いなネーミングですが⋯⋯)
憶測がめぐるなか、ミートの眉間のシワは深まる。横の龍がまた、ミートの育てた肉を取ったからだ。
「あーーーオイチ、ごめんねそこまで進んでないんだよまだ」
「そうだったのですか?」
「うん」首をかしげる様子を見てそりまちさんは頬をかくと。
「だけどちょーどよかった! 切り出すタイミングがなかったからさあ!
てことで、なあ虎、龍、ミート、お前らどーする?」
「どーするいわれても」「まずガーディアンズとやらがなにか説明して欲しいっす」「といいますよりわたくしたちは招待客のはずでは? 衣食住すべて無償で提供されるべきでは?」
「ガーディアンズってのはな」
当然とみなすか、深く根づいたニート癖ゆえの主張とみなすか、『それでおもしれぇなら、それでもいいぜ?』試すような視線をミートにむけていったそりまちさんが、虎と龍をむいて説明しはじめたときだ。
ズリ⋯⋯ズリリリリ――
大地をなにかがえぐるような音が、ガラス窓をバリバリと鳴らしながらその声をさえぎった。




