99 人気作家(5)
王孫3人と学園長2人のやり取り、そして私の言葉を聞き漏らすまいと、会場内の学生や教師たちは事の成り行きを静かに伺っている。
「その錆びついた頭でしっかり考えなさい。
13歳という最年少で教授に就任したのが誰だったのか・・・そして、王族を動かし学園改革を主導できる人物が誰なのか。
もしも思い出したなら心して決めなさい。決して声を出さず控えているか、今後の身の振り方を考えるため退席するかを。
さあ、選ばせてあげるわ」
まさか学園長に対して、ここまで辛辣かつ容赦なく反論できる者が居るなんて、誰も思っていなかったに違いない。
学生も教師も驚き過ぎて誰も言葉を発しないが、まるで小説のシーンのようだと瞳を輝かせている者もいる。
「あぁ、さすがマシロ様です」と、ミレアが胸の前で手を組んで小声で言う。
「姉さまカッコイイ」と、ショーヤは熱い視線を私に向け、嬉しそうに破顔する。
先日からショーヤは、私をこっそり姉さまと呼んでいる。
【マシロ様】と【姉さま】というキーワードを貰った2人は、怒りに満ちた表情から一転、これ以上開けないという程に目を開け、右手で口元を隠し見つめ合った。
どうやら同じ結論に達したようで、怒りの表情は驚きの表情に変わり、そして絶望の表情へと変化する。
この2人は、私が優秀な大学卒業生を奪っていく生意気な商人であり、行方不明だった王孫ミリアーノだと気付いただろう。
ミリアーノが聖人になったと知っている極少数の者たちは、少し前まで王孫なんだから自国の為に便宜を図るのが当然って考えていた。
でも、【天の怒り】で地震が起きてからは、聖人を怒らせるのは危険であると考えを改めるようになった。
何故考えを改めたのか? それは、王太子妃とバカ孫が王宮を追放され、栄華を極めていたバラス公爵が処刑されたからだ。
そう導いたのが聖人であると、この国の者は知ってしまった。
……学園改革の真髄、腐った学園長を退任に追い込む計画は、これで完了したはず。だよね? 辞めるよね?
青い顔をして壇上から去っていった2人の学園長は、自分の地位と権力を維持するため、何とかしなければと悪足掻きを始めるだろう。
でもねえ、マセール学園の学園長より、聖マーヤ総合大学の学部長の方が格上なんだよね。身分というより学校という括りで、完全に私の方が上。
「何だと!無礼な!」なんて怒鳴っちゃダメでしょう。
入学枠を調整しようかなぁ・・・って私が呟いただけで、学園長はクビよ。
自国の大学受験者に不利益を与える学園長なんて、要らないって親は思うよね。
まあ、そんなことしないけどね。
……それにしても、王孫の注意を無視するって、王族の力って弱すぎない?
邪魔者が居なくなってからは絶好調だった。
作家ブルー・アースは小説の未来を語り、この大陸の未来を語り、固定観念に囚われず時代を切り開けと学生たちを鼓舞した。
そして「君たちも小説を書いてみないか」と誘った。
ホワイティ株式会社の読書感想文大賞に応募して入賞したら、小説家への道が開けるばかりか、賞金や奨学金が貰えたり、隣国ヨンド共和国のリゾートホテル宿泊券のプレゼントもあるのよと、熱く語って宣伝することも忘れない。
これまで賞金や賞品を出す懸賞や、未来の道が開ける公募なんて無かったから、学生ばかりか教師までもが前のめりに話を聴いていた。
……よしよし、いい感じだ。掴みはバッチリ!
講演会が終わった翌日の午前、私は聖人ホワイトとして学園を訪問した。
髪の色を戻し眼鏡も外し、可愛いというより美人顔になってきた素顔で、初めて来ました感を出して学園内を歩く。
教育実習をしている大学生の授業を参観し、私の声を覚えている学生がたくさん居ることを考え、殆ど喋らずに微笑むだけにした。
午後からは、お約束の公式訪問会談である。
聖人の仕事だと割り切り、先にマセール王国の改革状況について説明を聞く。
私は黙って、笑うことなく怒ることなく、無表情で耳を傾けた。
……いや、だって、あまりにつまらないから。
特別に参加を許された王孫ミレア、シャレア、ショーヤは、その内容を聞いて渋い顔をする。
今回の滞在期間中、私は3人と様々な話をした。
特に他国の先進的な考え方を例に挙げ、この国がいかに遅れているかを教え、金だけは持っているシュメル連合国でさえ、自国に大学を創設しようとしているのだと警告した。
……そう、警告だ。
……このままだと、マセール王国は大国ではなくなり、各団体の本部はヨンド共和国に移転するだろうと脅しも掛けておいた。
会談の後半、国王は私に望むこととして、改革の進め方を訊ねた。
そこから?って呆れたけど、この国の王権は弱まっているようだから、聖人の意見に従い改革した形にするしかないのだろうと察して了承した。
「時代遅れの無能を罷免し、力のある若手を登用する。そして、身分に関係なく広く人材を集めてこそ改革ができるのですダグラス王」
私の意見を聞いた国王や皇子、そして15人もいる大臣たちは顔色を失う。
「私も聖人ホワイト様のご意見に賛成です」と、王孫ミレアが同意する。
「私も賛成です」と、シャレアとショーヤも賛同する。
古狸たちは渋い顔をして王孫3人に視線を向け、余計なことを言うなとばかりに咳払いまでして牽制する。
「ああ、そう言えば、予言者である聖人エレル様が、マセール王国の大臣は半分が交代するだろうと言っていました。
なんでも、自領の税を不当に釣り上げ、税収の虚偽報告をしていたり、子息の成績操作を、マセール学園の教師に依頼する姿が視えたらしいです」
私はにっこりと黒く微笑み、端の席から一人ずつ大臣に視線を向けていく。
私と目を合わせないよう視線を逸らした大臣の名を、隣に座る国王が睨み付けながら記入していく。
……正しく王権を使えば、改革は進められる。特別サービスはこれで終わりよ。
どっと疲れた会談の後、王孫3人にどうしてもと誘われお茶会をした。
今後の改革についてミレアが熱く語っていると、部屋の外から王宮の護衛とアステカ、そしてキンキン耳に響く女性の争うような声が聞こえてきた。
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