98 人気作家(4)
講演会の会場は、中等部の武道場だった。
1月の武道場など寒くて凍えてしまう。だから、ホワイティ株式会社の力を誇示する目的もあり、熱湯の中にブラックガイを入れて湿度を上げ、講演会参加者には、新商品の使い捨てカイロをサービスする。
使い捨てカイロは年末に試作品が完成し、2月から販売が開始される。
本日は、お披露目もかねての無料配布である。
公演も無料だが完全予約制なので、予約チケットを持っていない学生や教師には配布しないし、席も立ち見になる。
私は社長である。
当然、サービス以上の儲けを出すための企画は準備してある。
我が社の特別ブースを武道場の後方に設け、ブルー・アース著【総合大学の七不思議・短編集】と、ブラックカイロ、使い捨てカイロの販売をする。
……講演会のお知らせの中に、当日ブルー・アースの新刊を、何処の国よりも早く50冊だけ限定販売すると宣伝しておいた。
公演時間より50分早く販売ブースはオープンするので、私も1時間前に武道場に入り、空気のように存在感を消して受付を手伝う。
私は受付でチケット持参者に使い捨てカイロを渡し、使い方を説明するのは教育実習生のバイト3人である。残り5人は、販売ブースで売り子のバイトをする。
総合大学の友人に土産を買うため、喜んで働いてくれる。
開場と同時に雪崩れ込むようにやって来たのは、ブルー・アースのコアファンで、一目散に新刊売り場に走っていく。
その中に、王孫2人の姿を見付けて思わず噴き出した。
この時代、本はまだまだ高級品だから、50冊は多いかもと心配したけど、販売開始30分で完売してしまった。
本を買いそびれた者や、出展ブースに興味を持った学生も多くいて、入手困難だったブラックカイロを見付けると、目の色を変えて購入していく。
使い捨てカイロは、4分の1程度しか売れていないけど、公演が終わる頃には素晴らしい商品だと気付いて、公演終了後に完売する見込みである。
前座として短いスピーチをしたのは、王孫シャレア18歳だった。
彼はスピーチの中で、自分とショーヤは国王から密命を受け、この学園で監察官の仕事をしていたと暴露した。
「えぇーっ!」と驚きの声も上がったが、「やっぱり」という声も聞こえた。
暴露するよう指示を出したのは私だが、全ては王命であったと語り、教師に処分を下したのは第一皇子であり、王族は過去の行いを反省し、真摯に学園改革を行っていくと締め括った。
参加者から大きな歓声と拍手が起こり、シャレアは胸を張った。
会場内に居るのは、主にブルー・アースのファンか、中級・下級貴族家や平民の学生で、処分されそうな高位貴族家の学生は来ていない。
今回の改革に苦い思いをしている教師も、処罰された教師も参加してない。
いい感じで会場内が熱気で暖まったところで、司会進行役の王孫ミレアが壇上にあがり自己紹介をする。
そして自分が総合大学を卒業したら、マセール学園の理事長に就任し改革を続行すると発表した。
王族から次々に発表される内容に、会場内は大きなどよめきに包まれる。
「それでは、聖マーヤ総合大学後援による、作家【ブルー・アース】さんの講演会を開始します。皆さん、拍手でお迎えください」
そう告げたミレアだが、不安そうに会場内をきょろきょろと見回す。
王孫の3人は、私がブルー・アースだと知らないし、事前打ち合わせもしていなかった。
皆の視線が、壇上の入場口に向けられ、今か今かと期待が膨らんでいく。
1分が経過したけど、なかなか姿を現さない主役に、どうしたんだろうと会場内がざわつき始めた。
そんな中、中等部用の席に座っていた学生がスッと立ち上がり、すたすたと壇上に向かって歩き始めた。
もしかしたら学園の学生がブルー・アースなのでは?と思っていた者も、まさか中等部の学生だとは思っておらず、「ええぇーっ!」と驚きの声が上がる。
そして誰もが私を驚異の目で見て、著者を男性だと信じていた者の驚きは2倍になる。
私は変装したままの制服姿で、壇上横の階段をゆっくりと上っていく。
壇上で大きく目を見開き固まっているのは、貴賓席に座っていたミレア、シャレア、ショーヤ、そして高等部と中等部の学園長だ。
2人の学園長には教育実習を行うにあたり、大学の人間が授業内容を確認するため、学生に扮して授業を受けるという条件を出していた。
「こんにちは。【学園監察官は今日も暗躍する】の著者ブルー・アースです。
制服を着ていますが、実はこの学園の学生ではありません。
私は16歳ですが、聖マーヤ総合大学で教授の職に就いています。
私がこの物語を執筆した切っ掛けは、この学園の卒業生から寄せられた、自国の学園を改革して欲しいという切なる思いに、応えたいと思ったからです」
私はゆっくりと、でもはっきりとした口調で話し始める。
「総合大学の教授だと!」と、初っ端から水を差したのは高等部の学園長だ。
「控えなさい学園長。あの方は間違いなく聖マーヤ総合大学の教授であり、学部長ですよ! 失礼な態度を取れば、この場に居る学生たちの未来に大きな影を落とすことになります」
立ち上がって高等部の学園長に注意を与えるのは、司会進行役のミレアだ。
「信じられない。大学の事務職員じゃなかったのか? 16歳? はあ?」
壇上の声がよく聞こえるように、会場内には賢者トマス製作の拡声器が設置されているので、中等部の学園長の声もちゃんと拾っていた。
学生たちは著者の思いもよらない正体を聞き、感動する者と不審に感じる者とに分かれていく。
「えぇ~っ、信じられない!
聖マーヤ総合大学が後援し用意した講演会で、ゲストとして壇上に上がった者に対し、その存在を否定するなんて、真に改革すべき教師って学園長だったのかしら?
己の古い価値観でしか物事を判断できず、それを他者や学生に押し付けようとするとは・・・なんと情けない」
私は心底呆れたわって表情で首を横に振り、言いたいことをはっきり言う。
「何だと! 無礼な!」と、2人の学園長の声が揃った。
その途端、壇上の王孫3人が立ち上がり2人の学園長を睨み付ける。
今回の学園改革に、この国の存亡が懸かっているのだから、3人の顔色が変わるのは当然だろう。
……さあ、ここからが本番よ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
100話の完結を目指していましたが、もう少し伸びそうです。
完結まで、お付き合いいただけると嬉しいです。




