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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
我が道

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93 公式訪問の残り(1)

 卒業式が終わり秋季休暇に入って直ぐ、いつものようにシュメル港からタラト火山にブラックガイの採掘をしに向かった。

 今回は大所帯で、ホワイティ商会で採用した原初能力【土】【動力】【空間】【創造】持ちも総動員しての移動だ。

 この中には、孤児を含む春までの長期滞在者も入っている。


 今後、私が居なくても真冬以外はずっと採掘すると決めたので、購入した土地をより細やかに分割して採掘する。

 また採掘したブラックガイを、タラト火山で固形燃料に加工していく。

 これまでは、私が歌を唄って地面が光った所をピンポイントで採掘していたけど、今後は原初能力持ちの商会員が採掘作業を行う。


 ホワイティ商会の建設部門が、張り切って倉庫付寮と孤児院工房を建ててくれたので長期滞在も問題ない。

 冬は厳しいけど、収納ボックス部門の【空間】持ちは、ずっとタラト火山の寮に滞在して作業する予定だ。


 収納ボックスは販売開始から3年間、うちが特許権と独占販売権を持っているので、他の商会で販売することはできない。

 4年目に入ると製造方法の売り出しも可能だが、絶対に紛い物とか偽物が出回るだろうから、私は製造方法の公開はしないつもりだ。

 だから、試行錯誤して作ろうとしている商会や商団は多い。


 ……製造の秘密を探ろうと暗躍する者もちらほら現れるようになったので、機密保持と商会員の身の安全のためにも、タラト火山支店で製作する方が安全なんだよね。



「ほら、うちの商会は独身男女がたくさん居るから、タラト火山で職場恋愛をして、夫婦でずっと働いてくれたらいいなと思ってるのよね」


 アレン本店長と久し振りにタラト火山に向かいながら、今後の商会のことをのんびりと船上で話し合う。


「普通なら極寒のタラト火山で働きたい者など居ませんが、うちはブラックガイのお陰で冬は寒さ知らずですし、薪もふんだんに使用可能で、僻地手当まで出すから希望者は多いですよ。

 一般作業員の孤児たちなんて、希望者が多すぎて交代制にしたくらいです。

 しかも収納ボックスの貸し出しを行い、月に2度はシュメル港への買い出しもできます。おまけに新婚用のコテージまで建設中です」


 こんな破格の待遇をしてくれる商会など、この世界には無いでしょうねとアレン本部長が呆れたように溜息を吐く。


 孤児院工房は、マシロ孤児院で経験を積んだ15歳~18歳までの男女が、固形燃料作りを行う工房と寮になっている。

 ここの管理は利益配分もある教会と、うちに就職した先輩孤児がしてくれる。

 因みに、これから聖地マーヤのマシロ孤児院は、お菓子や文具作りが中心だ。


 ……固形燃料の秘密を探る者に、可愛い子たちが危険に曝されるのは嫌だもん。

 


「まあ優秀な人材を囲い込む必要があるし、教会の管理地だから関係者以外はタラト火山に船をつけられないって利点もあるわ。

 この春に父様のミヤナカ商会が釣り場を作ってくれたから、狩りも含めて食料確保も自前でできて、余暇の楽しみにもなりそうよね」


「やれやれ、マシロ様の熱烈な信者・・・いえ、マシロ様と共に働くことが喜びで就職した者たちが、他の商会に行くなんて考えられません。

 孤児たちなんて、マシロ様のためなら何でもしそうな感じですよ」


 まあ確かに、うちの商会は型破りもいいところだし、福利厚生なんて考え方が異端で、真似できる商会はないだろう。

 父様のミヤナカ商会でさえ、寮を作るのは難しいし、ボーナスも寸志程度だ。

 他商会と違い、うちは建設部門と収納ボックス部門を持っているから、経費の大幅削減が可能で、固形燃料と卓上コンロの特許料半分が入る。




 無事にタラト火山での仕事を終え、今日はいよいよシュメル連合国への公式訪問日だ。

 現在、第三王子サイスが総合大学教育学部に在学していて、2年生から聖マーヤ救援隊に入隊希望を出している。

 彼は原初能力【芸術】持ちで、上位学校の芸術教師を目指しているらしい。


 私は現在、経済学部と原初能力学部の講義しか行っていない。

 選択科目で経済学部の講義を受講できるのは2年生からなので、これから顔を合わせることが増えるかもしれない。

 同じ芸術持ちの母様によると、素直で可愛いタイプらしい。



 気が重いから、懐かしい王都の商店街に寄ってから行こう。

 商店街の者は、オリエンテ商会のマシロちゃんが聖人様になったと知っているから、公式訪問日が教会で告知されてから、今日の日を楽しみに待っていた。

 商店街の皆にとって私は、可愛い孫であり子供みたいなものだから、【おかえりなさい聖人マシロ様】って横断幕まで作って歓迎してくれる。


 聖人専用馬車から降りた私を、皆は通りの左右に立って出迎えてくれる。

 誰も彼も「お帰りなさい」と、笑顔で声を掛け手を振る。

 懐かしさと嬉しさで、思わず涙が溢れそうになっちゃったよ、もう。

 いつものお菓子屋さんの前を通ると、焼き立てのパイを恐る恐る差しだされた。きっと聖人様に対して不敬かもと不安なのだろう。


「いい匂い。ありがとう」って笑顔で受け取り、直ぐにスピカに渡した。

 聖人専用馬車をホワイティ商会シュメル支店前で待たせていたんだけど、辿り着くまでに花束やらレースやら、たくさんのプレゼントを貰ってしまった。

 全てのプレゼントは、教会への喜捨になると分かっているはずだけど、皆は私に手渡せて喜んでくれたから、お返しに笑顔を振りまいておく。


 ……王族は嫌いだけど、王都の人は大好きなんだよね。




 シュメル城に到着し馬車を降りると、これぞ大国の正面玄関って感じの豪華な扉が目に入った。

 前は正面玄関からじゃなく通用口から入ったので、こうして城全体を見回すと、豪華さだけじゃない美しさと品の良さに、ちょっとだけ感心した。

 

「ようこそご訪問くださいました」


 声を掛けてきたのは国王ナスカで、隣に王妃と第一王子と第三王子、王宮騎士団団長のクロノスが並び、名乗りながら順に礼をとっていく。


 斜め後ろで跪いている王宮騎士団の2列目に、絶対に会いたくも見たくもなかった第二王子らしき姿を見付けて、シュメル教会の教会長は顔色を変え、護衛のアステカは剣に手を掛け、私は黒く微笑んだ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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