92 個人面談
7月末、間もなく卒業する聖マーヤ救援隊のメンバーとの約束を果たすため、私とトマスは個人面談を行った。
私との面談を希望したのは、【マシロ様を崇める会】のメンバーで、トマスを希望したのは、親が治める領地に新しい産業を興すヒントを貰いたい学生や、卒業後は教会救援隊に就職が決まっている学生16人だった。
「私と個人面談を希望する者は1人30分です。ですが、もしも10人が一緒でもいいなら5時間のグループミーティングに変更できます。どうしますか?
ホワイティ商会新作のクッキーを食べながらの、お茶タイムも考えています」
私の前に集まった【マシロ様を崇める会】のメンバーは10人で、互いに牽制するかのように視線を交わし思案する。
「マシロ様と2人きりが本望だが・・・」と、旧ミレル帝国を治めることになったシュタイン大公の子息ノイエンは、顔を歪ませ腕を組む。
……あんたは卒業後、賢者トマスの側近になるんでしょう? 度々顔を合わせるのに何をブツブツ言ってるのよ。
「少しでも長い時間? いや、でも・・・」と真剣に悩んでいるのは、マセール王国マイン侯爵嫡男のディードだ。
彼は旧バラス公爵領を治めることになった皇子イツキノに口説き落とされ、3年間限定でイツキノの側近として就職が決まっている。
他の8人は、全員がホワイティ商会に就職が決まっているので、グループミーティングでもいいですよと余裕の態度である。
今年もホワイティ商会は大量の卒業生を獲得したが、今後は各国の王族や貴族が商会設立を目指し商売を始めるから、優秀な学生の獲得が難しくなるだろう。
そうは言っても、素人が商売を始めて商会になり株式会社へと規模を拡大するのは簡単じゃない。新しい経済の仕組みを知る者や経験者が必要だ。
だから聡い国は、総合大学経済学部の在学生の内、経済的に厳しい下級・中級貴族出身者に対し、自国就職を条件にした奨学金制度を作ったり、各商会や商団から経験者を引き抜き、商会設立の準備を始めている。
……優秀な卒業生をホワイティ商会にとられて、シュメル連合国やマセール王国は相当悔しがっていたから、少しは頭を使うようになったってところね。
来年からの人材確保のことを考えてる間に、面談希望者の意見は纏まったようで、10人全員がグループミーティングで合意していた。
「それじゃあ明日の午後1時から行うわ。各自、私への質問や話したい内容を2つに絞り、午後5時までに提出してね」
そして夜、皆から提出された要望書を読んで、ハハハと苦笑しながら脱力した。
てっきり、聖人の能力の秘密とか、マセール王国の王孫だという話は真実かなんてことを質問されると思っていたけど、9人が私の婚約予定と好みのタイプを訊ねるものだった。
……いやさぁ、中身60前のおばさんだから、恋愛とか結婚とか全然考えてないのよねぇ。
……実年齢と精神年齢が違い過ぎて、自分が恋愛対象として見られていることに気付かなかったわ。
それに、この世界に来た聖人女性は、誰も子供を産んでいない。
その原因は、なんとなく予想できる。
地球人として生きた時間の延長で得た命だから、この世界で新たな命を授かることはできないんだろう。
「う~ん、原初能力学部でチーム汚名挽回の一員だった、マセール王国男爵家次男ガイド24歳(創造持ち)の要望は面白いわね」
私は提出された要望書を読みながら、思わずニヤリと笑った。
◆◆◆◆◆
マセール王国の旧貴族学園は、身分でクラス分けされており、特に中等部(12歳~18歳の間の5年間在学)では、大半の教師はクズで腐っている。
身分の低い男爵・準男爵・騎士爵・平民の子は下位クラスで、教師はメイドや雑用係りのような仕事を強要する。
また、高位貴族の子女が行う暴力は見て見ぬふりで、高位貴族子女の成績操作は教師の高額バイトになっている。
マセール王国の腐敗は、中等部の教育から始まっていると思われ、私の弟は高位貴族から暴力を受け、相談した教師からは黙って殴られろと命じられた。
学園長はそれらを黙認し、弱者は虐げられ文句も言えない。
聖人ホワイト様、マセール王国の学園改革の方法を教えてください。
◆◆◆◆◆
……う~ん、これは日本のラノベのお決まり展開って感じね。私のモットーは、誠意には誠意を、悪意には天罰を、権力には権力をだから、王族の再教育の続きをすれば問題ないかなぁ・・・
……あっ、うちの優秀な学生と教師を競わせるのも面白いわね。
私はムフフと口元を緩めて、新しい小説の執筆に取り掛かる。
そうねえ、主人公は自称男爵家の子息で、嘘と横暴と腐敗が蔓延る学園で、苦しめられている多くの学生を救い、悪と戦い正義を実行するヒーローとして頂点に立つって感じでどうだろう。
各国の腐敗実態を織り交ぜながら、【この小説は作者が空想と妄想の世界を描いたものであり、登場する人物や国名や学園名等は、実在する人物や国とは関係ありません】って、最初のページにでかでかと書いておくわ。
私が乗り込んでいくなら、自分の小説が出版されてからの方が効果的ね。
……ホワイティ商会から王族に3冊、学園に30冊寄贈しよう!
……読書感想文を書いて、豪華景品をゲットしようってイベントもいいわね。
翌日、私は卒業する【マシロ様を崇める会】のメンバーと、楽しくグループミーティングをした。
その中で、時代を前進させる方法として、文学や演劇等の娯楽による思想変化を狙った方法もあると熱弁を振るった。
……そうだ、ホワイティ商会に就職するガイドを、編集長に任命しよう!
いろいろと有意義なミーティングたったと、皆が満足そうに喜んでくれたから、「これは秘密なんだけど、皆にだけ教えるね」と、私は最後に極秘情報を教えた。
「今、巷で話題を呼んでいる【異世界漫遊記】って小説の作者【ブルー・アース】は、わたしよ」
目を見開き固まっている皆に、私はウインクしながら、極上の笑顔をプレゼントする。
ずっと私を応援し、支えてくれてありがとうって感謝を込めて。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。
国の名前とか人物の名前を間違えるおっちょこちょいなので、誤字報告に感謝感謝です。




