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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
我が道

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91 聖人外交

 ミレル大河地震に関する救済の後始末は、教会救援隊を率いるトマスに全て丸投げした。

 賢人であるトマスは容赦なく旧ミレル帝国を解体し、消滅した国を併合したヨンド共和国の王弟ユバロフを大公に任じ、旧ミレル帝国の統治を任せた。


 抵抗したミレル帝国の王はどうなったのかというと、タラト火山にブラックガイを採掘に行った時に持ち帰った巨岩を、側室とイチャコラしていた後宮にぶん投げたら、あっさり若い側室と逃げ出したよ。

 この色ボケ王は、教会から破門された王を認めない反国王派を誕生させた。そして彼等は、喜んでヨンド共和国の統治を受け入れたしね。

 

 ヨンド共和国エバロン王は、民を虐げていた貴族の爵位を全て剝奪し、目に余る搾取をしていなかった反国王派の貴族の爵位を、全て男爵に落とした。     

 統治を任されたユバロフはシュタイン大公となり、私の下で新しい価値観を身に着けた今年度卒業生たちを、新しい大公領の要職に就いて欲しいと口説き落とし、全員に準男爵位を与えた。


 この出身国など関係ない採用方法は、各国に大きな衝撃を与えた。


 家を継げない貴族家の優秀な次男や三男は、完全実力主義を掲げ、準男爵から伯爵まで出世可能としたシュタイン大公の下に集まり、これから懸命に高位貴族を目指し頑張るだろう。

 聖マーヤ救援隊のメンバーだった者は卒業後、大臣や大公の補佐として重用される予定らしい。


 また、賢人トマスによって授けられた知識を活用し、これといった産業もなかった大公領を繫栄させることを目標に掲げている。

 大公の子息ノイエンは、トマスと二人三脚で新しい商会を設立し、ホワイティ商会のようにスポンサーシップで、各方面に補助金制度を適用し大公を支えるようだ。




 マセール王国は、国王の指揮で救済活動を行ったが、その内容や課程を採点するなら40点そこそこだった。

 でも、王孫ミレアや自国の聖マーヤ救援隊のメンバーが、復興担当大臣であり新しく旧バラス公爵領の新領主となった第三皇子イツキノを懸命に支えたことを評価し、天の怒りは収まるだろうと聖人エレルは各教会で公布した。


 国王は、王太子妃と王孫ヒルトラの王族籍を剝奪し、平民の身分に落とし王城から追放した。

 贅沢三昧していた2人の持ち物は全て換金され、復興支援金に充てられた。

 この決定を聞いた王孫ヒルトラ派だった貴族や商人たちは、明日は我が身と恐れをなし、自領で目立たないよう生活しているらしい。


 バラス公爵は、王への裏切りと責務放棄の罪に問われ死罪となった。

 旧バラス公爵領の民は、王族や公爵のせいで神の怒りを買ったと知っていた。

 だから次期公爵になったイツキノを守るため、そして今にも暴徒になりそうな民の怒りを鎮めるためにも、死罪にするしかなかったのだろう。


 ……今回のことで民が暴徒と化す危機感と、民を蔑ろにして聖人を怒らすと国が滅びるという恐怖感を、マセール王国の貴族にしっかり植え付けられたと思う。


 ……まあ私には、各国の教会から様々な情報が入ってくるし、教会騎士団の中には調査専門部隊もあるから、民を虐げる無能貴族の調査も抜かりない。




 5月、私とトマスは各国の王や宰相、各団体のトップを呼び出し、一堂に会して【第一回世界会議】を行った。

 議題は今回の天の怒りの説明と、ミレル帝国消滅について、そして新時代の幕開けについてだった。

 新時代の幕開けの第一段として、文明や産業を発展させるため、優秀な若者の育成と指導者の再教育を行うことが決議された。


 指導者の再教育は、どの国も待ち望んでいたことだったから、有料でも構わないと決まり、総合大学で3か月間学び直してもらう。

 また、大陸共通の組織強化として商業連合は、各国の商会や商団の組織改革を行い、資産力のある商会を、株式会社に変更する許可を出す。


 株式会社に変更するためには、総合大学の商学部卒業者が最低2名働いている必要がある。

 また、経営者となる社長は、商業連合が行う講義を5回以上受講することを必須とするなど、様々な案が聖人から提出された。


「それでは、王族や貴族よりも商会・・・いえ、株式会社の方が富を独占することになり、王権が弱体化するのではないのか・・・いえ、弱体化するのではないでしょうか?」


 不機嫌な顔で質問したのはギョデク共和国の宰相である。


「うちの国では既に、王弟である私が商会を経営していますよ。

 自国で商会・・・いえ、株式会社が大きくなれば、それだけ税収も増えますし、王族や高位貴族が商売をすることを禁止していない国なら、問題はないと思いますが?」


 プクマ王国王弟マルスの商会主になったという発言に、ある者は当然という顔をし、ある者は見下すように嫌な顔をした。


「高貴な貴族が商人の真似事など・・・」


 嫌悪感丸出しの顔をして発言したのは、ギョデク共和国の王だ。

 隣国ミレル帝国消滅に危機感を募らせることもなく、時代の流れも読めない国王と宰相は、未だに私がホワイティ商会の商会長だと知らないようだ。


「まあ、いいんじゃないですか。他国がどんどん豊かになっていくのを眺めているのが好きなら、ギョデク共和国は学び直しをしなくても」


 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのヨンド共和国エバロン王が、余裕の表情で言う。


「旧ミレル帝国、今はシュタイン大公領になりましたが、私は自領を3年以内に復興させ、何処の国より豊かな地にしたいと考えています。当然私も商会を運営していますよ」


 賢人トマスとがっつり協力体制をとっている、ヨンド共和国の王弟であり大公になったユバロフは、にこにこ上機嫌で自慢するように言う。


「そうね、お金は大事だわ。国を富ませ民の生活を豊かにするには、お金は必要よね。今回のように災害が起こった時、お金がないと国が消滅しちゃうものね。

 民から搾取し贅沢三昧の王や貴族が治める国と、産業が盛んで仕事も多い豊かな国、民はどちらの国に住みたいと思うかしら?」


 ギョデク共和国、シュメル連合国、マセール王国の出席者に、私はにっこりといい笑顔を向け視線で問う。


 時代に乗り遅れたら、困るのは貴方達なんだけどって嫌味を随所に入れ、私とトマスは会議を進行していく。

 私の怒りを買っているシュメル連合国とマセール王国は、大国にも拘らず発言は控え目で、どちらの国王も私と視線を合わせられない。


 これ以後、聖人主導の【世界会議】は年に1回行われ、第3回会議の時には国力の差が目に見えるようになる。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

新章スタートしました。

新作準備のため、更新を3日に1度に変更します。

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