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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
新時代

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90 対面と体面(10)

 瓦礫撤去に向かっていた救援隊メンバーとケトラ教授たちは戻ってきたけど、教会長は住民を避難誘導するため街に残っているらしい。

 国王と対面する直前に視た予知映像には、雲が夕日に染まる頃、再び大きな余震が起こり公爵屋敷の残った見張り塔が倒れる場面が映っていた。


 ……あと1時間くらいで日が沈む。教会長も住民も早く逃げて!


「みんな聞いて、予言者である聖人エレル様から、間もなく再び大きな地震が起こると知らせがありました。

 直ぐに火を消し、ケガ人を小屋から運び出してください。

 大きな揺れになりそうだから、救援隊は皆を安全な場所に移動させて!」


 私は避難所の全員を集め、ようやく落ち着いてきた皆に残酷な予知を告げる。

 この場に居る者は聖人エレルの予言を信じている。だから泣きそうな顔をしながらでも、私の指示に従い行動を開始する。



 太陽が西に沈みかけた時、教会長は多くの住民と一緒に街から脱出し、私はほっと胸を撫で下ろした。だが、不気味な地鳴りがしたのはその直後だった。

 こっちが本震?って思う程の揺れが始まり、立っていられない程の揺れは30秒くらい続き、私も思わず悲鳴を上げて姿勢を低くした。


 バリバリと地を裂く音がして、領都バラスに届きそうだった地割れは、とうとう領都の城郭を突き抜けてしまった。


「神よ、どうか怒りをお静めください。私が必ず王族や貴族たちを改心させます。どうかもう、これ以上はダメです。罪なき多くの民が犠牲になります」


 揺れが収まると同時に、私は跪き大きな声で天に向かって叫ぶ。

 演技なんかじゃなく、心から祈り懇願する。

 救援隊が用意した物資は既に底をついているし、皆の疲れもピークにきている。

 それに恐ろしい予知映像は、もうこれ以上視たくない。


 ……視える予知が、勘違いや間違いじゃないと分かってしまったから、本当に怖くて堪らない。


 ……天よ、宇宙の管理者よ、これ以上の何を私に望んでいるの? ねえ?


 新しく避難した住民のために、第2避難所を作った。

 第2避難所にいる住民は、助かったことを感謝する者より、何故自分たちがこんな目に遭うんだと文句を言う裕福者の方が多かった。

 これから救済は国王や皇子が行うので、言えるもんなら文句を言えばいい。




 翌朝、私は救援隊に撤退準備をしておくよう指示を出し、メインメンバー10人と教授2人を連れて公爵屋敷に向かった。

 地割れは街の中央を貫いており、強固な教会をも半壊させていた。

 公爵屋敷は全壊を免れていたが、見張り塔と本館は倒壊しており、多くの者がケガをしているようだ。


 ……昨日の余震で、国王の救援隊は地震の怖さが身に染みたと思う。


「それで、民のための救済品を食い荒らし、救済の義務を放棄した王族や領主や愚か者たちに、マセール王、貴方はどのような罰を与えるつもりでしょう?

 ああ、念のために言いますが、くだらない情や罪人の体面を守ろうなんて甘いことを言うと、この街を貫いた地割れは王都へと向かうわよ」


 少しは自分の立場を理解した様子の国王は、息子イツキノと共に私の前で跪き頭を下げている。


 ……こんな親子の対面になるとは、ごめんねミリアーノ。


「たかが聖人の分際で生意気な」と言ったのはバラス公爵だ。


「国王を跪かせるなんて許せないわ」と悪態をつくのは、頭に包帯を巻いた王太子妃だ。


「黙れ! この愚か者が! お前たちの行動や言動が神の怒りを招いたと何故分からない!」と、腕に包帯を巻いた皇子イツキノは、大声で怒りを爆発させる。


「お前! イツキノ叔父上の娘ミリアーノだろう! 同じ王族でも私は王太子の息子だ。お前など……」


 これ以上の戯言を聞く気のない私は、ツカツカと王孫ヒルトラに近付くと、パシーンと左頬を思いっ切り叩いた。

 昨日の地震で足を骨折したらしいヒルトラは、椅子に座っていたから丁度いい高さだったのよね。でも、手が穢れちゃったわ。


「この馬鹿者が! どうかこれ以上の天罰は・・・全ては私の責任です」


「当り前だ、この愚か者め! お前ごとき王など、聖人である私の一存で王の座から引き摺り下ろせるわ!

 天は、これ以上マセール王国の王族や貴族が腐敗するなら、全てを消して造り直そうとしておられるのだ。

 お前の代で、マセール王国の歴史を終わらせる気か!」


 ヒルトラを怒鳴り付け、私の前で平伏し赦しを請う国王を、私はお前と呼び大声で叱咤する。絶対に許さないぞ睨み付けながら。

 遠巻きに見ていた誕生会の招待客や屋敷の従業員たちは、私の迫力に肩をピクリと上げ、大変なことになってしまったと青ざめる。


 大事な息子と可愛い孫を叩かれた毒母と毒爺は、怒りを露わにして立ち上がろうとするが、教会騎士であるスピカとアステカに剣を向けられ息をのんだ。


「聖人ホワイト様に指一本でも触れたら斬る!」


 アステカは公爵の右肩に当てた剣先を、首にぴたりと付け怒鳴った。


 罪に罪を重ねる身内(者たち)に、国王は絶望的な視線を向け目を瞑ると「与える罰は・・・」と言って考え込んでしまった。


 その様子を見ていた聖マーヤ救援隊のカーセ教授が口を開く。

「私なら国の為に死罪を言い渡します」と。


「私なら貴族籍を剝奪し平民に落としてから、教会前に放置します。だ、大事な母国に・・・や、厄災を招く者など必要ありません!」


 ヒルトラを睨みながら涙声で発言するのは、マセール王国侯爵家嫡男ディードだ。彼は今回の活動で、自国の王族や貴族の腐りっぷりに絶望し掛けていた。



「ミレル帝国は既にこの大陸から消えた。教会から破門された時点で王権は剥奪されている。数日以内に、ヨンド共和国の正式な領土となる。

 天はミレル帝国の消滅を望まれ、今回の天罰を与えた。


 この場に居る全ての者が命懸けで救済活動をし、王が罪人に正当な厳罰を下すなら、3週間の改心と責務遂行の時間を与えてやろう。

 天は教会を通じて目と耳をお持ちだ。誤魔化しなど通用しない。

 この国を消滅させるか存続させるか、心して返答せよダグラス王!」


 私は凍るような低い声で、国王ダグラスに最後通告をした。



 聖マーヤ救援隊は本日で活動を終え現地解散し、各自春期休暇に入る。


 タラト大陸はこの日から新時代に突入し、人々は天と天聖と聖人を畏れるようになる。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。

次話から新章スタートします。

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