87 対面と体面(7)
国王到着の知らせを聞き、小高い丘の上にある大樹の下へと向かう。
先頭を走る騎馬隊は8人、その後ろに4人~6人乗りの豪奢な馬車が4台続き、そのまた後方には10人乗りくらいの乗合馬車が5台列をなしている。
あの乗合馬車に乗っているのが全員原初能力持ちでもない限り、瓦礫撤去もままならない気がする。
少し遅れて国旗を掲げた一際豪華で目立つ馬車は、騎馬隊にぐるりと囲まれているから、国王の乗っている馬車だろう。
国王の馬車の後方には荷馬車が3台と、兵士らが乗る馬車ではない商隊らしき幌馬車が2台続いている。
この時代、幌馬車は帆布と同じ素材を使っているから普通の荷馬車より高価だ。貴族専用商会のものかもしれない。嫌な予感がするんだけど・・・
ん・・・歩兵はどうしたの? 肉体労働できる作業要員はどこかしら?
救済に来て荷馬車がたったの5台? 冗談でしょう?
食料だけじゃなく木材等も必要だって思わなかったのかしら?
まさか、あの先頭を走る豪奢な馬車って、見学に来た貴族とか言わないわよね? 救援隊要員のはずよね!
「間もなく国王陛下並びに第三皇子様、王孫ミレア様、国務大臣、建設大臣様方がご到着される。失礼のないよう出迎えるように」
先頭を走っていた騎馬隊の1人が先触れに来て、私たちに出迎えろと騎乗したままで命令した。
……へえ、そういう感じなんだ。
「出迎え? 遠き聖地マーヤから貴国の為に救援に来られた聖人ホワイト様と聖マーヤ救援隊に、出迎えろと言われたか?」
対応に出た交渉担当のケトラ教授45歳は、超不機嫌な顔をして問う。
彼はシュメル連合国の出身で、バラス公爵や国の無責任さに激怒していた。
しかも、聖人であり恩人でもある私にも出迎えろと命令され、完全に目が座っている。他の教授や医師たちも、無礼者を睨み付ける。
教会長もやって来て、「出迎えろとは国王の指示か?」と問い質した。
この場に居るマセール王国出身の学生は、怒りと情けなさで体を震わせ、自国の王族や貴族の有り様に唇を嚙む。
「私はマイン侯爵家嫡男ディードだ。
我が国の民のため遠き聖地より駆け付け、お前たちよりも早く救済を始めている我々の姿が見えないのか!
先ずは跪き、自国の民をお救いくださりありがとうございますと、平伏して聖人ホワイト様に礼を述べるべきだろうが! このたわけ者が!」
侯爵家の嫡男であるディード25歳は、日頃の温厚さを脱ぎ捨て、怒りの感情を全開にして大声で叱咤する。
【マシロ様を崇める会】のメンバーは、私に無礼を働くとタガが外れる。
この場に居る救援隊のメンバーも教会関係者も、避難民たちまでもが、聖人に対する不敬な態度に驚き、そして恐怖する。
そう恐怖だ。
聖人という存在が、どれだけ人外で恐ろしい存在なのかを体験した者にとって、聖人を怒らせたり無礼を働くと天罰が下るという昔話は、決しておとぎ話などではないと身に染みて分かっている。
聖マーヤ救援隊のメンバーも、昨日領都バラスで天の怒りが起こったと避難民たちから聞いていた。
……一部の幹部的メンバーは、私が聖人エレルでもあると知っているけど、聖人がすることに余計な口出しなどしないし、聖人ホワイトに対する絶対的な信頼があるから、私の行動を止めることもない。
私は聖人のベストを着て、ゆっくりと皆の前に出る。
ここで馬から降りて態度を改めれば、何も言う必要はないと思ったけど、男は騎乗したまま怒りの表情を隠さなかった。
どうやら聖人や侯爵家の子息、教会長になど、敬意を払う必要もないらしい。
「もしも国王の指示であれば、此処に立ち寄る必要はない。寄り道などせず、さっさと領都バラスに向かへと伝えよ。
以後、我々に対し無礼な態度を見せたり、一人でも不敬な言葉を吐く使者や貴族が居たら、聖マーヤ救援隊は即時撤退する。
マセール国王は、天の怒りを身を以て経験すればいいだろう」
見た目は高貴な血を引く美少女風で、マセール王国の貴族には見覚えのある濃紫の髪を風に靡かせながら、先触れの男に向かって言い渡す。
無表情かつ底冷えする冷たい声で、聖人は国王より高位であると分からせるため、男性のような言葉遣いで王を切り捨てた。
「マセール王国の名を汚す愚か者め!」と、ディードは顔を歪めて再び叱咤する。
「マセール王国の騎士は、礼儀どころか常識も知らないらしい」と、プクマ王国出身の学生が驚きと憎しみを込めて言う。
「なんと罰当たりな」と、避難民たちから声が飛ぶ。
「ああ、もう終わりだ。領都バラスは完全に終わりだ」と、多くの避難民たちが肩を落とし項垂れる。
「いや違う、マセール王国が終わるかもしれない。なんてことをしてくれるんだー! この能無し!」と、カーセ教授も激怒する。
先触れの男は、散々に罵られ叱咤され、ようやく自分の態度が不敬だったと気付いたようで、真っ青な顔をするも謝罪せずに国王の元へと馬を駆けさせた。
先触れの男が国王にどう伝えたのかは分からないが、国王の救援隊は領都バラスへと向かう道を通り過ぎ、我々の方に向かってくるようだ。
その様子を見ていた避難民数人と、聖マーヤ救援隊に所属するマセール王国の学生数人が、国王の救援隊に向かって全速力で駆けだしていく。
……う~ん、あれは絶対に失礼な態度をとると確信し、こちらへ来ないよう全力で止めに行ったって感じかな。
……ちゃんと聖人を理解している王だったら、自分が馬を駆って非礼を詫びに来るところなんだろうけど、やっぱりあの王はピントがずれてる。
暫く様子を見ていると、国王の乗っている馬車から女性が飛び降り、騎馬隊の騎士を引き摺り下ろして、自分が馬に乗って駆け出してくる。
「あれは王孫ミレアですね。彼女はマシロ様の熱烈な信者ですから、最悪の事態をなんとかしようと動いたのでしょう。私が行ってきます」
さっきまで怒り心頭だったディードが、聖人専用馬車の馬を引いて私の隣に立ち、自分がミレアと話をしますと言って馬に乗り駆けていく。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
すみません、まだ国王と対面しませんでした。次こそはきっと。




