83 対面と体面(3)
救援隊の隊服に着替えて一息ついた時、手に持っていた【聖なる杖】が突然眩しく光り始めた。
そして聖人任命式の時と同じように、頭の中に予知映像が流れ始めた。
今度の映像は短くて、マセール王の横に立つ私が、バラス公爵や王太子妃らしき女や王孫ヒルトラと体面するシーンが視えた。
……ああ、これってやっぱり予言者の能力なんだ。
……王孫ミレアは、ちゃんと国王を連れて救援に来るんだ。良かった。
あれ? 今、ふと思ったんだけど、言い伝えにある予言者が使った【天のお力】って、予言を口にしたことが実際に起こるから、それを予言者であるマーヤ・リーが起こしたと勘違いして伝承してきた可能性があるんじゃない?
だとしたら今回も、予言者である聖人エレルを怒らせた国が、天罰を下されたって感じになったりしない?
……えっ? えっと・・・
いや、ちょっと待ってよ。私は大地震を起こしたりしないよ。
確かにさっきは聖人の力を知らしめようと思って演出したけど、人を殺したりしてないし、建物も倒壊寸前で危険だったからだよ?
わ、私、怖くないよね? ちゃんと神々に民を助けてってお願いしてたよね?
「だ、だ、大丈夫。あれはマーヤ・リーだもん。顔を出している聖人ホワイトじゃない。うん、多分、ぎりぎりセーフ。
それに、教会や聖人を害そうとした王孫や公爵たちのせいで、天罰が下るって言ったよね私・・・うんうん」
……そう言えば、これから国王と対面する私はどっちだった? あれ?
予知で視えたのは周囲の光景で、自分自身は映ってなかった。
予言者である聖人エレルは、対外的には謎のままの方がいいから、聖人ホワイトが王や公爵と対面した方がいいよね。よし、そうしよう。
救援隊を指揮しているのは聖人ホワイトだから、聖マーヤ救援隊を率いて明日また戻ってこよう。
……予知で視えたもう一つの光景・・・間もなく余震が始まるし。
スピカと合流した私は、領都バラスの郊外に避難場を作るため、一旦マルイ男爵領へとテレポートした。
アステカや医療班、チーム【聖人の僕】のメンバーと緊急会議をして、足らない人員をミレル帝国側の救援本部から移動させることにした。
時刻は午後5時で、私とアステカは救援本部にテレポートし、ミレル帝国側の人員を3分の1に縮小し、残りのメンバー全員にマセール王国側へ明日移動するよう指示を出した。
今夜はミレル帝国側で寝泊まりし、ミレル帝国側の救援状況の報告を受けたり、被害状況の確認をする。
翌早朝、マセール王国側に向かうメンバーと一緒にミレル帝国を南下した。
国境を繋ぐ橋に辿り着く少し手前で、ミレル帝国から独立したヨンド共和国の被害状況を知る商人と出会った。
その商人の話しでは、国境に近い場所で多少の被害が出たそうだが、ケガ人は数十人程度で、既に領主や国が救済活動を始めているらしい。
「さすがヨンド共和国ね。これでマセール王国の救済活動に集中できるわ」
私は商人に礼を言って、ミレル帝国内の被害情報を教えた。
ヨンド共和国出身の学生たちは安堵の息を吐き、マセール王国の救済活動を頑張ろうと気合を入れ直した。
ちょうど今頃、使いに出した教会騎士団の副団長が、ヨンド共和国王に私の親書を届けている頃だわ。
親書を見てどう動くかは分からないけど、見捨てられているミレル帝国の民のために、立ち上がってくれると今は願うしかない。
「どうやら被害は、ミレル大河沿いに集中していると考えて間違いなさそうね。
今この時より、今回の地震を【ミレル大河地震】と呼ぶことにするわ」
◇◇ バラス公爵 ◇◇
昨夜は最愛の孫ヒルトラの21歳の誕生日を祝うため、我が領内の子爵以上の貴族を集めパーティーを行った。
娘であり王太子妃であるアマリアも久し振りに里帰りし、ヒルトラを次期王太子にするために必要な根回しをした。
愚鈍な国王ダグラス66歳は、ヒルトラに聖マーヤ総合大学を卒業しなければ、次期後継者として認めないと言ったらしいが、次の王はヒルトラの父親であるダリウス王太子と決まっている。
婿であるダリウス殿が国王になれば、我がバラス公爵家の財力で後援するから、間違いなくヒルトラを後継と認めるだろう。
愚鈍なダグラス王は聖人の戯言を信じて、今年の春頃に大きな厄災が起こる可能性があるから、民のために救済品を備蓄せよと命じてきた。
ご丁寧に王宮の役人は、3日前に救済物資の確認に来た。
確認が終わったので、堂々と買い込んだ食料を使って、昨夜は豪華な食事を提供することができた。
……まあ今回のパーティー費用は、必要経費として処理できるから、愚鈍な王も役に立ったのかもしれん。
昨夜聞いたヒルトラの話しでは、聖人の1人は第三皇子イツキノの行方不明になった娘ミリアーノだというではないか。
ヒルトラの邪魔をするようであれば、聖人など消えてもらえばいい。
教会が力を付けるのは気に入らないが、貧乏人や面倒ごとを押し付けられる教会はあった方がいいだろう。
早めに自領に戻るという来客数人を見送り、ゆっくり食後のお茶を飲んでいる時、それは突然起こった。
ゴーッという音がしたかと思うと、立っていられないくらいに建物が揺れ、部屋の中の物は倒れたり吹っ飛び、娘のアマリアは割れた食器を踏み足を負傷してしまった。
揺れが止んだと思った時、窓の外で何かが崩れるような轟音がして再び揺れた。
慌てて窓の外を見ると、見張り塔の片方が倒れており、視線を領都内に向けると、信じられないことに多くの建物が倒壊していた。
見張り塔以外の建物は、何とか崩れずに残っているが、迎賓館には大きなヒビが入り、城壁は全て崩れていた。
……な、何だこれは! 私の領都が、私の財産が・・・
そこからの時間は地獄だった。
民は私に救いを求めて押し掛け、パーティーに呼んだ貴族たちはケガをした上に、道が塞がれ馬車で帰れなくなった。
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