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8 初めての旅(1)

 船の旅・・・ちょっと舐めてました。

 この時代に酔い止めなんかないのに~って思っていたら、船長のダイスさんが辛いけど後味爽やかな【船乗りの実】をくれた。

 見た目も味も小さなショウガなんだけど、飲み込んだ後はミントみたいに息が爽やかになるという優れもの。


 私が空から降ってきた時に、このダイス船長が【原初能力 風】の力で助けてくれたらしい。

 大感謝の気持ちを込めて、ほっぺにチューさせていただきました。

 白髪にラリマーの瞳、42歳で海の男らしくがっしりしていて、中身がおばさんの私は、抱っこされて思わずにまにま。幼女で良かった。えへへ。


 海は地球と変わらず塩水で、波も匂いも同じである。

 海風は気持ちいいし、夜空の星は綺麗で、見上げ過ぎて首が痛くなった。

 一番近い星は、地球でいうところの月より少し小さく見えるけど、実際はこの星よりも大きいに違いない。ちょっとピンクがかっていて神秘的だ。



 神父様にお会いして以降、自分の持つ【原初能力 空間と創造】を発動しようと試みるも、うんともすんとも変化なし。

 片道2日間の船の旅は退屈だから、あれこれ頑張ってみるも能力は発現しない。トホホ。


「お嬢、同じ能力持ちでも使い方は千差万別ですぜ。手本があっても同じようにできる訳じゃありませんや。こうなったらいいなと想像力を膨らませて、日々挑戦し続けることが大事なんだと俺は思いますぜ」


 同じ原初能力持ちのダイス船長は、がっくりと落ち込んでいる私を励ましてくれる。

 【土】の能力持ちの父様は、自分の父親が力を使う場面を何度も見ているうちに、気付いたら使えるようになっていたらしい。


 宝石採取のために、なんとしてもマジックバッグを! って意気込みだけは一人前だけど、この世界にマジックバッグは存在してなかった。がっくり。

 まあ、私だって異世界転生モノを読んでなかったら、思いつかないだろう。

 でもでも想像力が大事なら、もしかしたらいけるんじゃない?って、自分用の小さなリュックに、ぎゅうぎゅうと服を詰め込んでいく。


 ……無理かぁ・・・待てよ、ここは定番の呪文を唱えたらどうだろう?


「原初能力よ、我の願を叶え、このリュックにたくさんの物を入れたまえ!」


 ……う~ん、駄目か。


「リュックさん、リュックさん、どうか私の願いを聞いてスペースをあけてね」


 ……う~ん、やっぱり駄目だ。しかも、自分で言いながら恥ずかしいし!


 

 ギリギリまで頑張っていたけど、目的地であるインカーヤ島が見えてきた。

 父様には、いつまでも荷物で遊んでないで片付けなさいと叱られた。

「遊んでたんじゃないもん」と呟き、ちょっとやさぐれてみる。


「リュックよ空間を空けよ!」って、やけになって命令しながら枕をグイっと押し込むと、何故か入ってしまった。


「あれ? どういうこと?」って首を捻りながら、枕を取り出してみる。

 今度は試しに着替えやタオルや洗面用具の入った、ちょっと大きなボストンバッグを椅子の上に置き、小さなリュックの上蓋を開けて押し込んでみることにした。


「リュックよ空間を開けよ!」って再び命令すると、自分で押し込もうとしたボストンバッグが、リュックの中に吸い込まれていった。


「ほよ?」


 意味もなく辺りをキョロキョロと見回し、ちょっと挙動不審になって椅子の下を見たりテーブルの上を見たりして、ボストンバッグが無いことを確認する。

 目をパチパチさせ深く深く息を吸い込み、苦しくなって吐き出した。


 ……ちょっと待って、これって、もしかして成功したんじゃない?


 飛び上がって叫びたい気持ちを抑え、今度はゆっくり3回深呼吸をする。

 言葉は子供っぽいけど、私は大人、落ち着くのよ! 

 この世界にない代物というか、これまで誰も使おうとしなかった【空間】の使い方だから、公表するのは不味いかも。うん、絶対に不味い。


 ……よし、暫く黙っていよう。



 上陸するインカーヤ島の港は、オリエンテ商会が造った港で、他の商会や契約してない者が使用する時は、きっちりと停泊料金をとるそうだ。

 ケガなどさせてはならないと心配する父様に抱っこされ、さすが大商会は違うわねと感心しながら移動する。


 眼前にズラリと並んで建っているのは、オリエンテ商会が所有する倉庫だ。オレンジや茶のカラフルな煉瓦作りの倉庫には、主に海産物が入っている。

 銀や宝石を保管してあるのは、ここから馬車で1時間ほど行った町の中にある、強固に造られた特別製の倉庫の中らしい。


 前世……いや、それはちょっと違う気がするから、地球での私という方がいいかな? うん、地球での私は、よからぬ霊や他人の負の感情の影響を受けないよう、パワーストーンのブレスレットをしていた。

 自分を着飾るための宝飾品は買うお金もなかったし、あまり興味もなかった。

 でも、新しい世界でなら、ちょっとくらい贅沢してもいいんじゃない?


 地球と同じ生き方をする必要もないし、贅沢をしたら罰を与えられることもない。使命に似たものはあったけど、今は目の前の養父母に恩を返す方が先だ。

 そのために、たくさんの人がオリエンテ商会の宝飾品で、ぜひ自分を着飾りたいと思わせるのよ。


 今のデザインは、宝石の大きさを強調してるだけで、ゴージャスさや可愛さや繊細な演出が足りない。だから商品開発で利益をもたらすのよ!

 だって今の私は、オリエンテ商会商会長の一人娘だもん。


 ……やったるぜー!

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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