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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
大厄災

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79 権力の使い方(1)

 理不尽。

 目の前で懸命に家族を助けたいと汗を流し、ケガをして血を流しながらでも、希望を捨てずに頑張っている姿を、何故見ようとしない? 理解しようとしないの?


 権力の使い方ってこんなの? 違うよね? 


 ほら、みんな固まってるじゃん。あんたの顔見て、みんな何言ってんだコイツってなってるじゃん!


「申し訳ありませんが、この惨状です。住民を行かせることはできません。領都の建物も全て倒壊したのでしょうか?」


「命令に背くと、爵位を剝奪されても文句は言えないぞ! 領都は建物が多いから瓦礫の撤去をする人手が要る。つべこべ言わずに支度しろ!」


「お断りします! 住む家を失くし、家族を亡くし、大変なのは此処も同じです。爵位を剝奪するならどうぞ。私は領主としての責務を果たします」


 ……よく言ったわ! それこそが真の領主の姿よ。



「行く必要などありません。もしも行けば、マセール王はお怒りになるでしょう。

 そして神は、領主として住民に寄り添う立派な男爵を祝福なさるでしょう」


 急いで空間収納からマーヤ・リー(予言者)の正装のロングベストを取り出し、救援隊の隊服の上に着た私は、睨み合っている2人の男の間に割って入った。


「なんだお前は!」


 伝令の男は私を睨み付け、そして目を凝らすように細めると無言で固まった。

 昨年から全国の教会は、聖人についての情報を掲示板でちょこちょこと出しており、【マーヤ・リーデ(先導者)】の外見は濃紫の髪にブラックオパールの瞳であると告げていた。


 私の聖人のベストを見た男爵は直ぐその場で跪き、「これは聖人ホワイト様」と頭を深く下げた。

 近くに居た住民たちは慌てて跪き……じゃなくて平伏していく。

 でも、伝令の男は口をパクパクさせただけで馬から降りようともしない。


「無礼者! 聖人の前で騎乗したままとは、名を名乗れ! 聖人を睨み付けた上での無礼、お前は破門されたいようだな!」


 聖人ホワイト様は聡明で優しく、民のために救援隊を結成したと掲示板で公表されたのは先月のことだった。

 優しいと評判の聖人が、男顔負けの怒気の籠った低い声で叱咤するとは誰も思ってはいなかっただろう。


 ……だから何? 今日の私はすこぶる機嫌が悪いのよ。あんたの上司バラス公爵のせいでね!


「し、し、失礼しました。わた、私は・・・命令に従い・・・従っただけで・・・も、も、も、申し訳ありません」


 伝令の男は馬から飛び降り、額を地面につけ、震えながら詫びる。


「バラス公爵に伝えよ。お前はマーヤ・リー(予言者)の命に背き、民を救済するどころか救いを求めてきた民を、剣で脅し屋敷前から排除した。

 神の使いである私が、この目で見たので言い逃れはできない。

 天罰を畏れぬのなら神の意に背き、自分の命に従うようお前が来て頼めと」


「わ、分かりました」と、全身を震わせる伝令は、何度も落馬しそうになりながら帰っていった。



「皆さん、怖い思いをさせましたね。さあ立って。

 私は自分勝手な高位貴族が大嫌いなの。

 でもね、マルイ男爵のように住民を思い、住民を助けようとする領主のことは大好きだわ。皆さんも領主様が好きでしょう?

 さあ、急いで作業に戻りましょう。私はケガ人を収容する簡易小屋を出します」


 平伏していた住民を立たせて、私は笑顔で作業を再開するように言う。

 そして、井戸の近くの空きスペースに、空間収納から8畳くらいの仮設小屋を2棟ポンと取り出して設置した。

 その途端、また住民が固まり、再び平伏して有難いと拝み始めた。


 ……しまった! いつもの感じで出しちゃった。私の能力を知らない人には、この空間収納は神業に見えるんだった。


 ついでだから、ケガ人を仮設小屋に運ぶのを手伝ったり、ケガの手当をした。

 恐縮していた住民たちも、靴を脱いで上がる日本式の仮設小屋にケガ人を運び終わると、緊張しながらも地震の様子を話してくれるようになった。

 因みに、仮設小屋の1棟には重傷者を、もう1棟には軽傷者を運んである。


「聖マーヤ救援隊は、現在対岸のミレル帝国側に本部を置き活動しています。

 今が午後4時くらいなので、5時くらいには医者と看護師を連れて戻ります」


 重傷者は私ではどうにもならないので、医者を連れてくると男爵に告げる。

 ミレル帝国側の震源地は、予想よりケガ人が少なかった。だから、医療班だけは早急に分けた方がいいだろう。

 大混乱している領都に入ると、貴族や金持ちが我先にと救護所にやって来て、喧嘩になるのが目に見えている。あっちは王孫ミレアに任せよう。


「えっ、対岸のミレル帝国側から馬車で来るには、10キロ先の橋を渡らねばなりませんから、どう考えても5時間、いえ道路状況次第では6時間以上は・・・あれ、聖人ホワイト様はどうやってここまで来られたのですか? 護衛の方は?」


 マルイ男爵が辺りを見回し、それらしい馬車も居ないようだがと首を捻る。


「ああ、教会の極秘事項なんだけど、転移してきたわ。戻って人を連れてくるのは1人が限界だから、先に医師、それから看護師を連れてくるわね」


 言われたことの意味が分からないのですがって顔をしているマルイ男爵に、重傷・中傷・軽傷者の数を調べておくように指示を出し、私は軽く手を振ってテレポートした。

 転移先は、ミレル帝国側の救済本部だ。


 ……きっと今頃、突然消えた私を心配しているだろうな・・・




「ただいま!」


 ポイントどんぴしゃで救済本部にテレポートした私は、心配していたノイエンや多くの学生に泣かれた。

 突然現れた私に驚いた住民は、私が着ていた聖人のベストを見て再び驚き、慌てて平伏そうとしたから止めた。


「心配かけてごめんね。ちょっとマセール王国側の様子を見てきたわ。

 どうやら震源地はマセール王国側だったみたい。

 医師1人、看護師1人の順で再びマセール王国側のマルイ男爵領に連れて行くけど、医療班の半数は、辻馬車で橋を渡って移動すること!」


 私は緊急移動してと指示を出し、最低限必要な医療道具と薬剤と医師を連れてテレポートした。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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