78 テレポート
予想してたけど、テレポート後の着地はテレポート発動時と同じ姿勢だった。
そのため、土手から落下する姿勢のままミレル大河の対岸に出現し、麦畑の中に倒れてしまった。
落下しながら見えたのが対岸だったんだよ。『向こう岸の先にテレポート!』って念じちゃった。
立ち上がって辺りを見渡すと、一面の麦畑にいくつもの凸凹した段差と亀裂が見える。
私が居る場所は、周囲りより2メートル近く隆起しており、その段差は東に向かって続いている。
ミレル帝国側でも多少の亀裂はできていたが、ここまでの地形変動はなかった。
……私が立っているこの辺りが、本当の震源地なのかもしれない。
……ミレル大河のこちら側は、土手の補強がしてあるみたいね。
……震源地が麦畑である意味幸運だけど、この先まで行かないと被害状況が確認できないわね。
「目視できる丘の上までテレポート!」
2キロくらい先の丘を見ながら、私はテレポートと唱えて移動する。
丘の高さは120メートルってところかな。
ぐるりと見渡すと、南側2キロくらいに先に集落があり、東側4キロくらいに先に大きな町が見えた。
……あれがバラス公爵領の領都バラスね。確かに亀裂は領都まで続いているわ。
ここまでの地割れに地面の隆起まであるんだから、領都はそれなりの被害が出ているはず。
予知で見た光景がそのままだったら、領主屋敷の見張り塔の片方が倒壊して、町の建物は半分くらいが半壊とか全壊になっているはず。
ミレル帝国の田舎の家は、煉瓦や木と土を使った簡単な作りだから、全壊している方が多いけど、下敷きになっても生存率は高かった。
でも、マセール王国の建物は強固な上に、民の家でも2階建ての建物が多い。
栄えている領都であれば、3階建て以上のアパートや商店が立ち並んでいるから、救援はかなり困難を極めるだろう。
地震発生から既に、1日半以上が経過している。
マセール王国の王族や高位貴族がまともなら、最低限の救済品くらい用意していると思う。そう思わせて欲しい。
多少の不安はあるけれど、確認しない訳にはいかない。
もしもの場合は、救援隊を2つに分けて活動する必要があるから。
高い建物が倒壊しているから、領主屋敷に通じる大通りは瓦礫が散乱し、今にも崩れそうな建物のある路地には、危険すぎて入れない。
人々の半分は呆然とし、半分は泣きながら瓦礫の中から家族を救おうとしている。
町全体が被災しているのに、領兵や警備隊の姿が見えないのは何故だろう?
「ケガ人は教会に運べ! 領主様はお忙しいんだ。屋敷内に入る者は盗賊とみなし処分するぞ!」
短い距離のテレポートを何度か繰り返し、領主屋敷になんとか辿り着いたら、門番らしき者が住民に剣や槍を向けて怒鳴っているのが聞こえた。
住民の多くは、瓦礫の撤去をして欲しいとか、ケガ人の手当をして欲しいと願う者たちで、他に頼む所などないじゃないかと怒りの声も上げている。
まあ日本でいえば、被災して市役所に来たけど、避難所も開設されておらず、具体的な救済予定も発表されないから、文句を言ってるってところだよね。
でもさあ、なんでケガ人を教会に丸投げしようとするの? 王都じゃないから病院なんて併設してないわよ。
……教会を何でもしてくれる便利屋さん扱い? でも便利屋さんは有料よ!
人混みに紛れて門の中の様子を窺うと、兵士や警備隊員は倒壊した見張り塔の瓦礫の撤去をしていた。
それが民を収容するためなら分かるけど、どうやらそうじゃなさそうだ。
瓦礫の後方には馬車止めがあり、派手な馬車が5台くらい停めてある。
その馬車を移動させるため、総出で撤去作業をしているみたい。ふ~ん。
「急げ! 王太子妃様と王孫ヒルトラ様の馬車を出すんだ!」
あれは屋敷の執事的な人かな? 凄く焦った感じで兵士たちに命令してる。
こんな時に、悪評高い王太子妃とその息子が来てるなんて、ほんと最悪。
これじゃあ、何も期待できそうにない。
……よし、さっき見た南側2キロの集落に行ってみよう。
丘の上から見えた集落に直接テレポートすると、建物の殆どが倒壊していた。
だが驚いたことに、半壊している領主屋敷と思われる場所に、多くの住民が避難しており、炊き出しする女性の姿も見て取れた。
しかも領主と思われる男性は、住民に交じってレスキュー作業をしている。
「領主様、ありがとうございます。お陰で娘は助かりました」
「領主様、どうか少しお休みください」
「領主様、畑から野菜を持ってきました。お屋敷に届けておきます」
汗を拭う領主に向かって、住民たちは感謝の言葉や体を気遣う言葉を掛けている。どうやら此処の領主は人格者らしい。
なんだかホッとした。
公爵家がアレだったから、善人の領主を見て涙が溢れそうになっちゃったよ。
村より少し大きくて、町と呼ぶには小さい規模の集落は、マルイ男爵の管理する土地らしい。大きな亀裂が入った場所より南側が、マルイ男爵の領地だ。
マセール王国王孫ミレアが描いてくれた地図を取り出し、此処がバラス公爵が治める大きな領地の中に在る、小さな男爵領だと確認した。
救援隊に入ったミレアだけど、今は救援隊とは別行動で、教会騎士に護衛され王都マセールに向かっている。
もしも救済活動を行わなかったら、王族は教会から破門され、2度と聖人様が訪問されることもないと国王を脅すためだ。
私はミレアに、マセール王はちょっとピントがずれていて不安だと告げた。
するとミレアは「お爺様は甘すぎるし、世界の動きを理解していないんです」と逆に愚痴り、自分が必ず救援部隊を率いて、被災地に向かうと言ってくれた。
頑張っているマルイ男爵に、救済の手を差し伸べようと隠れていた木の陰から出たら、同じタイミングで早馬に乗った伝令が来て、男爵に信じられない命令を伝えた。
「バラス公爵様からのご命令です! 男爵及び住民は、本日より領都バラスの復興作業をせよ。食料等の配給はないので用意して来いとのことです」
……はあ? ここの悲惨な状況が見えないの?
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