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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
大厄災

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77 ミレル帝国の腐敗

 ◇◇ 救済本部 班長 ノイエン ◇◇


 被災地の領主オバカネ侯爵の死亡と、ミレル帝国がマーヤ・リー(予言者)様の予言を無視したとケトラ教授から聞き、本部班全員が怒りで震えているところに、マシロ様と一緒にミレル大河の決壊現場に向かっていた学生が戻ってきて、信じられないことを報告した。


「「マシロ様が姿を消された?」」と、俺とケトラ教授の声が揃った。


「はい、護衛騎士様が足を滑らせた学生を救助している隙に、アイツが、罪人ホバルがマシロ様に近付き、大河に、ミレル大河に突き落としたんです!」


「なんだとー!」と、本部に居た全員が怒気を滲ませ叫んだ。


「突き飛ばす瞬間を目撃したのは私です。私は少し離れた場所に居たのですが、間違いなくアイツがマシロ様を後ろから押していました。

 マシロ様の御身体は、大河に向かって倒れていき、でも、でも、皆でどんなに探しても・・・発見することが・・・で、できませんでした」


 原初能力学部3年のランネルは、ぼろぼろ涙を零しながら説明する。


「大河の激流に流されたのか?」


 原初能力学部の教授であり副隊長のカーセ部長が、真っ青な顔をして伝令ランネルの両肩を掴みながら問う。


「い、いいえ、マシロ様は先ず決壊部分に水が来ないよう、風持ちに風の壁を展開させ、その間に決壊部分の少し内側に仮の堰を作るようお命じになりました。

 ですから、マシロ様が落ちた場所には膝くらいまでの水しかなかったんです。

 だ、だから、絶対に見付けられるはず・・・はずなのに、何処にも・・・うぅ」


 その場に座り込み、額を地面にドンと打ち付けながらランネルは泣く。



「それで罪人はどうした」


 白衣のまま駆け付けてこられた救援隊隊長であり医師のバード教授が、凍り付くような声で質問された。


「マ、マシロ様の護衛騎士スピカ様が、逃げられないよう直ぐにアイツの右太もも刺し、工事は中断するなと指示を出してから、手足を拘束し水没を免れた村の教会に引き摺っていかれました。

 教会は村の避難所になっていて、神父様と生き残った村人が監視しています」


 ……フン、今頃は尊い聖人様を害した大罪人として、村人に石を投げつけられているだろう。教会前に放置された罪人には、石を投げてもいいからな。


 ……聖人様が救済に来られたってだけでも、民は有難くて涙するはずだから、怒りの感情はどれほどか・・・


「護衛のアステカ騎士は、それ以上マシロ様を探さなかったんだな?」


「はい、マシロ様に指示されていた作業に戻られました」


「なるほど・・・で、あれば、マシロ様は生きておられる。ここだけの話だが、マシロ様は原初能力【本人瞬間移動(テレポート)】をお持ちだ。口外禁止だぞ」


 救援隊隊長のバード教授は、安堵したように大きく息を吐き、教会の極秘事項を口にされた。

 とんでもない能力の内容を聞き、思わず叫びそうになったが根性で耐えた。


 ……テレポート・・・物ではなく自分を移動。新たな原初能力の使い方だ。


 だが、何処に移動されたのかは分からないから、今夜中に戻られなければ捜索隊を出すとバード教授は仰った。

 マシロ様は空間収納をお持ちだから、必要な物は全てお持ちだろう。でも、もしも悲惨な被災地に移動されていたらどうなんだ? 

 心配するなっていうのが無理な話だ。今からでも探しに行きたいが、方角も分からないから我慢するしかない。




 ◇◇ 賢者 トマス ◇◇


 昨年私はマシロの公式訪問に同行し、ミレル帝国に来ていた。

 ヨンド共和国から移動する道中、馬車の窓から見た民の暮らしは苦しそうで、道路などの公共事業はおざなりだった。

 貴族至上主義の腐った国だとマシロは憤り、己の無力さに涙していた。


 公式訪問後のミレル帝国の態度をみても、反省しているとは思えず、国王や宰相はマシロを殺そうと企むクズだった。

 マシロ同様、この国が民のために災害に備えているなんて、私も思っちゃいないし、期待もしていない。


 だからといって、民のために尽くすことを教義とするマーヤ教会の賢者である私が、嫌いな為政者の国だからと民を見捨てることはできない。

 午後3時頃に立ち寄った町の子爵領主は、やはり災害備蓄をしていなかった。

 それどころか、自分も被災者だから救援品を寄越せという厚顔無恥な奴だった。


 震源地からは離れているから、震度5までいってないだろうが、古い建物の4分の1は半壊していた。

 けが人は多数出ている様子だったが、領主は見て見ぬふりを決め込み、民を救うのは教会の仕事だろうと言い放てる無礼者だった。


「現在マーヤ教会は、ミレル帝国からの寄付は受けていない。

 お前のように領主としての責務も果たさない無能に、くれてやる物などない」


 私はそう言い捨てて、その町から直ぐに立ち去った。

 怒りの感情に支配されそうになるが、マシロたちと合流するまで勝手なことはできない。

 教会もない村に立ち寄った時だけ、神父が死者に祈りを捧げ、ケガの薬だけ渡した。



 震源地より30キロ手前の町に入ったのは、すっかり日も暮れた時刻で、安全を考慮し教会に泊まった。

 倒壊していない教会に身を寄せていた民の話を聞くと、この地の領主も助けを求めて屋敷に来た住民を、無礼者扱いし追い返したらしい。


 あろうことか伯爵である領主は、明日の朝から屋敷の修復をするから、住民は3日間無償で働きに来いと命令し、来ない者は領地から追い出すと役場の掲示板で通告したという。


「皆さんは被災者です。守るべきは領主や役人ではありません。

 責任を果たさない領主は領主にあらず。皆さんは互いに協力し合い、なんとか生き延びてください。

 民を救うために救援隊を結成された聖人ホワイト様は、此処より南の震源地にいらっしゃいます。

 もしも限界だと思った時は、この町を捨て南に移動してください」


 賢者様の御話が聞けると集まった住民に、私は優しく微笑みながら告げた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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