76 救援隊出動(3)
戻ってきた騎士団の報告を聞き、予想通りの状況に皆の表情が厳しくなる。
特にミレル帝国とヨンド共和国の学生の顔色は悪い。
過去の天災でも、大雨によって大河が決壊したことは何度かあるらしい。
大河に接する領地を持つ貴族の多くは、土手の補修や改良工事をしてきたという。でも、地震という災害は想定されていなかった。
「明日は2つのグループに分かれて救済活動を行います。
原初能力【土】【水】【動力】【風】持ちの学生は、決壊した土手の修復工事を行います。最優先事項として行わねば、広範囲が水没することになります。
私が直接指揮を執るので、夕食後の作戦会議は私の所に来てください」
……やっぱり大規模な水害が起きていた。これは、衛生面も指導しないと疫病の心配があるわ。
……長期間の救済を考えたらミレル帝国ではたぶん、いや、絶対に指揮は執れない。
私は学生を率いる学生会会長であり、ヨンド共和国の王弟の息子でもあるノイエンを呼び、ある作戦の意見を訊いた。
その後、教会騎士団の副団長に、明日の早朝ヨンド共和国へと向かい、王に謁見し私の親書を渡すよう指示を出した。
◇◇ 救済本部 班長ノイエン ◇◇
翌日早朝、被災地に入った俺たちは、ただ茫然と立ち尽くす人々や、崩れた建物の前で泣き叫ぶ人たちの姿を見て、静かに頷き合い訓練通り作業に取り掛かった。
「私たちは聖マーヤ総合大学の学生で、聖人ホワイト様が立ち上げられた聖マーヤ救援隊です。
予言者である聖人エレル様は、ミレル帝国とマセール王国で災害が起こると昨年予言され、国王に民を救済せよと命じられました。
我々は、王や役人が救済活動を始めるまでの間の3日間、皆さんと共に協力し合いながら、医療活動・レスキュー活動・炊き出し等を行います」
揃いの隊服を着た我々を不安そうに見ていた被災者に、俺は助けに来たのだと告げた。
明らかに貴族っぽい雰囲気の俺たちに、恐れの視線を向け距離をとっていた被災者たちだけど、神父や教会騎士団の姿を見て、緊張していた顔が安堵の表情に変わっていった。
各班の班長とリーダーが前に出て、自分たちが担当する仕事を伝えていく。
救出要請はレスキュー班、ケガ人は医療班というように、設置された拠点を指さし、これから受付を開始するが、きちんと並んで受付できない者は救済しないと、俺は厳しい表情でキッパリと言った。
「住民の代表者は本部に来てくれ!
レスキュー班の半分は人命救助を優先するが、呼び掛けに反応がある倒壊現場から作業する。
家族を早く助けたいという気持ちは誰も同じだ。だが、作業順は我々が決める。ケガをしてない男性は協力してくれ」
レスキュー班現場リーダーのミダルが、大きな声で説明する。
彼は【動力】持ちで、今回【汚名挽回チーム】を率いて頑張っている。
彼が率いているのは、同じミレル帝国出身の学生とマセール王国出身の学生で、どちらもマシロ様の御命を狙った国の学生である。
マシロ様は特定の国と敵対していても、真摯に教えを乞う学生には、身分や出身国など関係なく平等に接してこられた。
というか、何処の国の出身かなんて興味がないと思う。もちろん身分もだ。
だからこそ、逆賊の国の学生と蔑まれず、軽蔑されずに済んでいる。それがどれだけ有難いことか。
【汚名挽回チーム】の学生は、全員がホワイティ商会への就職を望んでいる。
マシロ様は聖人だとは名乗られず、本部や他の班の拠点を空間収納から出されると、護衛騎士と一緒に馬に乗り、原初能力持ちの学生と一緒にミレル大河の決壊箇所に向かわれた。
今朝は空が白んできたと同時に、野営地付近の木をこれでもかと伐採され、空間収納にポイポイと収納されていた。
10台以上の辻馬車が空間収納に収まった時も驚いたが、あの数の木がいとも簡単に収納された時は、流石の俺も皆と同じように口を半開きにした。
……さすが我らが崇める女神様だ。
……美しく聡明で凛々しく、天の星々の如く輝いておられる。なんと眩しい。
今回マシロ様を補佐するのは、原初能力学部で主席研究員をしているディード25歳で、【マシロ様の僕】という総合学科チームを率いている。
彼はマセール王国マイン侯爵家嫡男だが、【マシロ様を崇める会】の広報部長をしていて、俺と同じくらいのガチのマシロ様信者だ。
ディードの血族は【創造】能力持ちで、侯爵家だけどマセール王国内では発言権は低いらしい。でも、叔母は第二皇子妃になっている。
つい最近まで【創造】持ちは能無し扱いだったけど、マシロ様の改革により今ではチームを率いるリーダーになる者が多い。
ディードはマシロ様に鍛えられ、【物質変化】という希少能力が使える。
……マシロ様、どうかお気を付けください。
正午頃には、被害状況が徐々に明らかになっていく。
この町の人口は4千足らず。ここから7キロ離れた場所に領主であるオバカネ侯爵の屋敷があるが、役人が被害確認に来た様子はない。
救援隊副隊長(交渉担当)である経済学部のケトラ教授45歳が、調査班に同行して領主屋敷に向かったので間もなく帰ってくるだろう。
多少の混乱はあるものの、住民の多くは協力的で、レスキュー班と一緒に救助作業を手伝ったり、炊き出しを手伝ったりしてくれる。
残念ながら亡くなった方々は、同じ場所に移して神父が祈りを捧げて葬儀を行っている。
犠牲者の多くは建物の中に居た女性や子供たちだったから、残された父親の涙には思わず貰い泣きしそうになった。
午後3時、領主屋敷に向かっていたケトラ教授と調査班が戻ってきた。
領主屋敷は倒壊し領主は死亡。嫡男は王都で働いており、ミレル兵も領兵も領都で手一杯だから、他の場所まで手が回らないと言ったそうだ。
「それと信じられなことに国も領主も、マーヤ・リー様の予言を無視し、大災害の備えを何もしていなかった」
マシロ様の仰る通りだったと、ケトラ教授は怒りで肩を震わせながら言った。
「た、大変です! 決壊した土手で指揮を執られていたマシロ様が、マシロ様がー! 犯罪者のホバルが、アイツが、あの罪人がー!」
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