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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
大厄災

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73/110

73 震源地

 年が明け、学園はいつもの平静を取り戻していた。

 教室の中に一人だけ違う服装の罪人がいても、その罪人が最前列で居眠りをして、使用済みポスターで作られたハリセンで教授にしばかれても、最早珍しくもない日常である。


 年末の10月中は刺すような視線に晒され、蔑みと憎しみの視線を向けられ、私を殺そうとしたミレル帝国の罪人(ホバル)は、常に下を向いて悔しそうに唇を咬んでいた。

 その様子からは反省の色は見えず、留置場では必ず私を殺してやると叫んでいたようで、他の犯罪者にドン引きされていたらしい。


 ミレル帝国は、本人が勝手にやらかしたことであり、国は全く関係ないから処刑しても構わないという知らせを年末に寄越した。

 神をも畏れぬ大罪を犯したのが自国の貴族なのに、王や宰相()が飛んできて謝罪することもなかった。

 あの国の王族や貴族は常識を持ち合わせていないと、今では大陸中で嘲笑されている。


 父親や王族が助けてくれると信じていたホバルは、年が明けた日にその返書を見せられ2日間喚き散らし、講義中も突然泣き出して教室から摘まみだされていた。

 処刑という恐怖を感じたからか、手紙を見た5日後、ホバルは騎士団長と神父に懺悔したいと言い出した。


「私は宰相である父親に役立たずと叱咤され、王様からは私のとりなしが下手なせいで、聖人が再来しないのかもしれないが、まあ来なくても構わないと言われた。

 でも、生意気な聖人など殺せばいいと言われ、それが自分に与えられた仕事なのだと思ったのです。私は指示されただけなんです」


 被害者面で泣きながら懺悔するホバルは、だから私は悪くないのですと言った。


「だから何だ? お前は、それを間違っていると思わず、マシロ様を見下し殺そうとした。その事実は何も変わらない。

 お前は大罪人であり、己の行いを反省せず、謝罪もしていない。

 本来なら翌日には処刑されていたお前を、生かしてくださっているのはマシロ様だ。親や国はお前を切り捨てたのに、聖人とはなんと慈悲深いのだろう」


 セイント・ロードスは土下座して泣くホバルに呆れ、全く同情する気にもならなかった。むしろ、今からでも処刑すべきだという気持ちを強くした。


「お前がそう言っているとミレル帝国に告げたら、数日以内にお前は父親に殺されるだろう。国や親を危険に曝した裏切り者としてな」


 余計な仕事を増やされるのは迷惑だと、騎士団長は顔を顰めてホバルに言い、もしも逃げたら信者になぶり殺しにされるだろうと脅しをかけた。


 2月、全てを親や国王のせいにして反省しないホバルに、私はにっこり笑ってミレル帝国に対する処罰を伝えた。


「ミレル帝国の高位貴族家の子は、聖人を害そうとした罪を国王が認めるまで、聖地マーヤ内の学校入学を認めない。

 そして、アナタの家とミレル帝国王家を、天聖ソワレ様は破門されたわ。

 全ては、アナタの愚かな行いが原因よ。ミレル帝国の高位貴族の子供たちは、さぞかしアナタのことを恨むでしょうね」


 もう2度とミレル帝国に()()()()()戻ることはないから、王族や高位貴族から恨み言を聞かなくて済んで良かったわねと付け加えておいた。


 ……ここは正念場なのよね。聖人である私を害すると、自国に大きな影響を与えるのだと、目の前の愚か者を使って示す必要があるから。


 ……もちろん、マセール王国を牽制する意味もある。だって、未だに私を襲撃した犯人を捕らえてないもん。 



 今回の天聖ソワレ様の決定は、全ての国の教会掲示板に貼り出された。

 よって以後、ミレル帝国の王族とホバルの家は、教会で結婚式もできないし葬式もできない。神父は祈りを捧げることもない。

 間近に迫った王子の結婚式には、出席できないと各国の招待客は返信した。


 この決定に激怒したミレル帝国は、教会への寄付を打ち切った。

 それに対し教会は、ミレル帝国の高位貴族の教会病院での治療費を5倍にしたり、王宮に駐在させていた医師と看護師を本教会に戻した。

 天聖様の決定とミレル帝国に対する制裁を知った各国は、自国のバカが聖人に何かしたら、同じ目に遭うのだと戦々恐々としている。




 2月末になると、実際は揺れていないのに、地面が揺れたような気がして、それが眩暈なのか予知なのか分からず不安になった。

 3月15日から春季休暇だけど、嫌な予感がした私は、3月1日から休暇を前倒ししてタラト火山にブラックガイの採掘に行った。


 急いで戻った3月10日、それは突然起こった。

 午前の講義が始まって僅か3分、ゴゴゴゴゴと地鳴りがして地面と建物が横に揺れ始め、次いで縦揺れがきて大講堂内に悲鳴が響いた。

 偶然その時の講義は救援活動に関する内容で、地震が起きたら慌てず姿勢を低くすると学んでいた学生たちは、悲鳴を上げながらも身を伏せていく。


 私も教壇の上の机の下に身を隠し、揺れが収まるのを待った。

 待っている間、震源地と思われる場所の映像が、突然頭の中に映し出された。


 大きな川の土手が崩れて、雪解け水が作付けされたばかりの畑に向かって流れていく。

 少し離れた山も崩れて、何軒かの家を押し潰していく。

 小高い丘の上に建つ領主の屋敷は、半分が崩れて人々が逃げ惑っている。

 屋敷に近い町は・・・かなり悲惨な状態で、思わずギュッと目を瞑った。


 すると突然場面が変わって、膝上まで伸びた麦畑が広がる美しい平野が見えた。麦畑には幾筋もの亀裂が走り、亀裂はその先に建つ豪奢な屋敷まで伸びている。

 屋敷は倒壊したりしていないが、壁にはヒビが入り、付近の民家は半分が倒壊している。


 ……分かっていたけど体が震える。分かっていたけど自分に課された使命と責任に押し潰されそうになる。


 私は机の下から飛び出て、今視えた光景を黒板に書き出していく。


① 川土手の決壊、葉物の畑、小高い丘の上の領主屋敷は半壊、近くの町はほぼ全滅、山崩れで家が倒壊(山火事の痕跡あり)


② 一面の麦畑・幾筋もの亀裂、豪奢な屋敷(2つの見張り塔)、付近の家は半分が倒壊


「何処? ここは何処なのー! 誰か、誰か地図を持って来てー!」

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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