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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
大厄災

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71 従姉登場

 ◇◇ マセール王国 王孫ミレア ◇◇


 とうとう来たわ。

 今年から高等大学は聖マーヤ総合大学に生まれ変わり、私は幸運にも第一期生として入学することができた。

 学べる教科が増えた上に、聖人お2人から講義を受けることができるという特典付きだ。これを幸運と言わずして何が幸運か。


 この夏に高等大学を卒業した先輩に聞いた話だと、聖人ホワイト様は名ばかりの学生会を改革し、学生に権限を与え自主性を持たせることで、学生たちの意識を大きく変えたそうだ。


 ……私もいい成績をとって、学生会のメンバーになりたい。


 僅か13歳で高等大学の教授になり、原初能力研究所の所長に就任された。

 今年度からは、原初能力学部の初代学部長に就任されている。

 原初能力研究所を卒業し、9月にホワイティ商会に就職した先輩からお聞きした聖人ホワイトさま伝説は、前所長との能力勝負や常識を打ち破った能力の使い方など、どれもこれも心躍る話ばかりだった。


 先輩はマシロ様と出会えなかったら、役にも立たない研究をして満足している、時代遅れのマセール王国研究所に就職し、腐っていくしかなかったと言っていた。

 総合大学の教育学部を卒業したら、原初能力学部に編入して総合学科で他の能力者と切磋琢磨したい。そしてホワイティ商会に就職するか、国王を目指す。


 ……マーヤ・リーデ(先導者)であるマシロ様は、私と血の繋がった従妹だ。絶対に口には出せないけど。その事実だけでもう最高! 


 ……頑張って名前を覚えていただきたい。ああ、早くお会いしたい。



 2年前まであった各国の王族推薦枠は無くなり、昨年から実力重視の試験に変わったから、結局兄のヒルトラは今年も合格できなかった。

 あんなバカがもしも入学していたら、聖人ホワイト様……いえ、マシロ様に無礼な態度を取り不敬罪に問われ、マセール王国の王族の信用は地に落ちていたはず。


 私は自分で努力し、国に役立つ知識を身に着け、国王であるお爺様と王太子であるお父様に認められたい。

 側室の子だからと見下げる王太子妃は、自分の子である兄・・・いえ、愚兄ヒルトラが国王になれると思っているけど、あの素行の悪い愚兄が王になったりしたら国が滅んでしまう。


 王太子妃は、派手に着飾り自分の派閥を作ることしか考えていないし、愚兄ヒルトラは威張ってやりたい放題。

 王太子であるお父様が注意しても、実家であるバラス公爵家の後ろ盾もあり、悪びれることもなく王家の予算を食いつぶしている。

 本来なら側室・第二皇子・第三皇子の家族に回すはずの予算まで使っている。


 最悪なのはバラス公爵が、孫のヒルトラの愚行を揉み消し甘やかすので、国内の良識ある貴族たちは眉をひそめ、王家に対する敬意は失われつつある。

 もしも愚兄が次の王太子にでもなったら、私は他国に嫁ぐ。いやダメだわ。私は原初能力・炎持ちだから、他国に嫁ぐことは許されない。ふぅ。


 折角の入学式なのに、嫌なことを思い出し溜息を吐いてしまったわ。

 ダメダメ、もう直ぐマシロ様がスピーチされるんだから集中しなきゃ。




 ああ、マシロ様のスピーチも、賢者トマス様のスピーチも素晴らしかったわ!

 マシロ様の【時代の先駆者となれ】っていう話は凄く心に響いたし、賢者トマス様の「君たちの情熱が時代を変えるのだ!」っていう激励には、思わず「はい!」って応えちゃった。

 他にも「頑張ります!」って数人が応えてたから、同じ気持ちだったんだろう。


 ……私は強い人が好き。頭のいい人が好き。努力する人を尊敬し、共にありたいと思う。


 剣を学び、護身術を学び、貴族学園を首席で卒業し、自他ともに認める負けず嫌い。変わり者と言われようと、美しいドレスで着飾り、男に媚びるだけの女になんてなりたくない。

 身分が全てだと威張り腐った貴族や、平民を見下し無理難題を押し付ける能無し貴族を見ると、思いっ切り踏みつけたくなる。


 ……だからマシロ様に憧れる。王族や高位貴族を物ともせず、嫌いだと言える大胆さと、誰にも真似できない神より授かった頭脳。もう最高!




 感動の入学式を終え、遠くからでも再びマシロ様を眺めようと移動していたら、なんだかゴソゴソとカバンに手を突っ込んで妙な動きをしている男が、マシロ様の方に向かっていくのが見えた。


「怪しい・・・」


 私の勘が危険を察知し、怪しいと告げている。

 怪しい男の後ろに急いで近付き、マシロ様の御姿を探す。

 怪しい男の横を早足で通り過ぎ、少し進んでちらりと振り返って様子を窺う。


 ……あれは3年のネクタイだわ。

 ……視線は完全にマシロ様だけを見ている。

 ……うわ、気持ち悪い目・・・狂気?


 あら、学長や学部長たちとご一緒に移動されていたマシロ様が、皆様と別れて教会の方へと移動されていくわ。

 少し離れた場所には、教会騎士が2人待機されているから大丈夫よねって思っていたら、私の斜め後ろに居たはずの怪しい男が、突然マシロ様の方に向かって走り始めた。


 ……ちょ、やばい、肩掛けバッグからナイフのようなものを取り出してる!



 体が勝手に動いた。

 あれは絶対にマシロ様を狙っている。

 あんな気持ち悪い男なんかに、マシロ様を傷付けさせてなるものか!


「死ねー平民!」


 男はナイフを振り上げて、マシロ様に襲い掛かろうとする。

 異変に気付いた教会騎士は、剣を抜いて全速力で駆けてくる。


 ……ダメ、あそこからだと間に合わない!


「キャーッ!」と女性たちが悲鳴を上げ、「止めろー!」と男性たちは絶叫する。


「マシロさまーお逃げください!」と、叫ぶ神父たちの声が微かに聞こえる。


 時間がスローモーションのように流れ始める。

 振り返られたマシロ様の美しい濃紫の髪は風に揺れ、男の走る足音が近くなる。

 私の右手は、ナイフを持った男の上着を掴もうと、前へ前へと伸びていく。

 もう少し、あと少し!


「ふざけるな!」

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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