61 聖人認定
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ミレル帝国からダッシュで帰ってきた私は、天聖ソワレ様やセイント、セント、経理部門責任者などメインメンバーを集めて、公式訪問の報告会を行った。
ミレル帝国の顛末は、既に早馬で報告済みだったけど、改めて説明しておくことにした。
みんな文句も言わず聞いていたけど、アステカが【天のお力】について言及したら、全員がギョッとした表情で私を見た。
「嫌だわ、そんな力なんて持ってないですよ。
ん? ちょっと、なんで疑うような視線を向けるんですか? 私が書いたシナリオの中の空想の言葉ですよ?」
「いや、マシロさまならもしやと思いまして・・・
過去の文献の中に、マーヤ・リーが怒りの表情で天を指さすと、空から星が落ちてきて町が2つ消滅したと記載されておりますので・・・」
セイント・ロードスは、ハハハと薄笑いしながら取り繕うように説明し、他のセイントやセントは下を向きながら私から視線を逸らした。
……本当にあったんかい! こっちがびっくりするわ。
……それでミレル教会の教会長と副教会長が、必死の演技をしてたんだ。まさか、本気で心配してた? ええぇーっ、あれって演技だよね?
「ゴホン、ミレル帝国の件は、先方の出方を見るということにして、今日は皆さんに重大なお話があります。
恐らく、いえ間違いないと思いますが、私はヨンド共和国の教会前で賢者を保護しました」
ニコニコしながら本日の最重要事項を告げると、ソワレ様以外のメンバーが「なんですと!」と言いながら驚いて立ち上がった。
「セイント・ロードス、鑑定をお願いします。スピカ、トマスを呼んできて。
それと、賢者と思われるトマスは、私と同じように天から降ってきたようで、この大陸の言葉が話せません。私も同じでしたから」
天聖ソワレ様には、トマスのことを詳しく書いた手紙をヨンド共和国から送っておいたけど、本当のところは原初能力鑑定が必要なので、今日まで極秘扱いしてもらっていた。
スピカと一緒に会議室に入ってきたトマスは、「はじめまして、よろしくトマスです」と、かたことのタラト大陸共通語で挨拶した。
ここに居るのは教会のスペシャリストばかりだ。トマスのラピスラズリの瞳を見て息を呑んだ。
ゆっくりと立ち上がったセイント・ロードスは、笑顔でトマスに近付き右手を差し出し握手しながら、トマスの瞳を凝視して、スッとその場に跪いた。
すると他のメンバーも同じように跪いていく。
「お待ちしていました【マーヤ・ルーダ】。私が天聖ソワレです」
ソワレ様はそう言って握手を交わし、大変だったわね、もう大丈夫よと英語で囁いて優しくハグした。
聖人認定されたトマスは、歴代の聖人が使っていた部屋の中で、トルコ風というかオスマン帝国風って感じの部屋を選んだ。
美しい青を基調とし、凝った図柄で装飾されたタイル張りの部屋は、私の部屋より少し広く、窓際に置いてある大きな執務机が特徴の部屋だ。
馴染みのあるスピカが、暫くトマスの世話をすることになった。
ソワレ様は、一か月で会話できるように鍛え上げると張り切っている。
ソワレ様の執務室の本棚には、英国人だった先代賢人様が書いたタラト語の辞書がある。それを教材にするらしい。
……私も日本語と英語とタラト語の、三カ国語辞書を作っておこうかな。
いつの間にか後期がスタートし、6月に新しい聖人の認定式を行うと決まった。
今回は、各国の要人も招いて行われ、参列者は4名までと決まったらしい。国王でも大臣でも学生でも構わないと、ソワレ様が指示されたとか。
既に各国は、ミレル帝国が聖人ホワイト様を怒らせ、大変なことになったと知っているから、失礼な態度を取る国は無いと思いたい。
各国がミレル帝国の愚行を知ったのは、後期の最初の講義開始直前に、ミレル帝国の宰相の3男だと名乗る学生が私の前に出てきて、「何か誤解されたようで、どうか再びご訪問ください」って、大勢の前で大袈裟に懇願したからだ。
「誤解? 大切な会談のつもりで訪問したら、着飾った大勢の貴族が並び、会議をするテーブルも用意されていなかったから、会談は必要ないと判断し帰ったのだけれど?
聖人である私が、王族や宰相にだけ会うと伝えておいたのに、連れていかれたのは舞踏会の会場だったわ」
「いえ、あれは聖人様に御挨拶をと、国王が厳選して集めた侯爵以上の貴族たちです。大切な聖人ホワイト様を、最上級の部屋で歓迎させていただきました」
何も分かっていない目の前の学生は、自国は悪くないと思っているようだ。
謝罪するなら分かるけど、私が誤解したと言うなんて、まるで私が勘違いして勝手に帰ったかのように言うのね。
大講堂内に、何とも言えない緊張感が広がっていく。
私の講義に何度か出ている学生は、今、私が不機嫌な顔をしていると気付いている。でも目の前の学生は、私の講義を受けたことがないと思われる。
「きみは、この講義の受講申し込みをしていないな。出て行きなさい!」と、教授の一人が怒鳴る。
その様子を見たプクマ王国の王弟の息子イドリース君と、ヨンド共和国の王族のノイエン君が立ち上がり、怒りの形相で宰相の3男を睨み付けた。
「我がプクマ王国は、華美なもてなしや晩餐会は不要との教会の通達に従った」
「そうだなイドリース君。我がヨンド共和国も、聖人ホワイト様のご指示に従い、王族だけの会談をした。それはそれは有意義な会談で、多くの教えを頂いた。
【マーヤ・リーデ】であられる聖人ホワイト様の、公式訪問の意味も理解できないとは、これだから聖人ホワイト様が、王族や高位貴族を忌避されるのだ」
学生会の役員でもあるノイエン君の話を聞き、無知な学生に出て行けと抗議する意を込めて、受講者全員が一斉に立ち上がった。
この講義の5日後には、各国にミレル帝国の失態が知れ渡っていた。
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