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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
公式訪問

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60 ミレル帝国

 有意義だったヨンド共和国訪問の後は、このタラト大陸で最も旧態依然としたミレル帝国に行かねばならない。

 原初能力学園で出会った第4王子トコバ(12歳)のことを考えたら、親の思考や国の考え方もだいたい予想できる。平民なんてゴミ扱いなんだと。


 この国の王族や貴族を見捨てるのは簡単だけど、こんな国だからこそ教会が果たす役割は大きい。

 理不尽に搾取され虐げられる民を救ってくれるのは、マーヤ教会だけなのだ。

 他国なら行っている最低限の救済活動も、この国の貴族には他人事だ。


 治安は悪いし盗賊も多い国だから、これまでのように先んじて行ってきた潜入視察はしない。

 アステカもスピカも同行する者も揃って、あまりにも危険だから止めてくださいと必死の形相で止めるんだもん。大人しく馬車の中で我慢よ。

 まあ同乗してるトマスがいるから、いろいろ気が紛れたし。


 トマスったら、日本のアニメが大好きだったのよ。特に戦隊ものが。

 車がロボットになったり、宇宙空母が変形して巨大なロボットになったりするアニメのファンで、機械系の勉強をする切っ掛けになったらしい。

 私とは好きなアニメのジャンルが違うけど、アニソンはどのジャンルでもいけたから、一緒に日本語で歌いながら沈みがちな気持ちを上げた。


 沿道で歓迎してくれる民の多くは痩せている。でも、貧しい暮らしをしている中でも、目一杯のおしゃれをして手を振ってくれる。

 穴の空いた服は継ぎ接ぎをして、聖人様に失礼がないようにと礼を尽くしてくれる。ちょっと泣きそうになったけど、素顔を出して笑顔で手を振る。


 立ち寄った町で挨拶に出た貴族の贅沢な装いに辟易し、何故教会の神服が白で、唯一の装飾が刺繡なのか分かった気がする。

 馬車の中で自分の無力さに落ち込んでいると、私の心情を理解してくれたトマスが、優しく背中を撫でながらディ○ニーの名曲ピノキオの星に願い○を歌ってくれた。


 ……トマスったら、無駄に歌が上手い。思わず涙が出たじゃない。



 到着した王都ミレル。これぞお城でございますって感じに苦笑した。

 でも地球だって同じような歴史を辿っていたし、私ってヨーロッパの古城ファンだったじゃんって己を戒める。


 翌日、到着した城内で白い聖布を取ってからは、終始アルカイックスマイルよ。

 トマスは神父の正装で、従者として同行している。言葉は通じなくても分かることはたくさんあるから。


 案内された場所は迎賓館のようで、キラキラと贅をつくした建物だった。

 まあ考えてみたら、国賓をもてなす場所としては普通なのかもしれない。

 国と国とのプライドを懸けた外交なら、うちの国はこんなに素晴らしいんだぞと自慢することも必要だろうし、格の違いってやつを見せつけるのもアリだ。


 ……でもねぇ、私は自慢大会の外交に来た訳じゃないんだよね。


 派手な歓迎はお断りだと教会から何度も通達を出しているはずなのに、会場内にはギラギラした視線を向け、キラキラと着飾った大勢の高位貴族たちが左右に並んで立っていた。


「これでも侯爵以上の貴族に限定しているのですが、歴史の古い国ですからどうしても人数が多くなってしまいました。ハッハッハ」


 明らかに自慢していると分かる口振りで話す宰相は、下品に笑って私たちに入場するよう勧める。


「どうやら舞踏会会場に間違って案内されたようです。

 セント・アテイナ、ミレル教会長、ミレル王は聖人の公式訪問を、高位貴族との懇親パーティーだと勘違いされているようだわ。

 こんな侮辱を受けたのは初めてです。帰ります!」


 私は真顔でそう言い捨てると、クルリと体を反転させ急ぎ足でその場を立ち去っていく。

 当然後ろなんて振り向かないし、誰かの焦った叫び声も完全無視。

 スピカが差し出した白い聖布を再び被り、ミレル教会長を先頭に来た道を戻る。


「聖人ホワイト様、このような無礼な者たちを許してはなりません!」


 周囲の者に聞こえるよう、大きな声で怒りを露わにして叫ぶのは教会騎士団の正装で同行しているスピカだ。


「お忙しい【マーヤ・リーデ】様の公式訪問を、ただの懇親会扱いするような国は信用できません。直ちに本教会に戻り、天聖ソワレ様に報告いたします!」


 スピカよりも大きな声で話すのはアステカだ。


「お、お待ちください【マーヤ・リーデ】さまー!ハアハア、誰か引き留めてくれー!」


 たぷたぷのお腹を揺らしながら走ってきた宰相は、息を切らしながら叫ぶ。


「本当に申し訳ありません【マーヤ・リーデ】様。私は何度も華美な出迎えは控えるようお願いしました。

 王族と宰相だけの会談を望むと通達を出していたのに、会議用のテーブルさえ用意されていない部屋に通されるとは・・・どうか私を罰してください!」


 追いついてきた宰相を視線に捉えた教会長は、突然私の前で土下座し、自分を罰して欲しいと懇願し始める。


「申し訳ありません【マーヤ・リーデ】様、どうか、どうか、この国の民を見捨てないでください。

 天のお力を使わないでください。

 王族や貴族の無礼が許せるものではないとしても、国を一瞬で滅ぼすお力を使われては、懸命に生きている民が、民まで死んでしまいます」


 同行してきた副教会長も土下座し、涙ながらに訴えていく。

 この国の王族や貴族に、常日頃から怒り心頭だった副教会長は、ここぞとばかりに気合を入れる。

 

「天のお力?」と青い顔をして呟くのは、宰相と衛兵、そして多くの役人たちだ。


「馬鹿者! 天のお力を口にするとは」と、怖い顔でアステカが叱咤する。


 ……私だってね、この国が民を大事にしていて、ちゃんと会談する気でいてくれたら、シナリオ通りに実行しようと思わなかったわよ。


 ……日頃演技が下手なアステカまで今日は完璧に演じていたし、ミレル教会の2人も迫真の演技だった。よし、合格。

 

 そんな感じで、聖人様御一行は国王と会うこともなく、用意万端でそのままミレル帝国から立ち去りましたとさ。おしまい。いや、つづく。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から新章スタートします。

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