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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
公式訪問

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59 ヨンド共和国(4)

 国務大臣とその息子である教え子ノイエン君との会談を終えた私は、計画通り王都の視察に出掛けた。

 トマスは私の部屋で留守番しながら、共通語の文字の勉強だ。

 私が前に作った文字表は、発音をローマ字表記にしておいたので、それを使って基礎を覚えてもらう。


 ……せっかくの頭脳も、喋れなくちゃ教えられないもんね。トマス、ファイト!


 既に夕方だったから、街をぶらぶらする感じで歩く。

 夕食は繁盛している町の食堂でとり、食べながら人々の会話に耳を傾ける。

 港町からは4時間足らずだから、王都でも魚介類を使ったメニューが多い。

 この国は香辛料を栽培しているから、味もバリエーション豊かだ。


「本当に美味しいですねお嬢様。お肉も好きですがお魚も好きになりました」


 そう言いながら幸せそうに食べるのはスピカだ。

 誰が見ても侍女っぽい服装をしているけど、今夜はスカートの下に短刀を忍ばせている。

 所謂ドレスみたいな衣装を着るのは貴族くらいで、庶民は丈の長いワンピースを着ている。12歳まではひざ丈のワンピースらしい。


 この国独特のスタイルとして、働く女性はひざ下丈のワンピースの下にズボンを履いている。

 地球で暮らしていた時の私の服装に近く、早速ズボンを3本買っちゃったよ。これが柔らかい生地のレギンスなら最高なんだけど。

 この国には、もしかしたら地球の転生者が居るのかもしれない。



「明日は聖人様がいらっしゃるんだろう?」

「そうそう、今度の聖人様は固形燃料を作ったって話だ」

「俺の妹の義父は商人なんだけど、聖人に認定される前からご自分で商会を立ち上げた天才だって聞いたぞ」


 右隣のテーブルに座る3人の男たちから偶然聞こえてきたのは、聖人である私の噂話だった。

 概ね評判は悪くないようで、ちょっと安心した。



「聖人とはいえ所詮は子供。大国マセールの訪問を最後にするとは、常識を知らないとしか思えないな。

 しかも固形燃料をマセール王国には少量しか販売しないから、俺たちが隣国まで出張らなきゃいけない。

 こんな小国に売るなら、うちの貴族に売った方が儲かるってーのに、計算もできないバカなんじゃないか」


 アステカが超不機嫌な顔をしてスプーンを持つ手を止めているので、気になって左隣の丸テーブルの会話に耳を澄ますと、こっちでは私の悪口を言っていた。


「いや、でも俺は、マセール王国の貴族が何かやらかしたから、順番が最後になったって聞いたぜ」


「はあ? 勘弁してほしいよ。王太子妃アマリア様は、欲しい物を絶対に納品しないと王宮への出入りを取り消しされるんだぞ。

 アマリア様の激しいご気性にそっくりな第一王孫ヒルトラ様は、納品できなかった商会員の腕を斬り落としたって話だ」


「お前のとこの商会は大変だな。うちは中堅の商団だから王宮には入れない。命の危険に曝されることがなくて良かったよ。まあ一杯飲め。奢ってやる」


 一人はマセール王国の商会員で50代、もう一人は同じマセール王国の商団員で60代くらいだろう。

 平民の身分を使って隣国で安く固形燃料を買い、自国に戻ったら貴族料金で販売し差額で儲けようって魂胆ね。


 ……ふ~ん、予想はしていたけど気分のいいもんじゃないわね。


 父様が言っていたけど、マセール王国の商会はプライドが高く、他国の商会を下に見てバカにしており、出店した時も数々の妨害を受けたそうだ。

 ルービック○ューブを販売した時には、販売権を寄越せと王族を使って圧をかけてきたらしい。

 貴族専用商会もあるらしいから、ホワイティ商会の出店は様子見だね。

 

 ……貴族の威を借る商人って感じかぁ。


 ……まあ私だって、聖人の仮面と商会主の仮面を使い分けてるけど、民のための商会だから同じじゃないよね? 教会の威を借ってないよね?


「アステカ、顔が怖いですよ。折角のお料理です。美味しくいただきなさい」


 小さい時から私の護衛をしているアステカは、私の努力と苦労をずっと側で見てきたから、こういう輩が許せない傾向が強い。

 剣から手を放しなさいと視線を向けると、渋々スープを食べ始める。



 翌朝、午前中に孤児院に行って基本学校にも行ってみた。

 どちらも良識ある運営をしていて、この国は信用できると判断した。

 午後3時、城壁の外に出て聖人専用馬車ご一行と合流し、今到着しましたって感じで馬車から沿道の皆さんに手を振る。

 今日も白い聖布を頭から被っているけど、教会の根回し済みで問題なし。


 到着後、私の要請でヨンド共和国の王族の皆さんとだけ、極秘で夕食後に会談することにした。

 まあ前日に国務大臣親子に会っているから、今更演じても仕方ない。

 今回はちゃんと話したいから、夜にトマスを同行し賢人である可能性を話して、良かったら後援者にならない?って提案する。


 結果として、ヨンド共和国の王族の皆さんは、大歓迎で賢者トマスの後援者になってくれた。

 トマスの作りたいモノや研究に必要な材料を調達したり、加工してもらう。

 これも何かの縁ってことで、王弟の息子であるノイエン君を卒業後、賢者トマスの秘書として採用する約束をした。在学中もしっかりお世話してね。



 翌日は朝から、ヨンド共和国の産業発展についてガッツリ話し合った。

 各大臣と王都に本店を置くマイセル商会の代表も参加した会議は、大いに盛り上がったし有益な話がたくさんできた。

 ホワイティ商会の2号店は、ヨンド共和国の王都に出店すると決めた。1号店は既に首都シュメルに在る。


 ヨンド共和国に出店するホワイティ商会は、主に建設部門と収納バッグ部門になるだろう。

 この国唯一の商会であるマイセル商会は、建設(土木系)・建設資材販売を主とする商会なので、協力して大きくしていけばいい。


 観光産業はもっと発展できると思うから、有効な広告宣伝方法を教えたり、国内での食の伝道や香辛料の栽培強化、綿花の栽培にも力を入れてファッション系でのリーダーになったらどうかと、つい、熱弁を振るってしまった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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