54 プクマ王国(3)
翌朝、予定通りに私はプクマ王宮へと向かう。
教会の馬車は3台で、王宮から馬車5台と騎士50人が護衛についた。
ゆっくりとメインロードを進みながら、「聖人ホワイト様~」と声を掛けてくれる沿道の人々に、馬車の窓から手を振って応える。
王宮で案内されたのは、豪華な会議室って感じの20人は座れる大きなテーブルが置かれた部屋だった。
もしも派手な出迎えとか、謁見の間で左右にずらりと貴族が並んで待っていたら、聖人様は絶対にお帰りになられますと、プクマ教会長が口頭と文章で注意しておいたらしい。
部屋の中に居たのは国王と王妃、王子3人と宰相と大臣が2人、王弟と息子の計10人が部屋の右側に並んで待っていた。
私と同行者である癒し能力のセント、プクマ教会の教会長と副教会長、護衛のアステカとスピカが入室すると、全員が最上級の礼をとった。
……国王も同じように礼をとっているので、セイント・ロードスが言っていたように、この国の王族は信心深く聖人を敬ってくれるようだ。
私は一番奥の上席に座ると皆の礼を解き、顔を隠していた白い聖布をとって後ろに控えているアステカに渡した。
まさかこんな子供が? とか、こんな少女が?って感じで驚かなかったってことは、いろいろ情報収集済ってことね。
そこから国王が列席者を上座から順に紹介し、名を呼ばれた者は起立して「お会いできて光栄です」とか「末代までの誉れです」とか言いながら頭を下げていく。
……う~ん、なんか凄く期待されてる感がバンバン伝わるんですけど?
昨夜、教会で行った会議で聞いたのは、王弟マルスはちょっと口が悪いけど民から人気があり新しもの好きの庶民派で、息子も優秀って情報だった。
国王と王子はごく普通で、元々この国の王族はのんびりしており、公爵や大臣の方が威張っていて評判が悪かった。王族の力は弱まりつつあるとのこと。
……なんと、タラト火山で会ったおじさんが民に人気の王弟? しかもその隣に座っている息子って、今年研究所に入所した新人君じゃん。とっても真面目に頑張っていたけど、まさか王族だったとは・・・
……ああ、私の王族・高位貴族嫌いは学都では有名だもんね。だから、研究員も各学校の学生も、私の前で絶対に身分を名乗らないわ。
「マシロ所長、あれから水を湯にすることができるようになりました。
2年からは総合学科に入り、卒業したらホワイティ商会に就職したいです。
私は次男だから、夢はこの国にホワイティ商会の支店を作って働くことです」
あのおじさんの次男だった新人君は、嬉しそうに自分の夢を語って笑顔を振りまいている。
公爵である宰相や大臣たちは、新人君の発言をフンっと鼻で笑っている。
あらあら、うちの可愛い新人君とホワイティ商会を、見下して笑っているってことかしら?
……よし、責任者はあの親子でいいわ。王国の王権が弱まるのは問題だし、この国のほのぼのしてるところは嫌いじゃないしね。
……これも何かの縁ってやつか。あのおじさん、嬉しそうにうちのルービック○ューブしてたもんなぁ。確かに口は悪かったけどね。
そこから私は、現在のプクマ王国の特産品なんかの話題を中心に話し、ギラギラと獲物を見るような視線を向けている宰相や大臣に、産業の発展についてどう思うかを訊いてみた。
王より威張っている感じの宰相は、たくさんの商会が出店してくれたら、税収も上がるし新しい商品も入るから、貴族は大歓迎するだろうと答えた。
……ダメじゃん。自分たちの力で産業を発展させる気なんて皆無じゃん。
会談後、予定通り学校や孤児院へと向かう。
私は自分の馬車に王弟親子を同乗させ、昨夜考えたブラックカイロの件を口外禁止と念を押して話していく。
王族はもっと力を付ける努力をし、産業を発展させ国を富ませなさいと聖人ぽく指示を出した。
新人君は感激し、絶対に王族主導で成功させますと誓ってくれた。
居心地悪そうにしていた王弟も、直ぐに下準備に入りますと言って深く頭を下げた。このおじさん、結構優秀だった。
孤児院が近付いたところで、これから向かう孤児院の現状を教えた。
間違っても善人である男爵を罰したり、一人娘が困るようなことはしないわよね?と脅……お願いして、白い聖布を被って馬車から降りた。
「これはこれは聖人様、ようこそおいでくださいました。私は病の伯父に代わりこの孤児院を運営しているロバロスといいます。
資金不足で修繕もままならないので、どうかお慈悲をお願いいたします」
男爵の甥は媚びた笑顔で挨拶し、初っ端から金を寄越せと願い出た。
孤児院の前庭には、買ったばかりの中古服を着た孤児たちが並んでいる。
剣を帯刀している騎士の姿に緊張しているけど、決意に燃える瞳を私に向け、本当にお姉ちゃんなの?って白い聖布に隠れた私の顔を凝視している。
「ねえみんな、ご飯は1日に何回食べてる?」
私は事前に決めていた質問をしながら、子供たちにだけ見えるよう聖布をチラリと捲った。
「ご飯は1日1回だけです」と、全員が悲しそうに答えて俯く。
……よしよし、練習の成果が出てるわね。
「まあ、それはいつからなの?」
「あの男が代理になってからです」と、一番年上の男の子が甥を指さし答えた。
「な、何という嘘を! 食事は3回、服だって昨日買ってやっただろう!」
男爵の甥は、答えた男の子の肩を慌てて掴み、子供全員を睨み付けた。
「違うよ、この服は昨日このお姉ちゃんが買ってくれたんだよ」
5歳のミーナちゃんが、私を指さしながら可愛い声で反論した。
「いったいどういうことだ? 補助金はきちんと渡しているのだろうな! もしも補助金に手を付けるような真似をすれば、爵位を剝奪するぞ!」
「お待ちください王弟マルス様。男爵様は不正どころか、身銭を切って孤児院を運営されていました。男爵様は悪くありません」
王弟マルスが、男爵の甥に厳しい視線を向け叱咤すると、ここぞとばかりに副院長が土下座し現状を涙ながらに訴えていく。
……よし完璧!
「違う! 全部嘘だ! このババアいい加減にしろ! 聖人様が服を買ったなんて嘘ですよね?」
「子は国の宝。私の寄付はお金じゃないって言いましたよね?」
騎士に取り押さえられ抵抗する男に向かって、私は聖布をとって微笑んだ。
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