51 正式発表
なんだか忙しいわ。
春季休暇中は再びタラト火山に行ってブラックガイを採掘し、聖地マーヤに帰ったら新しい孤児たちを受け入れて、溜まったホワイティ商会の仕事をこなし、高等大学の後期の予定を組んで・・・いつの間にか5月。
……ああ、休みが欲しい。
……日本人気質が、こんなところで自分の首を絞めてる。中身が還暦前だから、子供であることを忘れちゃうのよね。
「マシロちゃん、お休みは自分で掴み取らなきゃ降ってこないわよ。
研究所と各学校は午前中のみ週3日で充分よ。教会からお給料だって貰ってないでしょう? 商会の仕事は午後からにしたらいいと思うわ」
春季休暇中に一緒に聖地マーヤに移住してきた母様が、私の溜め息を聞いて体調を気遣ってくれる。
芸術持ちの母様は、私と一緒に教会音楽改革に取り組んでいる。
孤児院で聖歌隊を作って指導し、休日には大聖堂で新しい曲を披露し大好評を得ている。母様、毎日が充実して楽しいらしい。
父様は3月にオリエンテ商会の商会長を辞し、叔父に商会を譲って4月に新しく商会を立ち上げた。
名前は【ミヤナカ商会】。いやだって、マシロ商会にするって言うから根性で止めて、私の記憶にある家名の【ミヤナカ】を使うことで落ち着いた。
どんな親ばかだよって思ったけど、そんだけ愛されてるって思うと感謝しかないんだけど。
独立するにあたり父様は、私が立ち上げたアローエクリーム・芳香剤の製造販売と、ブラックガイ関連事業の販売権だけを持って商会を作った。
商業連合曰く、この3つの事業の売り上げを考えたら、商団スタートではなく商会にすべきだと特例を使って商会スタートにしてくれた。
父様の独立を聞いて、オリエンテ商会の商会員は2つに分かれた。
元々叔父の派閥だった者は、オリエンテ商会で地位を得て大満足らしい。
現在大きな利益を出している私関連の事業などなくても、オリエンテ商会には何の問題もないと自信満々だったとか。
……3年後も商会でいられたらいいわねって、母様が黒く微笑んでいた。私もそう思う。
父様派閥だった者の6割はそのまま首都シュメルに残り、アローエクリーム工場の近くの建物を購入して移動した。4割の者が聖地マーヤに引っ越してくる。
まあ職人さんたちは工房や工場があるから移動するのは難しいし、商業連合との約束で3年は本店を首都シュメルに置かねばならない。
聖地マーヤに来るメンバーの住居や商会の建物用に、どちらかというと高級部類に入る4階建てホテルの、3階と4階を全て借り上げた。
3階が商会部分で、4階が商会員の宿舎になる。ホテルの中に商会があるって近代的でしょう?
このホテルには、他所より早く試験的に固形燃料を安く販売していた縁もあり、大歓迎で貸してくれた。
ああ、あれからシュメル連合国の王族とは顔も合わせてない。
母様の話しでは、素直で優しいと噂の第三王子のサイス18歳が、今年聖マーヤ高等大学を受験するらしい。
あの第二王子は教会から破門されているから、聖地に来ることはできない。
5月後半、本教会は天聖ソワレ様の名で、聖人【マーヤ・リーデ】が顕現したと正式発表した。
まあ各学校や研究所の在学生や卒業生から報告は上がっていただろうが、正式発表があるまでは、何処の国も謁見と訪問依頼を出すことはできない決まりだ。
同時に発表されたのは、聖人ホワイトの公式訪問についてと、その順番とだいたいの時期についてだ。
私とあれこれあった国は後回しするのは当然で、まだ襲撃犯を捕らえていないマセール王国は、訪問日程未定と記載されている。
訪問順は、①プクマ王国 ②ヨンド共和国 ③ミレル帝国 ④ギョデク(貴族)共和国 ⑤シュメル連合国 ⑥マセール王国 となっている。
訪問する時期は、春期休暇と秋季休暇期間中である。
私にはブラックガイの採掘という他者に任せられない仕事があるので、タラト火山に行った後で訪問することになる。
また、聖人ホワイトによる講義の受講希望については、訪問時の対応や教会に対する貢献度合い等を考慮し、先んじて許可する場合もあると記載されていた。
訪問場所の候補として、孤児院・各学校・教会病院をあげておいた。そう書いておけば、孤児院や教会病院に対し寄付が増える可能性がある。
それから、国中の貴族を集めて歓迎晩餐会の開催とかパーティーは、精神衛生上宜しくないのでお断りすると注意書きもしておいた。
王子の売り込みとか勘弁してほしいし、根掘り葉掘り質問されるのは面倒臭い。
……ああ、気が重い。
そうだ、お忍び潜入プランとか、商人変装バージョンとかどうだろう?
教会の馬車にはセントを乗せてババーンと首都入りをしてもらい、私は2日早く潜入して視察する。
……うん、楽しそうだ。よ~し、気分が上がってきた。
諸国漫遊記を書くのもいいわね。
ん、ちょっと待って。
私って、転生したら小説を書こうって思ってなかった? 産業革命じゃなくて好きな小説を書くんじゃなかったっけ?
いつの間にか、商人と聖人の運命に引っ張られてた・・・
そう言えばシュメル連合国でも聖地でも、ファンタジー系の小説とか、貴族令嬢ざまあとかは見掛けてないなぁ。
ラブロマンス系はあるけど、行儀見習いに行った下級貴族令嬢が、高位貴族の子息に求婚されるってくらい。
成り上がりものだって、爵位を継げない貴族家の3男が商売をして成功するって話くらい。
多いのは、王族の実話を元にした国王の偉業を伝える感じのストーリー。
圧倒的に女性が主人公の小説が少ない。平民が主役なんて皆無に近い。
……フッフッフ。何処の国が題材を提供してくれるかしら。楽しみ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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