45 使節団(1)
◇◇ マセール王国 第三皇子イツキノ ◇◇
信じられない。
聖マーヤ高等大学を卒業した者は、毎年最低でも7人は役人になり、3人は王立貴族学園の教師として就職するというのに、今年の希望者はたったの2人だと?
しかも原初能力研究所に至っては、専門研究所への就職希望者が1人だなんて、いったい何の冗談だ?
確かに国費留学させている訳ではないから、国に就職せよと命令することはできない。だが、最も人気の高い就職先だったはずだ。
「総務大臣、いったいどういうことなのだ? 聖地マーヤから戻ってきたのは爵位を継ぐ嫡男3人だけで、それ以外は卒業できなかったのか?」
貴族学園の教師が足らないから、高等大学を卒業した役人の中から、数人を移動させて欲しいと学園長に頼まれ、どういうことかと総務大臣を呼び出して訊いた。
「いいえイツキノ様。専門研究員の試験を受けた者の話では、ホワイティ商会に皆が就職を希望し、商会の試験に受からなかった者は、高等大学に自ら残ったり、研究所の主任研究員になったそうです」
こんなことは初めてで、総務部でも驚いているのだと大臣は言う。
幹部役人の補充ができなくて、王宮でも困っていると溜息まで吐いた。
「ホワイティ商会?」
確か固形燃料を発売した新しい商会で、商会長の名前はマシロ・オリエンテだったと記憶している。
その名を聞くと、どうしても最愛の娘のことを思い出してしまう。
娘ミリアーノが行方不明になって3年が経過した頃、本教会から娘に関する情報が来た。
年齢や髪の色、背格好までは一致していたが、瞳はアメジストではなかった。
瞳の色が変わるなんて事例は聞いたことがなかったから、私はそのマシロ・オリエンテという少女に会って確認しなかった。
ミリアーノが行方不明になって10年が過ぎ、王族法で死亡扱いとされ、7月に王族籍から抜けてしまった。
誰が見ても原初能力持ちだと分かる外見をしていた娘は、6歳と12歳の時に行う教会の能力選別でも発見できなかった。
分かっている。分かってはいるが諦めることなんてできない。
……ミリアーノ、何処に居るんだ? パパはここに居るぞ。
貴族学園の教師不足をどうしたものかと思案していると、国王である父上から呼び出しがきた。
「イツキノ、本教会の天聖ソワレ様から、とんでもない書状が届いた。
前にミリアーノではないかと情報提供された娘が、我が国の貴族が雇った殺し屋30人に襲撃された。
その殺し屋たちは、マシロ・オリエンテの遺体を持ち帰るよう依頼されたらしい。依頼したとされる貴族は、現在教会で投獄されている」
落ち着いた調度品の執務室の、お気に入りの肘掛け椅子に座って、父上は天聖様から届いた書状を見て深く息を吐いた。
……少女の遺体を持ち帰る依頼? どうしてうちの貴族が?
渡された書状をよく見ると、その少女が最初に襲撃されたのは、本教会が我が国に情報提供して間もなくのことだったと書いてある。
「えっ、あの時の娘がソードメイル? 教会の保護対象になっていたのですか? しかも【創造】と【空間】?」
書状の後半に驚きの内容が書いてあり、私は思わず叫びそうになった。
行方不明になった妻アヤカは【空間】持ちで、私は【創造】持ちだ・・・
まだ教会の選別は受けていなかったが、ミリアーノの髪と瞳は明らかに【空間】持ちの特徴を表していた。
シュメル連合国に【空間】持ちの貴族は居ない。
【空間】持ちが居るのは、我が国とミレル帝国だけだが、ミレル帝国には【創造】持ちは居ない。
……これは、これはどういうことだ?
「イツキノ、そのマシロ・オリエンテは、昨年、原初能力学園に入学している。
我が国からは、バラス公爵の子息とレルス公爵の息女が入学している。
バラス家のガインは、その少女を見てミリアーノに似ていたと言い、レルス家のサーシャは、その少女はお前によく似ていたと言っていたらしい」
その少女が聖地マーヤに戻る途中で襲撃されたのは、ガインとサーシャが春季休暇で帰った時、ミリアーノに似た少女が居たと方々で言い回ったことが原因かもしれないと、父上は頭を抱えながら言った。
「ほ、本当ですか父上! なんてことだ。それじゃあマシロ・オリエンテは、私の娘だと思われて襲撃されているのですか?」
思わず椅子から立ち上がり、再び書状を見て手が震え始める。
……何故ガインたちの話は、私の耳に届いていないんだ?
……何故ミリアーノを、王族であるミリアーノを殺そうとする者がいるんだ? 遺体を持ち帰るって、ミリアーノの遺体ってことか?
「しかもその娘は、教会騎士団が護衛についていた時に襲撃されている。
襲撃を指示したとされる我が国の下級貴族は、教会に対し反旗を翻したことになる。
天聖ソワレ様は、マセール王国はマーヤ教会との対立を画策し、全ての恩恵を放棄して破門を望むのかとお怒りだ」
父上の声は、次第に怒りを孕んで低くなった。
教会騎士団を襲撃するなんて蛮行、常識では考えられないし、気が狂っているとしか思えない。
呼吸が乱れて書状の文字がぼやけるが、なんとか意識を集中して見ると、襲撃者の中に【炎】と【動力】持ちの者が居たと書いてあった。
……原初能力まで使って、ミリアーノと思われる少女を殺そうとしたのか?
……そうであるなら犯人は、教会だけでなく王族、いや、この私に喧嘩を売っているということだ。
【 よってマセール国王に、真の首謀者を捕らえ、引き渡すよう要求する 】
最後の一行を見て、大変なことになったと思う気持ちと、本当にミリアーノなのかもしれないという希望と、犯人を許せないという怒りの感情が渦巻いていく。
「王様、使節団の一人として、私を聖地に行かせてください」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
16日までお盆休みをいただきますので、次の投稿は17日㈯になります。




