44 商会の拡大
7月、無事に高等大学の卒業試験に合格し、最年少で卒業した。
卒業と同時に、高等大学の名誉教授なるものを押し付けら……ゴホン、任命されてしまった。忙しいんだけど?
8月1日、うちの商会の採用試験を実施した。
例年なら高等大学の卒業生は、自国の宮廷の役人や教師になり、研究所の卒業生は、自国の原初能力部署に就職する。
だが今年は、多くの卒業生がホワイティ商会の採用試験を受けた。
……新しいことに挑戦したいと望む者が半数、高給に釣られた者が半数だ。
研究所では、大量辞職した教授や部長の席を半分埋める必要があり、有能な部長を5人教授に昇格し、卒業せずに残った主任研究員の内5人を部長に任名した。
また、主任研究員の試験を受け合格した6人を2年枠で、4人を1年枠で採用し毎月研究費を支給する。
……ハーッ、次から次へと仕事が湧いてくる。
8月15日、研究所の卒業式が行われた。
まだ学びたいと卒業したがらない研究員に泣きつかれたけど、お願いだから卒業して。うるうるした瞳で見てもダメ。
21日は入学試験だったけど、私は一切関わっていない。
ホワイティ商会は、新しく【建設部門】と【燃料部門】と【収納部門】を設立することになったので大忙しだ。
その手続きやら資材置き場やら事務所の確保なんかは、首都シュメルから一緒にやって来たアレン副商会長に丸投げした。
忙し過ぎて過労死すると訴えられたので、事務職員として10人、営業として5人を高等大学の卒業生から採用し、ホワイティ商会本店は大所帯になった。
当面の人手不足を補う裏技で、卒業式の翌日から10日間事務仕事を手伝えば、特別手当として1日8,000トール支払うと言ったら、全員が居残りしてくれた。
【建設部門】では、ホワイティ商会への就職を目指し、孤児院と工場の建設に挑戦した4チーム16人を全員採用した。
半分の8人は卒業年度ではなかったけど、優秀な研究員には早期卒業を認めると公言していたので、教授会議でしっかり裁定し卒業を認めた。
……フフ、優秀な人材は逃がさないわよ。孤児院も工場も建設途中だしね。
【創造部門】にシュバル君他2名、【収納部門】にリドム君他2名、【燃料部門】には主任研究員だった3人を採用した。
極貧だった炎持ちのレイラさんは、【秘書部門】で採用した。
忙し過ぎる私のスケジュール管理をしてねと微笑んだら、「マ、マシロ様の秘書?」と言って2分固まり、頬を思いっ切りつねって大号泣を始めた。
彼女は私の信奉者だけど、彼女が秘書なら襲撃者に遭遇した時、炎の攻撃が使えるから生存率が上がりますよと勧めたのは、セイント・ロードスだ。
人に対し原初能力使用で攻撃が許されているのは、大陸法で決められた教会騎士、各国の王または皇太子の騎士だけである。
……能力持ちの多い国に、簡単に征服されちゃ敵わないもんね。
……聖人の秘書になるレイラは、教会騎士扱いになるらしい。
首都シュメルの支店では、事務職員3人と営業2人をシュメル上位学校から採用している。
どんどん事業拡大していくホワイティ商会は、まだまだ人材不足だ。
でも、私の身の安全が優先されるので、採用条件には能力だけでなく背後関係の調査が加わる。
特に、マセール王国出身者の採用には、教会の調査が必須だ。
さあ、秋季休暇だ。
8月末、秘書のレイラ24歳(マセール王国・男爵家出身)と、空間持ちでマジックバッグの作成に成功したリドム27歳(ミレル帝国・準貴族家出身)を連れ、いつものメンバーと一緒にシュメル連合国に戻る。
2人とも極貧下級貴族家の出身だから、卒業後すぐに就職してくれた。
実家に3日間滞在し、シュメル支店での仕事をこなす。
私は今現在、シュメル連合国の貴族に対し、固形燃料の販売を禁じている。
もしも私の許可なく王宮に納品したら、販売権を剝奪するとオリエンテ商会と商業連合に言い渡してある。
それでも様々な手段を使って、固形燃料を手に入れていることは想像できる。
貴族以外の者が購入した固形燃料を転売させたり、王宮に出入りしている業者に命じて手に入れればいいのだ。
10月から倍の値段で王宮や貴族にも販売を開始するけど、大陸的に絶対数が足りてないから、余分な数の販売なんかしない。
国王の親友であった父様や、王妃と従妹である母様が、辛い立場にいることは分かっているけど、聖人としてこの国の王族を許せない。
私はこの春、教会を通じて生活困窮家族にブラックカイロを配布した。
何故かそのブラックカイロが、3日後には王族の手に5個渡っていたと、セイント・ルビネスから報告を受けている。
強引に取り上げたのか、お金に困った配布者が売ったのかは分からないけど、生活困窮者に与えたモノを手に入れ、平気で使用できる性根が理解できない。
「私の思考が時代に合ってないんだろうな。ごめんね父様、母様」
私の13歳の誕生日を祝う会の後、家族3人でお茶を飲んでいる時に王族の話になり、私は養父母に謝った。
「いや、マシロは聖人だ。国王より尊いマシロが気にすることじゃない。
私たちは、この国を捨てオリエンテ商会を他国に移しても構わないんだ。
いや、いっそのことオリエンテ商会を弟に任せればいい」
驚いたことに、父様はオリエンテ商会の商会長の座を降りてもいいと言い出した。しかも全然辛そうじゃない。
母様も同じ意見だって言いながら、私を優しく抱きしめてくれる。
「だってマシロちゃん、今ではオリエンテ商会よりホワイティ商会の方が格上なのよ。マシロちゃんと一緒の方が楽しそうだし、母様も聖地で暮らしたいわ」
てなことを言われましたが、もう暫く待っていてねと母様に伝え、父様には燃料部門だけ持って独立する方法もあるわと伝えた。
……さあ、タラト火山に行くわよ! 掘って掘って掘りまくらなきゃ!
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