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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
大寒波襲来

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37 襲撃(1)

「マシロ、絶対に馬車から出るな!」


 父様は厳しい表情でそう言うと、剣を持って馬車から飛び出した。 


 今回の移動にあたり、教会が用意してくれた護衛は8人で、それとは別にアステカは私の乗っている馬車の御者台に居て、スピカは商会員の馬車の御者台で睨みを利かせていた。

 養父母も一緒だから、オリエンテ商会の護衛リーダーと護衛班5人も馬に乗って同行している。


「マシロ様、敵の半分は訓練された傭兵で、狙いは商会長夫妻ではなく、マシロ様だと思われます。

 敵の数は30人を超えていますが、必ずお守りしますので暫くお待ちください」


「子供を殺せー!」という声が響く中、私専属の護衛騎士であるスピカが、扉の前を死守しながら緊張した声で告げる。


 ……また私? なんでそんなに私を殺したいんだろう? 同じ犯人なら、いい加減にしないとキレるわよ。


 教会騎士は、各国の騎士より強いと言われているし、オリエンテ商会の護衛も最強なんだけど、倍の数に苦戦しているのか、なかなか剣のぶつかる音が止まない。

 母様はこういうことに慣れていないようで、私を抱き締める手が震えている。


 ……どうして私の行動を知っているんだろう? もしかして、9割が貴族家出身の原初能力研究所で、派手に顔を売ったから?



 考えてみれば、この大陸で一番多くの原初能力持ちを抱えているのはマセール王国だ。しかも今回は、マセール王国の公爵家の子女と同じ寮で暮らしてる。

 バラス公爵家のガインは叔母が王太子妃で、初めて会った時に私を見て「王孫の・・・」と呟いていた。


 ……忙しくて視界に入れてなかったけど、あれは、3歳の頃の私を知っている感じだった。


 私が本当に行方不明の第3皇子の娘だとしたら、王族を殺したい者が居るってことだ。これだから王族や高位貴族は信用できない。

 教会が情報を漏らしたのは、妻と娘を真剣に探しているらしい第3皇子と、行方不明になっている夫人の実家である、【空間】持ちのアーレン公爵家だ。


 マセール王国の法律では、王族の子供が行方不明になった場合、10年が経過すると死亡扱いになる。

 私が保護されてから、もう少しで10年になる。ほっといてくれたらいいのに、なんでそこまで殺したいんだろう?



 突然ガシャーンと音がして馬車の窓が割れ、私の足元に手のひらサイズの石が転がる。

 

「何が何でも子供を殺せ! 死体を持ち帰るんだ!」と大きな声がした。


 ……はあ? 死体を持ち帰る? 生きてちゃダメなの?


 真っ青な顔をして動けない母様を庇うように立ち、次の攻撃に備えて窓の外を睨む。

 すると今度は、槍を投げ込もうとしている男が見えたから、咄嗟に空間収納から大鍋の蓋を取り出し、割れた窓を塞ぐように両手を突き出した。


 ……あの距離から? 敵の中に風か動力の原初能力持ちがいるわ。


 ゴンと槍が当たる音がして、矢じりが木製の鍋蓋を少し突き抜けたけど、気にしてる暇なんてない。

 ちらりと鍋蓋の向こうを覗くと、今度は火矢を構えている男が見えた。


「母様、逃げるわよ!」と叫んで、私は母様の腕を掴むと、強引に馬車の外に引きずり出していく。 

 外に出ると、スピカが負傷しながら大男と対峙しており、ぱっと見た全体の形勢は五分五分だった。


 ……狙いは私。死体でもいいくらいに執着してるんなら、この場をなんとかするには私が動くしかない。このままじゃ、母様もスピカも危ない。



 そう思ったら、もう体が勝手に動いて走り始めていた。

 ちょっと大き目のポンチョを翻しながら、全速力で走る。


「ガキが逃げたぞ追えー! 捕まえたらそのまま逃げるぞー!」


 どうやらリーダーはスピカと戦っていた男みたいで、大声で仲間に命令を出す。


「マシロさまー!」とアステカとスピカの悲痛な絶叫が聞こえるけど、振り向く余裕なんてない。

 この冬、私は寒さ対策も兼ねて体を鍛えた。この体、驚くほど運動神経が良かった。それでも大人の足から逃げきれるとは思わない。


 前方に見える立派な大樹を目指して、とにかく死に物狂いで走る。

 途中で体の直ぐ側を矢が通り過ぎ、槍が飛んでいくけど構っちゃいられない。

 なんとか大樹に辿り着き、反対側に身を隠すように回り込んだ私は、目を瞑って意識を集中する。


「テレポート!」



 目を開けると、そこは我が家の家紋入り馬車の中だった。


 ……た、助かったー!

 ……よっしゃー、今回()成功したぞー!


 思わずガッツポーズして、深く息を吐いて呼吸を整える。

 音をたてないよう、両側の窓から外の様子をそっと確認する。

 動ける敵は、全員が私を追って大樹に向かったようで、残っているのは死者と重傷者だけだった。


 教会の護衛やアステカは、私を追って大樹の前で敵と対戦している。

 オリエンテ商会の護衛は、足を負傷した父様と無傷の母様、うちの商会員を守るため残っていて、護衛リーダーのバラモンさんは、ケガ人の応急手当をしていた。


 ……良かった。母様も父様も生きてる。



 私は負傷してうずくまっているスピカと、涙を滂沱と流しながら座り込み、大樹の方を見ている母様にそっと声を掛ける。

 驚いて振り向く2人に「静かに」って声を掛け、馬車の中に引きずり込んだ。

 2人を座らせてから外に出て、即座に馬車の御者台に座る。

 少しだけ馬を走らせ父様の所まで進むと、一気に勝負に出た。


「バラモンさん、父様を中へ! 御者をお願い!」


 御者台から指示を出す私に気付くと、何故ここにいる?って驚いたけど、私が無事だと分かると嬉しそうに頷き、直ぐに行動を開始する。


 馬車に乗り込んだ私は空間収納からハンドベルを取り出し、走り始めた馬車の窓から右手を出して、カランカランと大きく何度も鳴らす。

 

 ……この特殊な音が聞こえたら、きっとアステカは私が無事だと気付いてくれる。   

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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