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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
大寒波襲来

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36 女神の慈悲

 タラト火山から帰った私は、シュメル教会にメインメンバーを集めた。

 教会からセイント・ルビネス他3名、商業連合からワイズ支店長他3名、オリエンテ商会から父様他3名、うちの商会は私とアレン副商会長だ。


 先ずは、ブラックガイを知らない皆さんに、【固形燃料】【ブラックカイロ】【卓上コンロ】について説明する。

 卓上コンロに固形燃料をセットし、鍋を置いたら水を注いでいく。

 そして固形燃料に火を点けると、全員から「何だこれは―!」と驚きの声が上がり、信じられないという驚愕の視線が私に向けられた。


 皆の視線をスルーして、私は沸き立った湯の中にブラックカイロを投入する。

 呆然と私の作業を見ている皆は、目の前で起きていることに頭がついてこないようで、ユラユラ揺れる炎を見ながら無言だ。


 投入したブラックカイロは13個。

 いい感じで熱々になったところでトングを使って取り出し、軽く水を拭きとってから用意していた布袋に入れて全員に渡す。


「オォーッ! 温かい」と、暖房のない部屋に居た全員が、嬉しそうにカイロを握ったり頬に当てたりして温もりを満喫する。


「マシロ、またなんて凄いモノを作ったんだ! この燃える黒いモノが薪に替わる新しい燃料なのか? 時代が、いや、世界が変わるぞこりゃ!」


 父様は、固形燃料の価値と需要を瞬時に理解し、瞳を輝かせてウーンと唸る。


「この温もりはどのくらい持続するのでしょうかマシロ様? 外で奉仕する神父たちに持たせたら、凍えて倒れることがなくなるかもしれません。

 民が手にできれば、凍死者や凍えて眠れない夜を減らすことができると思います。でも、高額なのでしょうね・・・」


 セイント・ルビネスは既に涙目だ。

 きっとこの冬、部下と一緒に懸命に民を助けようとしたと思うし、その活動は部下の命をも危険に曝したに違いない。

 教会の隣には教会病院があるから、教会は民の為に病院の燃料を優先し、自分たちは凍えながら過ごしていた可能性が高い。


「いや、副支店長から報告は受けていましたが、これは、これは革命ですマシロ様。何処の国でも薪の備蓄は底をついています。

 商業連合は、現在王宮にさえ薪を納入できない状態ですから、これが世に出たら、王族や貴族が買い占めそうですね」


「フッ、支店長、私は、いえ、ホワイティ商会は、製造が安定する8月末まで、ブラックガイ製品に限り貴族には販売いたしません。

 これからホワイティ商会は、民のための商会として名を上げる予定です。

 ですから、9月から貴族に販売する時は、平民に売る倍の価格に設定します。

 高いと文句を言うような王族や貴族には、無理に売る必要もありません」


 そんなことはできない……と言いたげなワイズ支店長だけど、私に文句を言うと販売権が無くなってしまうことを恐れてか、「しかし……」と言い掛けて口をつぐんだ。

 父様も渋い顔をしているが、ブラックガイ製品が生み出す膨大な利益を考えて、同じように口をつぐむ。


「流石マシロさまです。王族と貴族は、この冬は厳冬になるという神のお告げを知っていました。

 ()()()、民には知らせず自分たちの燃料()()()用意したみたいですから、尊いマシロさまのお考えに、文句なんて言えないはずです」 


 セイント・ルビネスは納得したように頷き、部下3人は跪いて私に頭を下げる。

 私が【マーヤ・リー】だと知っている者は、ますます何も言えなくなる。

 


「シュメル教会には、明日から10日間、朝・夕・晩の3回、このセットを使って湯を沸かして貰います。

 ホワイティ商会の商会主である私は、現時点で教会が支援している困窮家庭に対し、1個5千トールのブラックカイロを1つ無料で配布いたします。

 その選別と配布は教会にお願いしたいと思います。限定150個です」


「あぁ、女神のごとき慈悲を・・・」

 

 セイント・ルビネスはそう言って跪き、神父3人は平伏した。

 私が【マーヤ・リー】であると知らない者は、王さえも礼を尽くすセイントが何故?って首を捻る。


「こ、このブラックカイロは、熱湯で温めると3時間は熱が持続します。

 商業連合とオリエンテ商会には、薪が無くなり湯も沸かせない民を救うため、教会中庭で昼と夜の炊き出し協力をお願いします。材料費は私が出します。

 協力いただけるなら、この10時間燃える3,000トールの固形燃料を、見本として4個差し上げます。


 教会病院には特別に、ブラックカイロの拳大の(小)を4千トールで、その倍の(中)を8千トールで各10個だけお値引販売します。

 またホワイティ商会は、教会に2万トールの(特大)2個を寄付いたします。

 ああ、皆さんにお配りしたブラックカイロは、協力に対するお礼です」


「ブラックカイロの販売は、どこがするんだマシロ?」


「父様、ブラックカイロの販売はホワイティ商会が独占し、今後も一般販売はしないつもりです。

 だって、固形燃料を作る方が優先だし、元々販売する予定じゃなかったんだよ」


 固形燃料は聖地マーヤで製造するから、首都シュメルで販売できるのは6月末くらいになるだろうと、今後の予定も告げておく。

 残念そうにしてるけど、見本であげた固形燃料は、うちの商会員と私が徹夜で作った分だから。


 その日の午後と夕べの祈りの時間、明日の昼と夕方、ホワイティ商会が弱者のために教会でスープの炊き出しを行うと、セイント・ルビネスが民に発表した。

 



 翌日、多くの困窮した民が教会に集まった。


 もしも王宮関係者が様子を見にきたら、完全無視するよう言ってある。

 そして、無償の炊き出しも、配布されるブラックカイロも、全てはホワイティ商会の慈悲なのだと言ってもらう。


 どう見ても困窮していない者には、スープ1杯1,000トールで販売する。

 文句を言おうものなら、教会騎士の制服を着た者たちが現れ、「女神のご意思に逆らい、破門になりたいのか?」と脅しをかけていた。


 ……女神?


 


 翌早朝、今後の打ち合わせと家族団らんのため、私は父様と母様と一緒に学都に戻る馬車に乗り込んだ。


 ……王宮からの呼び出しが来る前に、首都を脱出しなきゃね。


 聖地マーヤまであと半日という宿場町の手前で、馬車が突然止まった。

 そして直ぐに、争うような声と剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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