33 救世主マシロ
◇◇ 研究員 シュバル23歳 ◇◇
とうとう残金が500トールになってしまった。一番安い学食が150トール・・・
2月末には仕送りが届くはずだったけど、貧乏子爵である父から届いたのは、薪の高騰で仕送りはできないという非情な手紙だった。
俺は親から、上位学校卒業後は役人として働くよう言われていたのに、原初能力研究所に進学した。だから、親を責めることはできない。
俺の能力【創造】は、たいして金にならない能力だと知っていたが、それでもこの能力を活かしたい、活かせる職場に就職したいと思ったのだ。
だが、期待を胸に入所した研究所では、【創造】持ちの地位は低くかった。
研究室は3つあったが、どの研究室の教授もヤル気がなく、これといった学びが与えられないまま3年が過ぎてしまった。
5年で卒業するには、何か成果を出さなければならないのに・・・は~っ。
そんな時、元高等大学の教授が、天体望遠鏡なるものを持って帰ってきた。
同じ創造研究室の仲間と一緒に、その天体望遠鏡を見に行った俺は大きな衝撃を受けた。
なんと、この素晴らしいものを作ったのが、僅か11歳の【創造】持ちの少女だというのだ。しかも同じシュメル連合国の者だ。
絶対に無理だと言われていた天体観測を可能にした少女は、数年前に研究所が購入した新型ルーペも作っていたと聞き、衝撃のあまり俺は神に祈った。
「どうかお願いです。神の頭脳を持つマシロ・オリエンテ様に、一度でいいから会わせてください」と。
毎日の神への祈りが届いたのか、昨年の10月、マシロ様が聖地マーヤの学都に、高等大学の学生兼臨時講師としてやってこられた。
マシロ様の功績を知らない研究員や教授たちは、許せないとか身の程知らずと憤ったけど、身の程知らずはお前たちの方だと、俺と仲間は大いに怒った。
その結果がまた衝撃というか当たり前というか、いや違う。あれは神業だった。
マシロ様は、あのネスラー所長を異質な【空間】能力であっさり捻じ伏せた。
しかも、【創造】持ちの我らに新型天体望遠鏡を下賜された。
俺と仲間は、今では【次世代技術研究室】と【次世代能力研究室】に移動し、【ソードメイル】であるマシロ様の指導を受けている。
……ああ、神よ、感謝いたします。
あの演習場での検証という名のネスラー所長との対決以来、俺の人生はマシロ様によって身も心も新しい色に塗り替えられた。
その独特で心惹かれる楽しい講義には、他の研究室の部長や主席研究員まで見学に訪れ、これまでとは違う価値観にすっかり魅了されている。
……天体望遠鏡は精度を上げることに成功し、湯たんぽ作りには心が躍った。
ブラックガイという石の特性を活かし、薪不足解消に役立つ方法を考え出し、凍える学生の為にブラックカイロを販売された。
マシロ様の頭の中は、どうなっているのだろう?
もっと学びたい。もっとマシロ様の御傍で新たな知識を授かりたい。
……なのに、もう金がない。家に帰る金さえ残っていない。
……仲間もみな同じような境遇で、金を借りることもできない。
……もしも【炎】や【水】が使えれば……いや、そうじゃないと首を振る。
朝食は学費に含まれていて良かった。仲間も同じ気持ちなのか噛み締めながらパンを食べている。
今日こそは、何が何でもバイトを見付けよう。病人の世話でも構わない。
隣を見ると、同じ【次世代能力研究室】に所属している、【空間】持ちのリドム先輩27歳が、悲壮感を漂わせながらパンを半分ポケットに入れていた。
「生き残らねば、私はまだ【空間収納】を覚えていない」と呟きながら。
彼は身分差別の激しい、ミレル帝国の準貴族の長男だ。
貴族位は世襲できないから、家族と自分の未来の為、死に物狂いで学んでいる。
【空間収納】が使えるようになれば、就職先は選び放題になるだろう。
彼は私と同じマシロ様信者で、夢はホワイティ商会に就職することだと、一緒に湯たんぽを作りながら語り合った。
「リドム先輩、一緒にホワイティ商会の研究費を狙いましょう!」
「そうだなシュバル。マシロ様に認めてもらえる研究テーマを考えよう!」
「はい、ホワイティ商会に就職するため、死に物狂いで考えましょう!」
アメジストの瞳に涙を浮かべたリドム先輩は、俺の右手を取りギュッと力を入れた。俺も先輩の手を強く握り返し、共に頑張ろうと気合を入れた。
「はーい、みんなよく聞いてね」と、突然食堂内にマシロ様の美しい声が響いた。
「先日、【ブラック固形燃料】という薪を使わない新しい燃料の製造に成功しました。これがその製品です。興味のある人は前に集まってねー」
……なんと、マシロ様はまた、この世にない新製品を生み出された!
誰よりも早くマシロ様のいらっしゃる配膳台まで走って行く。
後ろからグイグイ押されるけど、最前列は誰にも譲れない。
「さあ、火を点けるわよ」
マシロ様はそう仰って、掌に乗る大きさの黒い固形物に火を点けられた。
すると、ゆらゆらと揺れながら炎が上がり、黒い固形物は燃え続けた。
「オオォーッ! また時代が前進したぞー!」と歓声が上がる。
……あぁ、また奇跡の瞬間に立ち会うことができた。
「それでね、この固形燃料を薪の代わりにして煮炊きするには、こういう【卓上コンロ】というモノもが必要なの。
固形燃料と一緒に考案したんだけど、どう? 時給800トールで、放課後1時間から3時間だけホワイティ商会で働いてみない?
仕送りが途絶えた高等大学の学生と、此処の研究員を優先して雇うわ」
あろうことか俺は、マシロ様の御前で、嬉し過ぎて泣き崩れてしまった。
誰かが「あぁ、救世主さま」と涙声で呟き、俺の隣でリドム先輩も泣いていた。
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