32 卓上コンロ
固形燃料が完成した翌日、私は本教会のセイント、セント、経理部門責任者、商業連合の2人を自分の研究室に呼んで、燃焼実験をしてみせた。
教会のメンバーは感動のあまり私を拝み始め、経理責任者が「あぁ、マーヤ・リー様」と言って私の前で跪いたので、商業連合の2人に私のもう一つの正体がバレた。
……まあ、いつかはバレちゃうと思ってたからいいんだけど、うちの創造部門の3人にもバレて顔面蒼白にしてしまった。ハハハ。
今回は、主原料が私にしか調達できないし、製造方法は秘匿したいので、商業連合には聖地マーヤに工場を建設してもらい、本教会には土地を提供してもらう。
本教会には、純利益の1割を振り分け、商業連合には販売権を与える。
特許権は、私個人とホワイティ商会とで半分ずつにする。
工場建設をタダで?って思うかもしれないけど、固形燃料は間違いなく莫大な利益を産む。
この冬、備蓄してある薪は、どこの国でも確実に底をつく。
だから商業連合は、工場建設費を出してでも販売権が欲しいはずだ。
だって無理に商業連合と組まなくても、私にはオリエンテ商会がついてるから。
……この大陸では、まだ石炭とかガスを見たことがないんだよね。
「それでは、販売権は全て商業連合に頂けるのでしょうか?」
キラキラした瞳でヤローナ副支店長が、前のめりで訊いてくる。
「ごめん、全部は無理。たまには父様に恩返ししなきゃいけないから、商業連合は一般家庭用(小)と店舗用(大)の販売権を、オリエンテ商会には一般家庭用(中)の販売権を差し上げます。
ただし、聖地マーヤでの販売はホワイティ商会が独占します」
悔しそうなヤローナ副支店長だけど、隣にいるマーリエさんは直ぐに「ありがとうございます」と極上の笑顔で頭を下げた。
販売価格は薪より少しお高めだけど、燃料がなければ煮炊きができない。
冬場の暖房は薪ストーブで、現状では煮炊きできる作りになっていない。
そこまで手を伸ばす余裕はないから、研究室の研究員に課題として改善案を出させるのもアリだ。
……次の冬は少しでも凍死者を減らしたい。いや、既にこの春の薪が残っているかどうかってくらいに、この冬の寒さは異常だ。
これからのことをいろいろ相談したいけど、マーヤ教会で【天聖】と呼ばれている神の代弁者である【マーヤ・リーレス】は、現在行方不明だ。
セイント・ロードスによると、数年に1回の割合で神の元へ導かれ不在になるらしい。期間は短くても2か月で、長ければ半年になることもあるらしい。
私が本教会に来るのを楽しみにしていたけど、到着の8日前に忽然と姿を消されましたって説明してくれたけど、それでいいの?
きっと宇宙船がお迎えに来たんだろうな・・・深く考えるのは止めよう。
【マーヤ・リーレス】は、ソワレさんという82歳のお婆ちゃんらしい。
ホワイトオパールのオッドアイで、髪は純白だって。
……ソワレお婆ちゃんが帰ってきたら、私は正式に【マーヤ・リー】に任命されてしまう。早く帰って欲しいような、ゆっくりでいいような……悩む。
「工場の労働力は、各地の教会孤児院から集めます。
10歳から18歳までの男子40人女子30人を、4月末までに手配してください。
工場の隣に私が新しく【マシロ孤児院】を建設し、孤児院の中に基本学校を併設し、半日工場で働き、半日は勉強をさせます。
10歳から12歳の子の仕事は、簡単な箱詰めや家事労働になります」
実は私、燃料不足で木材が高騰することを見越して、オリエンテ商会経由で大量に木材を買い付けてある。支払いはアローエクリームの特許料だ。
本当はホワイティ商会本店と倉庫をババーンて建設するつもりだったんだけど、店は今の場所の方が都合がいいし、倉庫は空間収納があるから大丈夫。
「な、なんと、マシロさまは孤児に、孤児に仕事を与えてくださるのですか?
教会に利益をお分けくださるのに、こ、孤児院まで、あぁ、なんと慈悲深い」
この経理責任者さん、本当に大袈裟だって。ワーッ、跪かないで!
……ちょっと、なんでうちの3人まで泣くのよ!
……セイント・ロードスまで、やめて! 半分は青田買いなのに。
ハアハア、お茶を飲んで仕切り直しだ。まだ重要事項が残っている。
固形燃料の販売名は【ブラック固形燃料】と決まったが、問題は卓上コンロが必要になることだ。カマドじゃ炎が届かない。
製品そのものは、まあ簡単な消火装置の付いたモノから、組み立て式の簡易コンロまで既に設計図は描いてある。製作はさほど難しくない。
「こちらの製造は、固形燃料と同じように、小型と大型を商業連合に、中型をオリエンテ商会にお願いします。
また、聖マーヤ内で販売するモノは、生活に困窮している高等大学・医学学校の学生と、原初能力研究所の研究員に作ってもらいます。
もちろん販売は、ホワイティ商会に限定します」
私は自分が描いた図面を見せながら、商業連合の2人に説明していく。
ここのところ活躍している【炎】【火】【水】持ち以外の学生や研究員から、自分たちにも何か仕事をって涙目で訴えられたんだよね。
ここまで雪が深いと、実家から物資や金銭の仕送りが届かないらしく、食費にも事欠く有り様で困窮していた。
話し合い後、商業連合も本教会も直ぐに動き始めた。
この大雪の中でも重要書類を届けてくれる、原初能力を駆使した特急郵便を使って、私は諸々の書類を父様へと送った。
……さあ、明日は各学校の食堂に行って、アルバイトの募集をかけよう。
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