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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
聖地からの使い

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30 ホワイティ商会(3)

 次に子供たちを引き連れてきたのは、先日作っておいてねと頼んだ次世代能力研究室だ。

 本来、此処は【空間】持ちの人が空間収納について学ぶ研究室のはずだったんだけど、何故か他の能力持ちの研究員も所属している。

 原初能力研究所では、研究員は最大2つの研究室に所属できる決まりらしい。


 ……いろんな研究室から偵察として送り込まれた研究員もいれば、次世代能力という言葉に惹かれて本当に移動してきた研究員もいる。


 私は現在、この研究室の客員講師という扱いで、代表教授は決まっていない。

 私が来年、高等大学の卒業試験に合格したら、教授として正式に責任者に就任して欲しいとセイント・ロードスに頼まれた。

 まあ確かに、ホワイティ商会の本店は聖地マーヤになったから、この場所に居ることは増えるけど、実家にも時々帰りたいのよ私。


 ……いや、私の本業はホワイティ商会の商会主なんだけど?



「皆さん、おはようございます。今日は学園の学生が少しだけ見学します。

 では本日は、発想の転換と想像力についてお話しします。

 発想の転換とは、出来ないを出来るに置き換えることであり、古い考え方を脱ぎ捨て、自由な発想で能力を使えば、前進できると思考することです。

 想像力は、こんなことができたらいいなと思いを膨らませることから始まります」


 私は教壇に立ち、踏み台に上がって今日のテーマを黒板に書いていく。

 ここで学園の子供たちにはお帰り頂く。もう絡まないでよね。

 そして、私が空間収納を使えるようになった切っ掛けを、笑いをとりながら話し、研究員たちの興味を引く題材をピックアップしていく。

 

「【炎】持ちのレイラさん、最近不便だなあって思うことはありませんでしたか?」


「えっ? そ、そうですね、毎朝寒いので、水で顔を洗いたくない……いえ、これがお湯だったらなあと思いました」


 ルビーの瞳に燃えるような深紅の髪のレイラさんが、恥ずかしそうに答える。


「そうです。その発想こそが大切なのです。どうせ水しか使えないと思い込んでいるのが古い考え方で、お湯で顔を洗えたらどんなにいいだろうと想像することこそ、能力を前進させていく一歩なのです」


 そう言って私は、熱伝導のいい拳大の黒い石を空間収納から取り出し、レイラさんを教壇に呼んで、小さな炎で石を熱してねと頼む。

 僅か30秒、アルマイトみたいな金属の洗面器に入っていた拳大の黒い石は、熱々に熱せられた。

 私はまたまた空間収納から大きな水筒を取り出し、水を洗面器に注ぐ。


 湯気がもわもわと立ち上り、室内の乾燥を防いでくれる。

 軽ーく混ぜてから、皆を手招きし教壇に集める。

 笑顔でどうぞと、全員の右手を洗面器の中に入れさせた。


「まあ、本当にお湯だわ」


 レイラさんが感嘆の声を上げると、皆も驚いたように目を見開き、嬉しそうに頷いてから、キラキラと熱い視線をレイラさんに向ける。


「どう? これで毎朝冷たい水で顔を洗わなくていいでしょう?

 できない……を、出来るにすると笑顔になるわよね。

 もしも私が【炎】持ちだったら、洗面器一杯10トールで友達にサービスするわ。

 ただし、この大きさの鉱石は原価でも4,000トールするから、貴族の令嬢なら50トールは取らなきゃね」


 私はレイラさんに向かってウインクして、しっかり稼げとアドバイスする。

 彼女の家は下級貴族で、金銭的には学園に通うのも厳しい。

 頑張って教会病院でバイトをしているけど、冬用のコートはあちこち擦り切れていた。



「さあ、では今の課題をもっと前進させるとしたら、どんな方法があると思いますか? 【水】持ちのカーセ研究部長?」


 カーセ部長42歳は、嫌われ者のネスラー所長の下でこき使われている人だ。

 私としては、あの所長を見切ってこちら側に来て欲しい。

 マセール王国の子爵家出身のカーセ部長は、上司の仕事を手伝うばかりで、自分の成果を出せていない。

 昇進させる気のない上司は、部長を次の教授になんて絶対してくれない。


 ……彼のオーラは時々暗く沈むけど、私の講義を受けている時は明るい黄色になる。きっと、もっと自分の能力を伸ばしたいはずだ。


「そうだな。あり得ない話をするなら、【水】持ちが直接自分の能力を使って水を湯に変えるってところだろうが・・・」


「その通りですわ。挑戦していないことを不可能だと決めつけていたら、全ての能力は何も前進しません。

 もしもカーセ部長が水を湯に変えられたら、それは時代を大きく前進させたことになるでしょう?

 次世代能力研究って、そういう発想なんです。面白そうだと思いません?」


 ……さあいらっしゃい、へい、いらっしゃい。私は挑戦者を歓迎するわ。


「不可能だと決めつける……か。そうだな、これまで教師や上司が無理だ無駄だと決めたことは、何一つ挑戦さえさせてもらえなかった・・・と思っていたが、どうやら古い考えに囚われていたのは、私自身だったようだ。

 時代を大きく前進させる挑戦・・・次世代能力かぁ。

 なんだか、本当に水を湯に出来る気がしてきたよ。マシロ客員講師」


 カーセ部長はそう言うと、私に握手を求めた。

 私はその手を取り、同じように上司に伸びる芽を摘まれている者や、部長の話に感動してウルウルしている研究員に向かって、極上の笑顔を向け()()()を打った。


「ホワイティ商会は、挑戦者を応援します。

 不可能を可能にしたくなった人は、挑戦内容を書いたレポートを商会長である私に提出してください。

 私が応援したいと思った研究には、10万トールの研究費を出します」


 ……産学連携は、時代と商会を発展させるために必要だもん。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から新章スタートします。これからも応援よろしくお願いします。

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