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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
商団主ましろ

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20 災難を呼ぶ者たち(2) 

 相手は私を知らないようだけど、私は目の前の少年が第2皇子だと知っている。

 【原初能力 動力】持ち特有のシルバーの瞳に、銀色の短髪。上位学校騎士課の1年だが、どうも学校での評判もよくないらしい。

 だからこそ遠慮なんてしない。不敬なんて関係ない。


「では、貴方ならこの本の内容が理解できるのかしら? 此処に居るということは王族でしょう? 私を常識知らずの無学なチビだと断言したんだから、その言葉の根拠となる頭脳を示してくれる?」


 私はテーブルから落とした【商業法と税】という本を拾い上げ、少年の前にスッと差し出し、完全に上から目線の物言いをする。

 心は上から目線だけど、実際は凄く身長差があるから、上目遣いになっている気はするけど関係ない。


「この私を王族と知っていての生意気な態度か・・・フン、基本学校の子供が読むような本などバカでもわかる」


 鼻で笑いながら乱暴に本を奪った少年は、表紙を見ておや?と表情を変え、私の顔と本の表紙を何度も交互に見て、再びフン!と悪態をついた。


「親か兄弟に頼まれた本だな! さもお前が読むような口ぶりで王子である私に命令するとは、処罰されても構わないようだな」


 ……なにコイツ、従兄のパーシルと同類? いや、地位と権力がある分、(たち)が悪いわね。


「は~っ、やっぱり分からないのね。勉強してるようには見えないもの。商業法は、上位学校の商学コースでしか習わないそうだし。

 商業法第2章は商会について。第3章は商会認定の条件だったと思うけど、違ったかしら? 第1章は、商店・商団の設立よね?」


 私は憐みの視線を向け、ほら、早く本の内容を確認しなさいって、顎と視線で指示を出す。

 少年はカッと目を見開き、そんな馬鹿なという顔をして目次を開く。

 怪訝そうな表情は、予想通り怒りの表情に変わっていく。


「お前、今、この俺をバカにしたな!」


「ええ、わずか10歳の少女を恫喝し、都合の悪いことは認めない狭量な人間ですもの、そう感じたのなら、負けを認めたってことよ・・・」


 恥ずかしくないの?と続けたかったのに、突然、持っていた本で思いっ切り右肩と右頬を叩かれた。

 身構えてなかった私は、回避できずに吹っ飛び、少年はコソコソと逃げだす。

 さすがの私も、堪忍袋の緒がキレたわ。ブッチブチにね。


「命が惜しければ、2度と私の前に顔を出さないで!」


 こういうバカボンには、目には目を歯には歯をじゃなきゃダメなパターンが多い。優しく常識を教えるとか、分かりあうまで語らうなんてもんじゃ効果なし。

 一旦ガツンといかされる経験をしなければ、他者が味わう恐怖心や痛みを理解できないだろう。

 井の中の蛙大海を知らずだよ。大海ってーのを教えなきゃダメ。


 ……もちろん私は教えないよ。その役目は国王とか王妃でしょう?




 屋敷に戻った私の、真っ赤に腫れた頬を見て養父母は青ざめた。


「また刺客に襲われたの? それとも親族? いったい誰が私のマシロにこんなことをしたの?」


「オリアナ様、第2皇子です」と、低く凍るような声で告げたのは私の護衛のアステカだ。


 アステカは王宮図書館の扉の外で待機していて、王子の怒鳴り声が聞こえたところで、扉を開け私の無事を確認した。

 私は大丈夫だという視線を送り、アステカは扉を少し開いた状態で私を見守っていたから、一部始終を見聞きしていた。


「なんだと! あのクソ王子、こんな可愛いマシロに手を上げるとは!」と、父様はブちぎれた。


「ホ、ホホホ、王も王妃も神の怒りが怖くないようだわ。マシロの諭しに感謝するのが当然なのに、あろうことか暴力を振るうなんて・・・2度と王宮には行かなくてもいいわマシロ」


 母様はそう言って私を抱き締め、「ごめんなさい」と謝りながら泣き始めた。

 母様の涙につられて、私も「痛かったー」って泣き出してしまった。


 説明を終えたアステカは、私に【聖 癒し】を施し、絶対に許せないと体を震わせ、これから直ぐにセイント・ルビネスに報告すると言って足早に出ていった。


 その日の夕方養父母は、王宮に対し謝罪要求と、今後オリエンテ商会は皇子たちに金銭的援助をしない旨を書いた書状を送り、教会からは第2皇子の破門状が届けられた。

 慌てた国王と王妃から詫び状と見舞いの品が届いたが、私は受け取らなかった。


 ……だって、第2皇子が謝りに来たわけじゃないもん。




 あの事件から、わずか数週間しか経っていないのに()()()()()

 まあ王族っていうのは、こんなものなのかもしれない。

 見た目10歳の少女だし、にこにこと愛想よく、敬語で話し掛ける私は、この人たちにとって、怖くもなく敬うべき人間でもないってこと。


 でもね、私はセイント・ルビネスに【マーヤ・リー】がどういう存在で、世間でどう扱われているか学んで知っているのよね。

 国王は私をマシロ様と呼んでいるけど、あの【様】には信仰心も畏れも入っていないってことを、今回のことで私は身に染みた。


 ……王妃、あなたは簡単に、息子を許して雇えって言うのね。

 ……だったら、お互い身に染みるべきだと思わない?


「出資金は結構です。そんなお荷物を押し付けられても困りますから。

 私はその者に、命が惜しければ、2度と私の前に顔を出すなと言ってありますが、もしかして王妃は・・・私の予言を訊きたいのでしょうか?」


 この大陸で【マーヤ・リー】の予言を訊くこと、それは、これから起こり得る災害・飢饉・戦争などを、事前に知りたいと願うことであり、訊ねた者はその対価として、【マーヤ・リー】の望むモノ(財・地位・()()()())を差し出さねばならない。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から第3章がスタートします。

第3章からは、隔日の更新となります。  

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