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2 私は誰でしょう?

 ◇◇ エドモンド ◇◇


 自分の所へ子供が落ちてくるよう風を操って、なんとか海に落下させることなく船長は両手で子供を抱きとめた。


 いったい何をどうやったら、空から人が降ってくるんだ?

 いや、嵐に飛ばされてきたのか?

 この身形だと、どう見ても貴族の子だ。それも、かなり高位の貴族だ。そうじゃないなら大商人の娘に違いない。

 子供用とはいえドレスの生地は最高級品だし、レースまで使っているのだから。


 身元を示すような荷物は何も無いが、唯一の手掛かりとなりそうなのは金の指輪だ。

 私はちっちゃな指から指輪をそっと外し、内側に刻印がないかを確認する。


「【D12】が生まれた年を表すとしたら、マセール王国だな。

 あの国は、新しい王が即位したら元号が変わる。現在の王はダグラス・デ・マセールで、現在はダグラス15年だ。

 この子がマセール王国で生まれたのなら、現在は3歳。間違いないだろう」


 胸元に白いレースをふんだんに使った赤いドレス姿の女の子は、直ぐに私の船室へと運び込まれ、船医が健康状態をチェックした。

 顔色は、とてもいいとは言えない。

 外見からではケガをしているようには見えないが、胸元の白いレースには、べったりと血が付着している。


「この子にはケガはありません。恐らく、高い所からの落下で気を失ったのでしょう。しかし、どうやったら空から・・・それにこの血は・・・」


 船医のフランは、脱がせたドレスの血を見て顔を曇らせる。

 高位貴族の子供であれば、何某かのお家騒動で殺されそうになった可能性が高い。

 だからって、こんな小さな子供の命を狙うなんて尋常ではない。


「【MMM】は何だろう? 普通なら本人の名前か家名が刻まれるのに。

 でもまあ、マセール王国の高位貴族であれば、原初能力持ちの可能性が高いから、瞳の色を見れば何処の家の者か分かるだろう。

 だが、再び命を狙われる可能性を考えると、慎重にことを運ぶ必要がある」


 指輪に刻まれていたのは【D12 MMM】で、現時点で判明しているのは年齢くらいだ。

 3歳なら自分の名前くらいは言えるだろうし、何処から来たのかだって言えるのではないか?



 結局、商船ランカスターが目的地であるシュメル港に到着するまで、謎の幼女は目を覚まさなかった。

 念のため船医のフランを連れ、私はオリエンテ商会シュメル港支店の別館へと急いだ。




 ◇◇ ましろ ◇◇


 ふと目を覚ますと、小ざっぱりと整えられた部屋の中に居て、ベッドに寝かされていた。


「ああ良かった。とりあえずベッドがあるし、ガラス窓があるくらいには文明が発展してる。窓の外には青空と白い雲。どうやら地球と似た環境みたい」


 そう呟いて、自分が転生した世界を観察する。


 ……ん? 赤ん坊に転生したはずなのに、私、今普通に喋ってなかった?


 急いで布団の中から両手を出してみる。

 小さい。小さいんだけど赤ん坊とは違う気がする。

 ガバッと起き上がり、自分の体をパタパタ触りながらチェックする。

 ちゃんと服を着てる。綿のような生地の服だ。着心地は悪くない。


 ・・・あれ? 私って地球人の【宮中ましろ】よね? 記憶が残ってるんだけど?


 ……確か宇宙の管理者は、緑の扉に入った魂は役に立つ記憶だけ覚えていて、必要と思われるタイミングで思い出し文明を発展させるって言ってた。

 ……中には知識を思い出しても、上手くいかない魂もあるって・・・

 ……ごく稀に、()()()前世を覚えている魂もいて、絶望するとかしないとか・・・


「ちょっとー! 運悪くって何よー! 文化レベルに馴染めるよう赤ん坊からスタートさせてよ!!」


 ハアハア。駄目だ、叫んだら疲れた。

 ベッドにぱたんと仰向きに倒れ、天井を見ながら特大の溜め息を吐く。

 これがラノベだとラッキーって展開?

 上手く子供のふりして時を待ち、徐々に実力を示して陰ながら文明を進化させるって?


 ……ないわー。


「ところで、私って誰?」って呟いて、よく分かんない冷や汗がタラリ。



 おっと、誰かが廊下をバタバタ走って向かってきてる。

 もしかして、この世界の両親かな?

 バタンと勢いよくドアが開いて、入ってきたのは大人の男性が2人。

 

 ……あぅ、アンバーの瞳のイケおじだわ。


 何やら一生懸命に話し掛けてくれるんだけど、さっぱり意味が分からない。

 とほほ、期待を裏切らず言葉が通じないなんて、どうしたもんかな。

 取り敢えず、ラノベの転生ものの幼女を見習って、こてんと首を掲げてみるか。


「なんでだ? マセール王国語もシュメル連合国語も共通語も通じないぞ」


「商会長、もしかしたら記憶を失っているのかもしれません。命に関わる体験や空から落下するという経験をしたのです。幼子には恐怖が過ぎたのでしょう」


 ……なんだかこの2人、私の家族じゃないみたいね。


「なんてことだ! オニキス、いや、よく見たらブラックオパールか?! これじゃあ、この子の家名が分からない」


 私の瞳をマジマジと見て、2人とも途方に暮れてるんですけど・・・何の話かしら? ねえ大丈夫?

 それにしても、この子の記憶は何処に行ったの? 


 ぐーっ、ゴゴギュー!


 ……うっ、恥ずかしい。お腹が鳴った。ご飯ちょうだい。  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

本日は3話同時更新しています。

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