12 行方を捜す者(1)
◇◇ イツキノ ◇◇
妻のアヤカと娘のミリアーノが忽然と姿を消してから、既に5年の時が過ぎようとしている。できる手は尽くして探しているが、手掛かりはない。
先日マーヤ教会の本部から、シュメル連合国で年齢と特徴の一つである濃紫色の髪を持つ少女を発見したと知らせを受けた。
だが、娘ミリアーノを示すもう一つの特徴である、濃いアメジストの瞳ではないという。
その少女は、豪商オリエンテ商会の養女になっていると聞いた。
「義兄様、姉アヤカは【空間】能力を暴発させ、ミリアーノと一緒に私の目の前で消えてしまったのです。
姉の持つ空間移動という特異な力が、仇となってしまったのです。
義兄様が姉を大切に思ってくださるのは有難いのですが、残された一人息子のショーヤが可哀想です。
私が大切に育てますので、どうか私との再婚をお考えください」
何度も面会を断っているというのに、義妹はしつこく私との再婚を迫って離宮にやってくる。
私はこの義妹が苦手だ。
姉アヤカが私の婚約者であった頃から、アヤカの目を盗むようにすり寄ってきて、異母姉であるアヤカの悪口を私に吹き込んできた。
……アヤカの実家であるアーレン公爵家も、マーヤ教会に捜索願いを出していたようだから、公爵家もこの義妹も同じ報告を受けたのかもしれない。
マセール王国の法律では、家族が行方不明になった場合10年が経過すると死亡扱いとなる。
ただし例外もある。王族の場合、伴侶が行方不明で5年が経過したら死亡扱いとなる。間もなく5年になるから、こうして押し掛けてきたのだろう。
「ディリーナ殿、申し訳ないが、私は妻も娘も生きていると信じています。
2人の遺体がでるか、死亡確認ができない限り、再婚する気はありません。
貴女は婚約者であるエパレ公爵家のトロイ殿に、早く嫁いでください。
アヤカもそれを望んでいました。お引き取りを」
「遺体確認と死亡確認ですか・・・分かりました。今日は帰ります」
引き攣った作り笑いを私に向け、義妹は礼をとり執務室を出ていった。
……ハーッ、婚約者のいる身で堂々と結婚を迫るとは、頭がおかしいとしか思えない。またアーレン公爵に抗議文を出しておこう。
◇◇ ディリーナ・イア・アーレン ◇◇
死んでまで私の邪魔をするなんて、なんて忌々しいのかしら。
アヤカ、あなたは本妻の子だからイツキノ様の婚約者になれたのよ。
人の空間移動という能力を、国王が欲しがったとも聞いたけれど、私だって普通の【空間】能力である、物の移動はできるわ。
容姿だって教養だって、ドレス選びのセンスだって、私の方が優れていたのに。
あの日、強引に実家に呼び出し、誰にも見付からない裏庭の林で、イツキノ様と離婚するよう迫ったら、あの女は、この私を憐れむような目で見て断った。
頭に血が上った私は、女の娘ミリアーノの手を引き、喉元にナイフをあて脅すという最終手段に出た。
「殺されたくなければ、今直ぐ離婚願いを書きなさい!」とね。
用意していた正式な書面と筆記用具の入ったバッグを投げつけ、早くサインしろと私は迫った。
でもバッグを投げた瞬間、愛しいイツキノ様によく似たミリアーノを拘束する力が弱まり、その子は一瞬の隙を見逃さず逃げようとした。
……3歳の子供のくせに、なんて生意気なの!
「お母さま助けてー!」って叫びながら、憎い姉の方へと走りだした子を見た私は、ナイフをグッと握り締め、娘目掛けて突進した。
グサッと両手に手応えがあり、私は直ぐに震える手をナイフから離して後退った。
息は上手く吸えないし、ドキドキと鼓動は激しいけれど、ナイフが刺さった娘を確認しなければと視線を向ける。
「はあ? なんでアンタが」
愚かな女は娘を咄嗟に庇ったようで、横腹にナイフが刺さっている。
チッ、これじゃぁサインができないじゃない!
あの方を手に入れるには、アンタが自ら離婚したいと願い出る必要があるのに、最後まで役に立たない女だわ。
「お姉さま、こうなったら仕方ありませんわ。2人で仲良くあの世に行ってくださいな」
この娘を残してしまっては、私の犯行がバレるわ。
フッ、ハハハ、そうよ、2人とも居なくなれば私がイツキノ様をお支えし、姉によく似た甥のショーヤを育てればいいのよ。いたぶりながらね。
そう覚悟を決めた私は、姉に刺さったナイフを抜こうと近付いていく。
「ミリアーノに、逃げて、2度と王都に戻ってはダメよ。か、可愛いミリアーノ。どうか・・・」
姉はそう言いながら娘に両手を向け、【空間】能力を発動した。
ぼんやりと木々を眺めていたら、いつの間にか姉は事切れていた。
ミリアーノは、何処かへ飛ばされ姿は見えない。
……最後まで忌々しい女だったわ。
でも大丈夫、姉の人を移動させる能力は、せいぜい王都の中くらい。
直ぐに探し出して殺してやるわ。
私はこっそり屋敷の温室に入り、スコップを持ち出した。
「あーあ、お気に入りのドレスが汚れちゃったわ」
花が咲かない古木を選び、根元に穴を掘った私は、姉の遺体を埋め呟いた。
あれから5年。長かったわ。
直ぐに見つかると思っていた娘は、今も不明のまま。
たぶん、遠くに飛ばそうと思って失敗したんだわ。そもそも人間を移動させようなんて思い上がるからいけないのよ。
「もう死んでると思って間違いないとは思うけど、禍の芽は摘んでおかないとね。お金さえ積めば、何でもする傭兵が居るらしいから頼めばいいわ」
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