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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
時代をつくる者たち

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105 狂気と凶器(5)

 全員の視線が温室の後ろにある枯れ木に向かう。

 視線の先には公爵がいて、騎士団の3人が大きなスコップで枯れ木の下を掘っている。


「お爺様は何をされているのかしら?」と、私は何も知らない振りをする。


「先日騎士団に、行方不明になっているアヤカ様の手掛かりが、この屋敷の温室近くの枯れ木の下にあると匿名の手紙が届きました。

 私は王妃様と相談し、本日アーレン公爵家に手紙の内容が真実かどうか確認に来たのです。真実であればイツキノ皇子にも確認していただきたいので」


 騎士団長は打ち合わせ通りの内容を、私と皆に向かって説明する。


「お、温室の外はさ、寒いので、イツキノ様、私たちはお茶を飲んで待っていましょう。きっと何も出てこないでしょう。

 さあミリアーノ、早くカップを戻しなさい。

 貴女とショーヤと騎士団長は外に出ても構わないわ。林の中でも何処でも行けばいいわ」


 悪女は体を小さく震わせながらも、必死の表情でイツキノ皇子にお茶を勧める。


「聖人である私に命令? アナタ、何様のつもり? そんなに死にたいなら私が処刑してあげるわ」


 私は悪女を軽く睨み、テーブルの上の悪女とお揃いのカップを持ち上げると、地面に向かって投げつけた。

 パリンとあっけなくカップは割れ、怒りと絶望で顔を歪ませている悪女に向かって、私はにっこりと余裕の笑顔を向ける。

 その隙にスピカが、毒の証拠となる悪女のカップを素早く回収する。


「ミリアーノ! お前は本当に昔から生意気だったわ。お前だけは許さない!」


 ……人の表情って、ここまで醜くなるんだ。


 怒りで我を忘れたその表情は、3歳のあの時と全く同じで、狂気の宿った瞳は獣のようで禍々しい。

 カバンから何かを取り出そうとした悪女を、アステカが慌てて止めようとしたので、私は邪魔をするなとアステカを睨む。


 騎士団長もイツキノ皇子もショーヤも、私を守ろうと一歩踏み出すけど、私が黒く微笑んでいるのに気付き、動きを止めて心配そうに私を見る。

 悪女はあの時と同じように、ブルブルと怒りで震える手でカバンの中から果物ナイフを取り出すと、殺意を孕んだ瞳で私を睨み付け、ナイフを私に向かって振り上げた。


「ディリーナ叔母さん、ほら、母様が泣きながらこちらを見ているわよ。

 父様と離婚しろと迫る貴女の身勝手な狂気によって、殺された母様がね」


 私は恐れる素振りも見せず、ほら、と言いながら枯れ木の方を指さした。

 ナイフを振り上げたまま、悪女は枯れ木の方にちらりと視線を向ける。

 視線の先では、父親である公爵が泣き崩れていた。

 もう逃げられないと思ったのか、お茶を飲もうと自分のカップに手を伸ばそうとするけど、残念ながらテーブルの上にカップは残っていない。


「嫌だわ、そんなに死にたいなら私が処刑するって言ったでしょう?」

 

「クッ、ミリアーノ! 今度こそ死ねー!」


 全ては私の罠だったと気付いた様子の悪女ディリーナは、両手で凶器をグッと握り直して私の方に向けた。


「そこまでです!」とアステカが叫んで、容赦なく悪女の脇腹を回し蹴りした。


 吹っ飛んだ悪女の手から騎士団長がナイフを奪って、温室の外で様子を窺っていた騎士たちが雪崩れ込んでくる。

 もちろん騎士の手には、私が用意させた捕縛用のロープが握られている。

 躊躇なく縛り上げていく騎士団に、悪女は最後のあがきとばかりに文句を言う。


「私は公爵の娘で、エパレ公爵家の嫁よ! 無礼者! 必ず不敬罪で罰してやるわ。違うんですイツキノ様、悪いのはミリアーノなんです!」


 ……は~っ、ここまできてイツキノ皇子なの? その執念が怖いわ。



 私はイツキノ皇子とショーヤに視線を向けて頷き、止めを刺せと命じる。


「この悪女め! よくも私の愛する妻アヤカとミリアーノを殺したな。

 お前のような醜い女、ずっと顔を見るのも声を聞くのも不快だった。

 欲にまみれた視線を向けられるだけで、ぞっとして吐き気がした。

 これでやっと、愛する妻アヤカに赦しを請うことができる」


 イツキノ皇子は、自分の罪も今の現状も理解しようとしない悪女に蔑みの視線を向け、「すまなかったアヤカ」と言って涙を零し、枯れ木の方に走り去った。


「よくも母様と姉さまを殺したな!

 聖人である姉さまに刺客まで送り付けたけど、天は聖人ホワイト様をお守りになった。きっと母様も守ってくださったはずだ。

 絶対お前を楽に死なせない。多くの人にお前の残忍さと醜さを知ってもらい、教会の前で罪人として晒してやる!」


 ショーヤはそう言うと、表情を亡くした悪女の右頬をパシンと強く叩いた。


「今のは母様の分、そしてこれはミリアーノ姉さんの分だ」と言いながら、ショーヤは合計4回悪女の頬を叩いた。

 3回目は父の分で4回目は自分の分だと言い、初めて人に叩かれ呆然としている悪女に向かって「ああ、手が穢れてしまった」と嫌悪感まる出しで言い、両手を白いテーブルクロスで拭き温室を出ていった。


「・・・・な、どうして」


 両頬を赤くした悪女は、ショーヤの後ろ姿を茫然と見つめ、力なくその場にへたり込んだ。


「騎士団長、自害しないよう猿轡を忘れないで。もしも教会の裁きの前にこの悪女が死んだら、次は王都に神の怒りが下されるわよ」


 騎士団の杜撰な捜査が招いた結果でもあるから、最後まできちんと騎士団長と騎士に脅しをかけておく。



 枯れ木の下に埋められていたミリアーノの母アヤカの白骨遺体には、悪女が刺したナイフが刺さったままになっていた。

 着ていたドレスはボロボロになっていたけど、ミリアーノには見覚えがあり、自然と涙が溢れてくる。


 急遽用意された木箱に、皇妃アヤカは丁重に納められた。

 私は聖人として娘として、死者を弔う祈りを捧げ、これからは安らかに眠ってくださいと願った。  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。 

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