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深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~  作者: 杵築しゅん
時代をつくる者たち

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104 狂気と凶器(4)

 私は無邪気そうに笑って、あんたなんか覚えていないわと悪女に念を押す。


「お父様、わたし温室と林の方にも行ってみたいです。何となく林には見覚えがあるので、もしかしたら何かを思い出すかもしれません」


 もう子供じゃないけど、まるで子供のような声でイツキノ皇子に甘えてねだる。


「ミリアーノ、外は風もあるし寒いわよ?」

「えぇっ、ダメ? ねえお爺様、いいでしょう? お願い」


 王妃に止められるけど祖父に甘えてお願いする私を、無表情で見つめていた悪女は右口角をあげニヤリと笑う。


「あらミリアーノ、王妃様も父も寒さが堪えるのよ。だから案内は私がしてあげるわ。ショーヤとイツキノ様もご一緒しましょう。

 温室の中は温かいから、中でお茶でもどうですか?」


 そうしますと返事もしていないのに、悪女ディリーナは満面の笑みを浮かべてメイドに急いでお茶の準備をするよう指示を出す。

 そして上着を持ってくるので、少し待っていてねと言って離れていった。


「お茶に毒を入れるか、ナイフを隠し持つか・・・どっちかしら」


 私はショーヤとイツキノ皇子にだけ聞こえるくらいの声の大きさで、悪女の行動を予想して言う。


「絶対にお茶を飲まないでください」と、イツキノ皇子は真剣な顔をして私に注意し、「ナイフ・・・ダメです。あの女の隣には私が座ります」と、ショーヤも真顔で言う。


「フフフ、そんな思い詰めたような表情をしていたら、作戦は成功しないわよ。

 お爺様、私たちが温室でお茶を飲み始めたら、温室の後ろにある枯れ木の根元を掘ってください。

 私たちは先に庭園を見て回るので、あの女に気付かれないよう先回りし、決して気付かれないよう、そして、情けは捨ててください」


 私の言葉を聞いた公爵と執事と騎士たちは、黙って頷くと足早に林へと向かって移動を開始する。

 王妃様には、悪女の母親を邸内に足止めするため残ってもらう。

 あの母親は、自分の娘がアヤカを殺したことを知っている気がする。だから知らん顔なんてさせてあげないわ。



 10分くらい待たされた私たちは、作戦通り先に庭園を見学する。

 イツキノ皇子の隣に当たり前のように立とうとした悪女を見て、ショーヤは右腕、私は左腕を組んでイツキノ皇子と一緒に歩く。

 いやまあイツキノ皇子ってポンコツ・・・いや、気が弱いから感情が態度に出そうなんだよね。


 勿論後ろから刺されないよう、悪女には案内役として先頭を歩いてもらう。

 悪女の後ろをアステカと騎士団長が続き、その後ろが私たち、そして最後尾がスピカだ。

 凄く不満そうな顔をしたけど、騎士団長が王族の警備のためだと言ったので、悪女は仕方なく引き下がった。


 ……どんだけ厚かましいの? 自分の感情で周囲を従わせようなんて、本当に傲慢な女。


 予想通り案内の途中で、「ミリアーノは何か思い出した?」とか「この庭園にはお姉さまと来たことがあるのよ」とかって話し掛けてくる。

 当然私は、何も思い出せないと答えて、ショーヤと楽しそうに学園の話をしながら歩く。


 イツキノ皇子は作戦通りに、「アヤカはこの庭園が好きだった」って寂しそうに話したり、「早く会いたい」と呟いたりする。

 まあイツキノ皇子は、自分が悪女を煽っているとは気付いてないけど、悪女は歩きながら無意識に両手を強く握り締めている。


 ……よしよし、効いてる。



 1月の真冬だというのに温室の中は、クリスマスローズに似た白い花やバラに似たピンクの花が咲いていた。

 日本で住んでいた家がすっぽり入りそうな広い温室の中には、花を愛でるための丸テーブルとテーブルを囲むように椅子が5脚置いてあった。

 メイドさんは白いテーブルクロスを敷き、お茶の準備をして待っていた。


 席順は、悪女を中心に右隣が私で、私の右隣がショーヤ、その隣がイツキノ皇子で、悪女の左隣には騎士団長が座った。

 アステカは私の後ろに立ち、スピカはメイドの側でお茶やお菓子のチェックをする。


「何故騎士団長が同席するの! これから家族団欒でお茶を飲むのよ」


 悪女は隣に座った騎士団長に文句を言い、不機嫌そうに顔を顰める。


「あら叔母様、騎士団長は私が同行をお願いしたゲストよ。今は護衛ではないけれど、護衛も兼ねてお父様の隣に座っていただいているの。何か問題でも?」


 にこやかに、何を騒いでいるの?って感じで悪女を諫め、お前ごときが文句を言うなと遠回しに格の違いを思い知らせる。


「それに家族団欒なら、私と姉上と父上だけになってしまいますよ?」


 ショーヤは演技ではなく本当に嫌そうな顔をして、悪女に喧嘩を売る。

 一瞬悔しそうに顔を歪めたけど、直ぐに高位貴族でございますって感じの作り笑いで、お気に入りのお茶をお出ししますと言って、自分のバッグの中から茶葉の入った紙袋を取り出した。


 私以外のメンバーに緊張が走るけど、私がアレ?って思ったのはカップの方だ。

 この世界、マイカップでお茶を飲む貴族もいるけど、何故か私とショーヤと騎士団長のカップは同じで、悪女とイツキノ皇子は同じカップだった。


「あら、お父様のカップは素敵ね。私のと取り替えて欲しいわ」


 メイドが悪女に渡されたお茶を淹れ、皆のカップに注ぎ終わるのを待って、私はまたまた甘えた声でおねだりする。


「ああ、ミリアーノが望むなら何でもしてやろう」とイツキノ皇子が嬉しそうに了承すると、サササとスピカが動いてカップを交換する。


 交換作業の僅かな間に、私の後ろに立っていたアステカが、外で待機していた公爵たちに「掘れ」と合図を出す。


「お行儀が悪いわよミリアーノ! カップを戻しなさい!」


 悪女は大声で怒鳴り、スピカがすり替えたカップを戻そうと必死の形相で立ち上がった。


 ……あれ、これってもしかして、そういうこと?



「なんだか興覚めだわ。お父様、ショーヤ、林の方に行ってみましょう。私、なんだか思い出したことがあるの。ほら、あの木、あの枯れた木よ」

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次の更新は、1月4日の予定です。 

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