102 狂気と凶器(2)
「それではお婆様、怖い助けてと泣いている小さなミリアーノのために、段取りをお願いいたします」
「ええミリアーノ、アヤカさんの無念を晴らし、ミリアーノの悲しみを終わらせましょう。公爵もミリアーノに会いたがっていたから、喜んで要求を受け入れるでしょう。明日イツキノが到着したら直ぐに出発するわ」
お婆様である王妃は、今度こそ狂人女に鉄槌を下すわと、ミリアーノに約束してくれた。
さて、仕込みは終わった。
後は役者を揃えて現場に行けばいい。
この時代、きちんとした現場検証など行わない。しかも公爵家で起こった事件だから、あの時は証言を元に簡単な検分が行われただけだ。
あの女、捜査開始直後の証言では、姉は原初能力を暴発させたと証言している。
なのに、王宮から2人が戻っていないと問い合わせを受けた時は、近くに移動したと考え探さなかったと証言している。
暴発させる場面を見たのに、何故探さない? なんで緊急事態だと家人に知らせない? フッ、完全に矛盾してるじゃん。
……何だろうか・・・この捜査状況は。
誰も疑問に思わなかったの?
王妃とイツキノ皇子は疑問に思ったようだけど、皆はあの女の証言を信じたってことよね。
イツキノ皇子、そんなにあの女と対峙するのが嫌だったの? だからって、嫁と子供が大事なら、徹底的に公爵屋敷を探しなさいよ!
そう言えば、王宮から追放された元王太子妃と仲良しだったわね。
あの女に味方し、評判のいい皇子妃と王孫は消えた方が都合が良かったとか?
それにアヤカさんの実母は、ミリアーノが1歳の時に亡くなっているから、今はあの女の母親が公爵の正妻だ。やりたい放題できるってことね。
……これはもう、事件解決ものの小説を書いて、捜査手順とか証言の裏どりとか、証人を同行させた現場検証の必要性とかを教えなきゃいけない感じ?
翌日午前10時、深夜に戻ってきたらしいミリアーノの父親イツキノ皇子、弟ショーヤ、王妃、私の護衛であるアステカとスピカ、王宮騎士団長と騎士10名を連れ、ミリアーノの祖父の家であるアーレン公爵家へと向かう。
同じ馬車に乗ったのは、私と王妃とショーヤとイツキノ皇子だ。
僅かな時間だけど、ショーヤがマセール学園で行った学園監察官の話で盛り上がった。
イツキノ皇子は、私に対し娘のミリアーノというより聖人として接しており、私も父親面されると事件のことで文句を言いそうになるから丁度よかった。
目的地であるアーレン公爵家では、可愛い孫と王妃を迎えるため公爵夫妻や屋敷の主だった者が出迎えのため整列していた。
公爵屋敷には、王都内だというのに森のような林があり、建物は名門公爵家に相応しい歴史を感じさせる立派なものだった。
庭には随所に、家紋の空間能力を示す紫色の花を象った彫刻が置かれている。
ショーヤ、イツキノ皇子、王妃、私の順に馬車を降りると、呼んでもいない悪女が公爵夫妻の後ろから私を睨み付けた。
……やっぱり来たわね。そんなにイツキノ皇子に会いたいの? それともミリアーノが何か言うんじゃないかと心配になった?
「聖人ホワイト様、ようこそおいでくださいました。
先日の会談で頂いた情報を元に、不正を働いた大臣たちを調べ上げ、必ずや厳しく処罰いたします。どうぞご安心ください」
国務大臣として聖人の公式訪問会談に出席していたアーレン公爵は、胸を張って不正を正すと約束し頭を下げた。
……悪いけど、これから私は貴方のことも断罪させてもらうわ。
「神は全てを視ておられます。マセール王国が大国としての威厳を保てるよう、しっかりと励んでくださいね。
そうすれば、この体の持ち主であったミリアーノも喜ぶことでしょう」
「ああぁ、やはりミリアーノだった。そうして隣に並ばれると、イツキノ皇子によく似ておられる」
会議には出席していたが、王が私をミリアーノだと認めていないので、勝手に孫として接することができなかったアーレン公爵は、嬉しそうに私とイツキノ皇子を見て何度も頷く。
「そちらは?」
私は悪女ディリーナに視線を向け、知らない人物かのように公爵に質問した。
「娘のディリーナでございます。私の顔や娘の顔を覚えておられませんか?」
「ええ、何も覚えていなかったのですが、あの林には何故だか見覚えがあります」
私は首を捻りながら、ちらりと悪女に視線を向けニヤリと微笑んでおく。
これみよがしに視線を奥の林に向けると、悪女は顔を醜く歪ませる。
林の入り口には温室があり、直ぐ側には寂しそうに枯れ木が1本立っていた。思わず怒りが込み上げそうになる。
冷たい風が通り抜けたのを合図に、お婆様は屋敷の中に入りましょうと提案し、一緒にお茶をするのは公爵だけでいいと命じた。
当然悪女とその母親は不満そうな顔をしたが、王妃の命令に逆らってまで同席することはなかった。
「アーレン公爵、今日は貴方の娘であり私の娘でもあるアヤカを、この邸内で見付けるために来たのです」
メイドがお茶を淹れ部屋から下がった途端、王妃は爆弾発言をした。
「な、何ですって母上! アヤカは、この屋敷内に居るのですか?」
「ええそうよイツキノ。ショーヤとミリアーノの母アヤカさんは、この地に埋められているわ」
「ええぇーっ!」と、私と王妃以外の者が驚きの声を上げる。
数秒後、皆は王妃から聖人である私に、本当なのですかと真意を問うような視線を移した。
これまで王妃がそんなことを言いだすことはなかったから、王妃の爆弾発言の情報源は私だろうと予想したようだ。
私は何も言わず黒く微笑むと、皆の視線を集めながら、空間収納から紙を取り出しテーブルの上に置く。
そして、必要な物をさらさらと書いて公爵に渡した。
「母様を神の元へ導くために必要な物です。至急用意してください、お爺様」
紙を受け取ったアーレン公爵は、紙に書かれた【スコップ3】【棺の代用となる大きな箱】【犯人を縛るためのロープ】という文字を見て絶句した。
「アヤカさんとミリアーノを殺めた犯人は、この屋敷内に居ます」
公爵と息子のイツキノに厳しい視線を向け、王妃は第二の爆弾発言をした。
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