1 宇宙から船上へ
新作スタートしました。
1話2,000文字前後で、100話完結が目標です。
応援、どうぞよろしくお願いいたします。
「それでは、1番の緑の扉へどうぞ。期待してますよ」
宇宙の管理者は、そう言うと3メートル近い長身から私を見下ろし、笑った……ように感じた。
20XX年✕月、その日は本当にやってきた。
前年の地震だって火山噴火だって、気合を入れた備蓄と自分の占いで生き残ることができた。
だけど、これからの未来を作っていく目の前の男児を、その日の私は知らんふりして自分だけ生き残ることはできなかった。
まあ58歳まで生きたし、離婚はしたけど子供にも恵まれた。
苦労しなかった訳じゃないけど、子供も社会人になり独立したから、一人の時間を楽しむ余裕だってできた。
占い師って仕事も35年続けてこられたし、50歳を過ぎて書き始めたネット小説は、子供の頃からの夢が叶って書籍化が決まった。
心残りと言ったら、2カ月後に出版される予定の本を、自分の目で見られなかったこと。
やっと、やっと夢が叶ったのにって一瞬頭を過ったけど、目の前の男児を赤と黒の混じった砂嵐のような竜巻のようなものから、守らなくちゃって体が動いた。
それはきっと、子供を守ろうとする母性本能が私を突き動かしたんだと思うし、そのせいで死んだことは全く後悔してない。
叶うことなら、庇った子には生き残っていて欲しい。
息もできない熱が通り過ぎると、人の形をした透明に近いモノが、空へ、天へと昇っていくのが見えた。
その数は数千、いや恐らく数万を超えているだろう。
かく言う自分も、半透明になって何かの力に引っ張られていく。
……ああ、これって魂?
なんて、何処か他人ごとのように考えている自分がいる。
そして辿り着いた場所は、魂の集まる場所であり選別場だった。
此処で天国と地獄に分かれるのかと思ったら、全く違っていた。
緑色の1番から金色の12番と書かれた12色の扉があり、これまでの行いによって色分けされた魂は、進むべき扉が決められていた。
逆らったり抵抗すると、0番と書かれた黒い巨大な扉・・・ではなく不気味な池のような所に放り込まれてしまう。
0番行きの魂は、人相も悪いしガラも悪そうだから、鍛え直しかな?
私は珍しい2色持ちで、1番の緑と12番の金色の斑になっていた。
「アナタは既に輪廻転生を200回以上繰り返し、人を導く者としての役割を果たしたので、12番の扉も1番の扉も選べます。
12番は宇宙の管理者となり、様々な星へ行き管理する存在になります。
1番は、これからもっと文明を発展させるため、発展途上の星へ行き種を蒔く者になります」
魂の番人だという筋骨隆々の巨人は、予想以上に死者がでて忙しいから、どっちでもいいから早く決めろと私を急かす。
一番人数というか魂の数が多い3番とか4番の扉に向かう者は、どうやらまた輪廻転生の渦に戻り、しかるべき時に何かに生まれ変わるらしい。
「なんじゃそりゃ? もしかして12番は、UFOに乗って星々を回ったり監視したりするの? はあ? いやいや、いやいやいや無理。
緑の1番でお願いします。発展途上の星って、最低限の衣食住は保証されているんでしょうか? 赤ん坊からのスタートですよね?」
私は胸の前で手を組み、祈りながら魂の番人に質問する。
「いや、そうとは限らん。宇宙の理は一定ではない。まあ、心残りだったことでもすればいい。そなたの能力はそのまま引き継げるだろう」
私の問いに答えたのは、全身がシルバーに輝く宇宙の管理者と名乗る宇宙人?だった。
口が無いから、きっと念話で話し掛けられたんだと思う。
2分くらい補助説明を聞いたが、広大な宇宙の在り方に思考が追い付かなくなったので、命について深く考えるのを止めた。
……もしかしたら、ちょっと前まで流行っていた異世界転生? チート能力でスローライフ? 魔法に魔獣に冒険者の世界?って思ったのに・・・ちえっ、違うんだ。
「よし、あれこれ考えても仕方ない。女は度胸と根性。得意の空想と妄想さえあれば、きっとなんとかなる!」
次の生を選んだんだから、プラス思考でいこうと心の中で呟き、私は扉のその先へと一歩踏み出す。
両手の拳を握って二歩目をと思ったら、突然床というか地面が消えた。
そして目に映ったのは、深い深い底の見えない深緑色の深淵だった。
「ギ、ギャーッ! 落ちる―! 助けて―!」と叫びながら、私は意識を失った。
◆ ◆ ◆ ◆
「凄い雨と風でしたね商会長。ようやく空が晴れてきました」
日焼けした肌に鍛え抜かれた体躯の船長は、顔を覗けた太陽を眩しそうに見上げ、船も荷も無事で良かったと安堵する。
「そうだな船長。この時期にしては珍しい嵐だったが、船長の持つ原初能力【風】のお陰で乗り切れた。
雲の流れも穏やかになって・・・ん? 何か聞こえないか船長?」
「いえ何も・・・ん、んん? 商会長、あれは何でしょう? 鳥ですかね?」
原初能力【風】持ちの特徴であるラリマーの瞳を細めながら、船長は空を指さした。
指さす方向を見上げると、派手な赤い羽根の鳥が、まるでドレスをひらひらさせるが如く飛んで・・・いるんじゃなくて落下してきた。
ギャーッと、まるで人の悲鳴のような声で鳴く鳥だなと思っていたら、その落下物には翼がなかった。
そして、本当にドレスを着ている人のような姿がハッキリと見えてきた。
「なんてこった! ありゃ人間の子供ですぜ商会長!」
船長はそう叫んで走りだし、原初能力を発動させ落下スピードを懸命に操作していく。
このままでは、海に落ちるか甲板に激突してしまう。
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