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安楽死

作者: 雉白書屋

【将来が不安です。眠れなくて怖くてすごくすごく怖いです】

【毎日がつらいです。自分でもたまにそれがどうしてかわからないけど】

【学校がいやです。生きていたくない楽になりたい】

【時々、線路が近く感じます】


 政府により、安楽死が認められてから一年。希望者は全国にいたが許可が下り、実際に行われたのは、いずれも重度の疾患を抱える者数名のみだった。


 ――6


【親から毎日なぐられているので】 

【愛してた人がこの前、事故で亡くなってしまって】

【六年くらい引きこもりで親に申し訳ないから】


 安楽死希望者はネットか電話で安楽死申請書の送付を申し込みし、後に自宅に送られて来た申請書に理由を書いて機関へ提出。

 専門の職員が審査し、可である場合は許可証を発行。送付し、その後施設にて注射による薬物投与にて苦痛なく永遠の眠りにつく。

 希望すれば車による迎えも可能であった。ネット申し込みを受け付けないのは紙に書くという行為を重視したためである。

 死にたい理由を書く。それは遺書とも言える。自分を見つめ直し、冷静になるきっかけを踏みとどまって欲しいと、あえてひと手間残したのである。


 ――46


【なんか、なんとなく】

【彼氏にフラれたから】

【受験しんどい】


 実際に受理されるケースは少なく、不可と見なされた場合、許可書の代わりに相談窓口への電話番号やカウンセリングなどを勧める。


 ――046


【おなかがすいているから】

【会社をクビになったので】

【年金が減らされてもう生活できなくて】


 そういった相談できる場所の存在を知らない者たちは多くあり、安楽死の申請をきっかけに知り、結果生きる希望を取り戻したというケースは数多くあった。

 当初は野党や市民団体などから反対の声が上がったが、上記の事に加え『いつでも死ねる』というのは実際、気持ちを楽にするということで法律施行後は自殺死亡率が格段に下がったのである。


 ――2046


【家族が遠くにいます。また一緒に暮らしたいと思っているのでどうか、どうか】

【死ぬのが怖くて毎日震えています。本当に怖いです】

【助けてくださいお願いします】


 が、経済の悪化。失業者、高齢者の増大。そして生活保護者の数が増え、財源を逼迫すると安楽死申請書も色を変えた。


「おい。なに、ボーっと突っ立ってるんだ? ああ、カウントを見てたのか」


「ああ。はぁ……」


「おいおい、まさか文句でもあるのか?」


「……いいや、ないさ」


「だよな。今の政府はヤバいっと、この発言もヤバいな。ほら、さっさと仕事に戻らないと」


「ああ、わかっているよ。憂鬱だなぁ……」


【選ばないでください。お願いします。今頑張って就職先を探しているところなんですお願いしますお願いしますすぐに見つけますからお願いします】

【生活保護費をもう少し下げていただいても構いません。我慢しますだから選ばないでくださいお願いします働けないんです鬱なんですどうにもならないんです嫌だ嫌だ殺さないでください】

【私は昔、政府や慈善団体にたくさん寄付してきました。そんな私が選ばれたらおかしいじゃないですか。みんな、納得しませんよ。私は今はお金ないですけどでも昔はあったんです。あのお金を返してくれればいいじゃないですか。とにかく私を選んでは駄目です】

【神が言っています私はまだだと。私は信者です。政府の信者なのです。私を選ぶべきではありません。罰が当たりますよ必ず】

【しにたくないしにたくないしにたくないですおねがいしますしにたくないです】

【まだ、死に、たく、ない】



 国民識別番号をもとに、政府によって定められた基準以下の者に送られる真っ赤な紙は死神へ助命嘆願書。安楽死拒否の理由を書いて送り返さなければならない。が、それが認められるケースは限りなく少ない。


 ――今年の安楽死者数12046人


 それでも、かつてこの国の年間自殺死亡者数より少ないのは安楽死合法化の功罪か。

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